現在「AIMYON TOUR 2022“ま・あ・る”」で全国行脚中のあいみょん。とはいえ新曲も途切れないのがあいみょんのすごいところで、6月8日(水)にリリースされる13thシングル『初恋が泣いている』も、スタンダードでありながら進化も感じられる出来となっている。
「擬人化された初恋」というユニークな発想から生まれたにもかかわらず、世の中の真理を突くような、ある種の王道と言える楽曲となった“初恋が泣いている”。今まであいみょんの歌詞ではあまり使われてこなかった、《愛してる》という決定的なフレーズにも踏み込んでいる。それらすべてを適えることができたのは、ソングライターとしてのテクニカルなスキルがますます高まったからだろう。カップリングの“皐月”も、あいみょんの魅力である研ぎ澄まされた比喩表現が存分に味わえる仕上がりだ。インタビューでも、自信に満ちた言葉の数々を聞くことができた。あいみょんが見たという「ピンク色で電信柱にぶら下がっていた初恋」(!!)の実態も細かく語られているので、ぜひイメージしてみてほしい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=川島小鳥
“初恋が泣いている”は自信作です。“君はロックを聴かない”、“マリーゴールド”、“裸の心”と同じ匂いがした
――ツアーはどう?「かなり盛り込んだ、体力が必要なセットリストになっていて。初日はステージ降りたら倒れそうなぐらい疲れました。でもライブはめちゃめちゃよくて、楽しかったですね。7月ぐらいまではライブを軸にしつつ、その合間合間で制作をやっていきます」
――“初恋が泣いている”も間違いない名曲だよね。
「“初恋が泣いている”は、本当に自信作です」
――これはいつ作ったの? 最近?
「去年。私は自分のセンサーがあるタイプで『あ、これは!』って思ったら、スタッフさんに『はい、来ました』って連絡するんですよね。そうしたのが“君はロックを聴かない”、“マリーゴールド”、“裸の心”あたりなんですけど、この曲はそれらと同じ匂いがして。『シングルで出したい!』って思っていたので、こんな早いタイミングで出せるのはすごく嬉しいです。今の私の最高傑作で、今いちばん聴いてほしい曲です」
――実際に最高傑作だと思うんだけど、どういった実感がそう言わせるの?
「いい曲だから(笑)。もう、それしかないですね。今までの全部の曲に思っているんですけど、それを超える何かがあったし。あと、やっぱ、自分が好きでやりたい音楽っていう。そのすべてがマッチしました。ただ、できたきっかけはちょっと変なんです」
――そうなんだ!
「“初恋が泣いている”っていうワードを思いついて。『いいワードやな』、『なんか使えへんかな?』ってメモしていて。で、私、ベランダが大好きで。うちのリビングって、座ってベランダを見ていると空しか見えないんです。景色は見えないんですよ。でも、それが意外と好きで。お母さんと電話する時もベランダ出るし、妹と電話する時もビール飲みながらベランダ出るし。妹と電話しながらベランダで泣いたりするんです(笑)。『妹も大人になったなあ』とか『こんなことを私に相談してくれるんや』とか、エモーショナルな気持ちになって。お母さんとも真剣な話をしたり、楽しい話をしたり。だから、いいことも悪いこともベランダから入ってくんねんな、って。そういうの、玄関から入ってくるとかよく言いますけど、私はベランダかもって思っていた時に、『初恋』っていうものが電信柱にぶら下がっている映像が思い浮かんだので、そこから作りました。電信柱に工事の人がよじ登る棒があるじゃないですか。あれにぶら下がっているイメージだったんです」
――初恋が?
「初恋が。グデーンと」
――元気ない状態で?
「そうそう。しかも、ピンク色だったんです。ほんま変な話してるなって思うんですけど(笑)。でも、本当にそういう絵が浮かんで書き始めましたね」
――初恋という存在がグデーンと(笑)。
「そうそう。(初恋が)こっちを睨んでいるイメージで書きました。《夜になればベランダから/聞こえてくる》、《後悔を歌にしたような呪文が》って、初恋が泣いている泣き声というか。SFのような、ファンタジーに近い妄想から始まった曲です」
空想の世界やと、どんどん思い浮かぶ。まだまだ、外に出なくても家の中で曲が書けるなって思いました(笑)。見たこともないようなものを想像して書くのは面白いなって
――ちょっと無粋なことを聞いてしまうんだけれど、なんで初恋は泣いているの?「“初恋が泣いている”っていうのは、簡単に訳すと『引きずっている恋』っていう意味です。それを、ちょっと難しく言っただけです。なんか、自分の意識していないところで『やっぱりあの人のこと、ずっと好きやったんやなあ』っていう感じ。パッと見た電信柱にぶら下がっている初恋がいて、『ああ、やっぱり忘れられていなかった』、『やっぱりおる!』みたいな。空想の世界やと、どんどん思い浮かぶんです。まだまだ、外に出なくても家の中で曲が書けるなって思いました(笑)。見たこともないようなものを想像して書くのは面白いなって。歌詞とメロディ同時進行でしたし。自分の好きな言葉遊び、比喩、メロディもそうですけど、全部が詰まっていて」
――ひと言で言うと、また腕を上げたなと(笑)。ほんとそう思ったよ。
「本当ですか? 嬉しい」
――文学的で素晴らしいと思った。
「いろんな考察をしていただければ、って思います。初恋というものを引きずっている人物の歌なんですけど、SF感、ファンタジー、ホラーっぽさもあるし。説明が難しい。『どういう曲?』って聞かれたら『え? “初恋が泣いている”っていう曲です』みたいな(笑)。ほんま、自分の中の幻から生まれた曲です」
――「初恋」という概念を、こういう形で使うことは、あまりないからね。「初恋」って、甘い光の中で歌われるものじゃない?
「たしかに」
――でもあいみょんは、深夜の電柱にぶら下がったものとして書いていて。
「ぶら下がってたんです、私には見えました。しかも、ちょっと人っぽくって。全身ピンクのタイツみたいな感じで、『初恋』って書いてあった(笑)。折り畳んだみたいに、デロ〜ンって引っ掛かっていたんです。そういう絵が見えて。アホみたいなことを言っていますけど、マジです(笑)」
――電信柱のあの棒に引っ掛かっていたから、きっと小さいんだよね。
「でも、大きかった(笑)。MVの打ち合わせの時も、そういう話をしましたね。みんなハテナでしたけど」
――そうでしょうね(笑)。
「でも、小さい頃にお化けみたいなの見たこと、ありません? 私は小さい時に、窓から白くて丸い、マリオにおるテレサみたいなのが見えて、怖くてお父さんの足にしがみついた覚えがあって。でも、あんなの絶対に幻なんですよ。『初恋』も、そういう感覚の生き物に近かったです。初恋って、モノではないじゃないですか。自分の頭の中や心の中にある思い出じゃないですか。そういう自分の中に抱いている幻が、ふわっと現れた感じでした」