WANIMAの4年ぶりのアルバム『Catch Up』、全20曲。このアルバムでWANIMAは変わった。そりゃ新しいアルバムなんだから少しはどこか変わったところぐらいあるだろう、と思われるかもしれないが、そんなことではなくて、新しいバンドに生まれ変わったぐらい変わったのだ。KENTAは「デビューアルバム」とまで言っている。そのとおりだと思う。
「本当のWANIMA」と言うと誤解も生むかもしれないが、このアルバムこそが本当のWANIMAの姿だと僕は受け取った。これまでのアルバムとは比較にならない手応えがあって、その変化と成長にとてつもない喜びを感じた。じゃあこれまでのWANIMAはなんだったの?と言われてしまうのはわかっているが、そんな議論よりもこのアルバムを聴いてみろよ、わかるから、と言ってしまいたくなる。
パンク、メロコアからミクスチャー、レゲエまで巧みに織り交ぜながらバラードまでもしっかり聴かせるハイスキルでタフなバンド、というのがこれまでのWANIMAだとしたら、今のWANIMAは「ロック」を土台にした骨太でスケール感のある楽曲がメインで、曲としての力をストレートに聴かせるストロングスタイルのバンドへと変貌している。もちろんジャンルのスパイスは効いているしバラードもあるが、一曲一曲の力と存在感が飛躍的に増しているのだ。歌詞も同様で、ほぼ全曲がストレートなメッセージで、茶化しやノリだけのワードは影を潜めた。
本気のWANIMAがここからはじまるのは明らかだ。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=岡田貴之
誰に支えられて、なんのために音楽しよるかっていう。WANIMA・KENTAとしてのあるべき姿に気づけたのが、このアルバムを作るタイミングやったと思う
――馴染みのあるWANIMAサウンドの決定版ではまったくなくて、新しいんだけど、これがWANIMAですっていうアルバムができたなあっていう。それぞれアルバムの手応えを語ってもらえればと思うんですが。FUJI(Dr・Cho)「今までのWANIMAも引き連れてブラッシュアップしたうえで、新しいWANIMAの形を表現できたフルアルバムだと思います。20曲っていうところも挑戦だったし。技術面でも、今まで自分が得意だと思っていたけど、もっと突き詰められるなあっていうところもあったし。コロナ禍以降で自分自身を見直しながら取り組めたんで、すごい手応えはあります」
KENTA(Vo・B)「ひと言で言うんやったら、今までとこれからを詰め込んだアルバム。WANIMAにとっても個人的にも、かなり分岐点になると思います。今までがなかったら絶対にたどり着いていないし。今までがあったからこそ、これから先を見据えて音を出せました。で、20曲。20曲ってかなり多いように感じるんですけど、そん中にはショートチューンが入っとったり。アルバムに入れたら埋もれるねっていう10数曲は、次出すために取っておいたり。なんかこう、自分の中では音楽しとるなっていう余裕さえ感じる一枚です」
KO-SHIN(G・Cho)「どんなときでも、どんな感情のときでも聴ける一枚に仕上がったと思います。コロナ禍でやりたくてもやれなかったことだったり、溜めたものをこの一枚に詰め込んだような。で、プラス、先も見えるような。今のWANIMAはこれだよって言える一枚になったと思います」
――これまでのWANIMAの歩みを踏まえているんだけど、それ以上に次に向かっている印象が強いアルバムだなと。誤解を恐れずに言うなら、違うバンドになったぐらいの、ものすごく大きな変化。そう言われると、違和感ある?
