ドラマストアから3年ぶりの2ndフルアルバム『LAST DAY(S) LAST』が届けられた。磨き続けてきたポップセンスがさらにモダンに花開いた“月と旅人”や“ピクトグラム”といった新機軸のリード曲、BIGMAMAの東出真緒がバイオリンで参加した切なさと美しさが際立つ“夕立の唄”など、音楽的な表情の豊さと、聴き手の人生に訴えかけるような詩情を兼ね備えた一作だ。これまで、どこまでもロジカルにそのポップの世界を構築してきたドラマストアだが、この『LAST DAY(S) LAST』には、そんなバンドの理性と、彼らが本来的に持っていた野性が溶け合う、とても魅力的な音楽世界が広がっている。本作から見えてくるバンドの変化と本質を、メンバー全員取材で語ってもらった。
(追記)この記事を掲載する前日、ドラマストアは2023年1月末日をもって解散することを発表した。このインタビューを改めて読み返してみると、『LAST DAY(S) LAST』というアルバムの内容について彼らが語ってくれた言葉の一つひとつが、彼らの今の気持ちや、この先への想いを伝えてくれているような気もしている。取材現場は和気あいあいとしていた。彼らはユーモラスに、そして、ちょっと醒めた感じで(ここがドラマストアらしい)、いろんなことを語ってくれた。今となっては大きな意味を感じてしまうアルバムタイトルだが、それでも、「LAST」という単語には「終わり」だけでなく「続く」という意味があることは、ここでも強調しておきたい。
インタビュー=天野史彬
メールで確認し合って「OK、OK」で済むような内容の楽曲たちではなかったんだと思います(長谷川)
──新作『LAST DAY(S) LAST』、作り手の人生観や死生観まで伝わってくるような、厚みのある作品ですね。作り出すにあたりコンセプトはありましたか?長谷川 海(Vo・G) コンセプトは全然なくて。僕らがアルバムを作る時って、意味はあとからつけることが多くて、アルバムタイトルも最後にすべてを総括するようにつけることが多いんですけど、今回もそのパターンでした。『LAST DAY(S) LAST』って、「日々は続いていく」みたいな意味合いなんですけど、決して「輝かしい明日が待っている」という感じではなくて。もどかしい日々の中で、後ろ向きに考えてしまうことも多いけど、それでも小さな希望を引き留めながら明日に繋いでいこうぜっていうニュアンスになればいいなと思って、「LAST」という単語を使ったんです。
──あくまでも「終わり」を起点にするために、「continue」ではなく「last」を使ったと、資料にある長谷川さんのコメントでも書かれていますね。
鳥山 昂(G・Key) 腑に落ちるタイトルだと思いますね。「毎日」とか、そういう部分に焦点が当たった曲が集まっているので。
──コロナ禍があったからこそのタイトルなのかなと勝手に勘繰っていたのですが、実際、影響はあると思いますか?
長谷川 結構あると思いますね。やっぱり、時期としては苦しかったし、恨んでも恨み切れへんくらいの時間だったので。ただ、その中で得たものもあったんやなって、このアルバムを振り返ると思ったりもするんです。サウンド面もそうやんな?
鳥山 うん。コロナ禍に入ってプラグインもたくさん買ったし、ピアノの音色なんかも今までと違うものを出せるようになったし。たとえば“月と旅人”なんて、今までのドラマストアにはなかったサウンドになっているけど、コロナの期間があったから作れたものなのかもしれない。もちろん、時間が経って成長したからこそできたことなのかもしれないけど。
高橋 悠真(B) コロナ禍がなくても得ているものはあると思うけど、コロナ禍の時間の過ごし方によって得たものは、確かにあるよね。
鳥山 ただ、僕らはそこまで極端に作り方を変えたわけではなかったんですよ。リモートで制作したりはせずに、4人で直接スタジオに入るやり方は変えなかったんです。
──変えてしまうと損なわれるものがある、という危惧からですか?
