“初恋が泣いている”がリリースされて、ドラマでも流れて、ありがたいリアクションをたくさんいただけるのであれば、自分の頭の中に浮かんでいる変な妄想とか、変な生き物は信じようって思いました
――妄想というか、思い浮かんだひとつの光景から、ここまでの名曲を書けるっていうのは、「まだまだどこまでもいける!」って安心できたりしない?「どうなんですかねえ。こういうことって、人に話したら『頭おかしいやん』って絶対に言われるじゃないですか。これは取材やから話してますけど、同級生にはできないです(笑)。でも、今後リリースされて、ドラマ(『恋なんて、本気でやってどうするの?』)でも流れていますし、ありがたいリアクションをたくさんいただけるのであれば、自分の頭の中に浮かんでいる変な妄想とか、変な生き物は信じようって思いました」
――あと、《「愛してる?」 「愛してる」》という歌詞があるけど、あいみょん史上「愛してる」という言葉を歌詞にするのは珍しくないですか?
「あんまなかったですね。《「愛してる?」》って聞いているのが初恋っていう擬人で、《「愛してる」》って答えているのが主人公。会話しているイメージなんですよ。マンガで言うと『おやすみプンプン』みたいに、得体の知れないものがずっといる感覚ですね。それと対話している。『初恋、どうすんの?』、『忘れられへんのじゃないの?』みたいに聞かれているイメージでした」
――ここの歌詞はすんなり書けたんだね。
「何も悩んでいなかった気がします。いちばん好きなのは《小さい頃からのママの言いつけは》っていう2Aで。お母さんはそういうこと言うよなあって。私が中学生とか高校生の時にも、彼氏がどうこうとか言うと『男なんてそんなもんやで』って、よう言われてたかも。『あれってほんまなんかな?』みたいな。そういうイメージが、すらっと出てきたんだと思うんです。でも、この曲の主人公って男でも女でもないんですよ。《あの子》って言っているので最初は男の子のイメージでしたけど、《ママ》って言っているから女の子みたいな気もしますし。一人称が探りづらい曲にもなっています」
――この曲は、メロディとしてもテクニカルに作り上げた部分があると思うんだよね。シンプルな一筆書きというよりも、歌詞の持っている不思議な世界観をメロディに乗せる感じであったり、あるいは「愛してる」と歌ううえでのメロディはどうあるべきなのかをテクニカルに構築していった感じがして。だから、実は新しいあいみょんだと思ったりもしたんだよね。
「王道って言われたら王道だとは思うんです。でも、王道を少し捻っていると言いますか。こういう形は理想的で。自分の代表曲として軸になっていったらいいなって思います」
めっちゃ簡単な言葉ですけど、まだまだ売れたい。まだ、ライブハウスにお客さんが10人来てくれるか――ぐらいの気持ち。やっぱ私は、まだまだできるし、曲もあるし。魅せられたらいいなって思います
――2曲目の“皐月”も素晴らしい曲で。「いいですよね。またミツメの(川辺)素くんに(プロデュースを)頼みまして。レコーディングもめっちゃ楽しかったです。あと、初めて男声コーラスが入ってます。最初は私がオクターブ下で歌っていたんですけど、女声のオクターブ下って声が潰れちゃうんですよ。だから『ちょっと歌ってくださいよ』って(素くんに)歌ってもらったらめっちゃよかったので。私、男声コーラスを入れるの、憧れだったんですよ」
――これもまた、たまらなく詩的ですね。“初恋が泣いている”と繋がる比喩のうまさで。あいみょんの比喩がものすごい精度になっていると思いました。
「ありがとうございます。これはイメージしながら作った記憶があります。スローモーションで時が進むと、ゆっくりものが見えるから悪いものをすり抜けられるな、とか。ストップモーションは、カチカチ動くから、いらんページ飛ばせるな、とか。もし自分の世界をストップモーションで描けるとしたら、すぐ先にウンコ落ちていてもピッてやれば踏まなくて済むわけでしょ(笑)。『もし世界がスローモーション/ストップモーションになったら』ってイメージした曲ですね」
――明らかに、あいみょんの表現精度が深まっているよね。
「でも、曲を作っていると『“裸の心”みたいにわかりやすい曲のほうが絶対にいいやん』って思う時もあるんです。ちょっと比喩が深まったりすると、一気に難しくなると思って。『これは誰が求めてるんやろ?』とか思いますし。でも、自分がよければいいと思っている部分もある(笑)。正直、歌詞なんて自分がわかればいいんですよね。今はそっちのスタンスです」
――聴き手の解釈の裾野みたいなものを、ちゃんと広げていっていると思うよ。
「今年は初めての試みで、曲作りをセーブしているんです。あえて作らない」
――あ、そう? それはどうして?
「ライブがあるからです(笑)。作る時間がないなら、無理して作らんくてもいいっていう。なんかもったいない気がして。ほんまにいいメロディを思いついた時に、(時間がないと)それをいい曲にちゃんと最後まで仕上げられへん気がして。だから、ちゃんといい曲に仕上げられる時にだけ作ろうって。“初恋が泣いている”も、ほんまにふとできたので」
――表現者としての腕っぷしがまた上がったあいみょんの、すごく大事なシングルだと思います。
「めっちゃ簡単な言葉ですけど……まだまだ売れたい。恥ずかしい(笑)。でも、そういうことです。今の気持ちで言うと、ライブハウスにお客さんが10人来てくれるか来てくれへんか――ぐらいの感じですね」
――まだそこなのか(笑)。
「今そこです、逆に。言っても、まだ(デビューして)5年じゃないですか。やっぱ私は、まだまだできるし、曲もあるし。魅せられたらいいなって思います」
あいみょんが13thシングル『初恋が泣いている』について語ったインタビュー&撮り下ろし写真の全貌は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号に掲載!