KENTA「いや、もうほんとにこのアルバムは、デビューアルバムぐらいの気持ちで。過去の自分が見ても、今の自分はダサいことしてないって思ってくれるんやないかな。この先、5年10年、15年後とかに振り返っても、あのときのKENTAは、35歳のKENTAは間違っとらんかったよって言ってほしかったから。自分で自分を認めるように、昨日でもないし、明日でもない、今日だけ全力で生きるっていうふうにテーマを決めてやってきました」
――すごいな。なんでこの時期にそういう、大変化が訪れたんだろう。
KENTA「たとえば過去あったこととか、人や世の中からもらってきた傷みたいなものを背負ってきて、それを振り切るのに時間がかかったんですけど。35になって、いろいろ折り合いをつけながら生きていく中で、少しずつ、人生1回っていう中で、どうしていきたいかっていうのが明確になってきたというか。誰に支えられて、なんのために音楽しよるかっていう。WANIMA・KENTAとしてのあるべき姿みたいなものに気づけたっていうか、俺はこうありたいなっていうふうに思うようになってきたのが、このアルバムを作るタイミングやったと思うんですよね」
――それは、もう人間としての大転換点というか、ほんと大きな節目だよね。
KENTA「はい。僕らより目上の方に聞くと、わりと30半ばとかで大事件とか転換期が来ている人が多かったので。そういう方から話を聞いていく中で、自分のことと照らし合わせながら考えることができたのも大きかったかなと」
――人生の転機を迎えたら、しばらく活動を休止するとか、すごいスランプに陥るとか、プラスもマイナスも含んでキャリアを築いていく人が多いんだけど。こんなにプラスの部分、聴いた人の糧になる部分だけを作品として出したWANIMAはすげえなって思いました。どんな感じで制作していったんですか?
KENTA「んー、今まで、何もない状態でスタジオに入って曲を作ることが多かったんですけど。このアルバムに関しては、一曲一曲テーマを持って、自分たちで期限を設けて作ろうっていうやり方をして、意識も変わって。過去の先人たちの音源を聴いたり、映像を観たりして、見た目とか色味とかより、日々努力しとる奴がいちばん尖っとるよな、それがいちばんかっこいいんじゃないかなって思い始めてきて。“バックミラー”とかでも歌っているんですけど。自分のためじゃなく、誰かのために生きる、みたいなことを思いながら。歌詞を見てもらったら、僕の大義とか正義とか、35歳のひとりの人間としての苦悩、葛藤みたいなのはわかってもらえるかなっていう」
――今回、めっちゃくちゃストレートに歌詞に出ているよ。ほぼ全曲。
KENTA「20代のときは、もうちょっと、ぼやっとしとったし。まあ、生まれ育ちとか、そういうのを言い訳にはしたくなかったから、世の中に対して抗っていたんですけど。30になって、自分の中で折り合いをつけられるようになってきて。今の俺やったらどういうふうに消化して音楽にして届けられるのかなとか。柔らかくなったんかもしれないですね、考え方が。今まではわりと、挑戦もせんと安パイ取ろうみたいなところがあったり。あと、人の目を気にするじゃないけど、自分が思った認知のされ方ではないとか考えているときもあったんですよ。でも、今のWANIMAがいちばんかっこいい、今ライブに来ているおまえたちがかっこいいんだよってライブでもよく言うんですけど、やっぱ、今を見てほしくて。今のWANIMA・KENTAはこうだって明確に伝えないと、もう時間はないなっていう。35やし。人間的にもそうですけど、音楽的にも、期限はないにしても、そんなダラダラやるつもりもなくって。伝えられるうちに伝えとかな、届かんくなるって思っていましたね」
――WANIMAって、傍から見ていると早く成功したじゃない。で、そのあと、スランプというか、セールスが落ちる時期もあって。KENTAは成功も満足できなかったし、落ちたことも納得できなかった。どうやったら前に進めるんだろうって突き詰めた結果、全力でやるしかないし、全力でやることに意味と大切さがあると。その結果、まさに「今」に価値があるっていうところに、必然的にたどり着いた感じがするな。
KENTA「初ワンマンもさいたまスーパーアリーナやったし。準備していた期間はすごく長かったんですけど、メディアに出るようになってからは、いろんなものをすっ飛ばしてきてしまったので、技術もなければ知識もなくって。ただ、あの頃の自分を振り返ったときに、何かを気にして自分を出せてないことが、すげえ許せなかったから。オリコン1位取ったって、『紅白(歌合戦)』出たって、すげえとこでワンマンやったって、どっか埋まらんところはあって。こっから先もその連続かなっていうのが、僕、WANIMAのKENTAという生き物だと思うんですけどね」