長谷川 易しく、わかりやすく言うなら、温もりでしょうね。メールで確認し合って「OK、OK」で済むような内容の楽曲たちではなかったんだと思います。それはこのアルバムの曲だけじゃなくて、振り返ってもそうですし、これからも変えたくない部分で。今回は「やりたいこと」をやれた度合いが強いアルバムだと思うんですよね。僕のデモや書き下ろしから作り出す曲が多かったですし。
松本 和也(Dr・Cho) 今回は基本的に、8年間で溜まった海くんの何百曲というデモの中の「いい曲」を上から12曲を選んで入れたら名盤になるやろうっていう単純な感じで曲を集めたんです。もちろん、僕らは一枚のアルバムの中にもいろんな振り幅があるものを作りたいので、「この曲はライブのこのタイミングでやったらこんな雰囲気になりそうやな」なんてことも考えつつ、ですけど。
大げさな旅ではなく、お手軽でマイペースな旅をし続ける人間もいていいんじゃないのかな(長谷川)
──先ほど名前が挙がった“月と旅人”は、音楽性はもちろん、MVのテイストも今までのドラマストアの雰囲気と違うなと思ったんです。この曲はどのように生まれたんですか?長谷川 これは、僕のピアノからですね。MVは安室(奈美恵)ちゃんの“Baby Don't Cry”みたいなことをしたくて。流れてくるビートに乗せて、散歩するようにずっと歩き続けたかったんですよ。
松本 この曲は、大体曲も出揃ってきた頃に海くんが「俺、これやりたいねんけど」ってピアノを弾き始めて、そこに軽く合わせてみたらスルッとワンコーラスできて、「あれ? これいいよね」となって。うちのバンドはスタジオに入っても、楽器も持たずに1日中喋って終わることもザラなんですよ。喋って喋ってロジカルに組み立てて、全部組み立て上がったら「じゃあ、音出そうか」となることが多かったんですけど、“月と旅人”は「ちょっとこれ、1回鳴らしてみようぜ」っていうところからできたんです。楽しかったですね、初心にかえった感じがあって。
──“月と旅人”は、歌詞も曲の歩調に合っていますよね。
長谷川 「三日坊主でも、やらへんよりましだろう」みたいなことを書きたいなと思ったんです。「3年後、5年後にこうなってやる!」みたいな感じで遠くを見て歩くのも旅やけど、「とりあえず今日頑張ってみよう、明日はわからへんけど」っていう感じで進んでいくのも、ゆとりならではの旅なんじゃないかって。大げさな旅ではなく、お手軽でマイペースな旅をし続ける人間もいていいんじゃないのかなと思ったんですよね。「とりあえず、今日頑張ろう」がずっと続いていく旅というか。こういう自分の性格だから、このアルバムタイトルになったのかなって思うんですけど。
──「大きな旅」ではなく「小さな旅」というか、今なぜこういうことを書こうと思ったのか、思いあたる理由はありますか?
長谷川 いや、そういうことはあまりなくて。僕、「曲は曲、歌詞は歌詞」っていう感じで書かないんですよ。メロと言葉がいっぺんに出てくることが多いんです。なので、「こういう歌詞を書きたい」と思うというより、「こういう曲が降りてきたな」っていう感覚のことが多い。「1行目がこんな感じやから、こんな曲になるんやろうな」って……『HUNTER×HUNTER』に出てくる自動書記のやつみたいな(笑)。
全員 ははははは!
──なるほどなあ。でも、しっくりくる言葉としっくりこない言葉がきっとありますよね?
長谷川 あります、あります。しっくりこない歌詞は、そもそもメロディごと忘れます。「これいいな」と思うものが出てきた時に、一応録音はするんですけど、その録音を聴き返すことって実はあまりないんです。聴き返すまでもなく、頭の中に何回も流れてくるメロディこそ「これ、絶対にいい曲やん」となる。それが僕のパターンで、“月と旅人”はまさにそれでしたね。