GLIM SPANKYが自身7作目となるアルバムに冠したタイトルは『The Goldmine』。《僕らやりたいことばかりで/枯れないゴールドマイン》……金脈は誰の中にもある、というタイトル曲“The Goldmine”のテーマが、“ラストシーン”や“不幸アレ”といったタイアップ曲、“光の車輪”や“Innocent Eyes”のような雄大で開放的な楽曲も含む個々の収録曲と共鳴し合いながら、聴く者の心にロックの愛と希望を立ち昇らせていくという、これまでとは質感の異なる作品だ。しかし、「全人類に届く日本語のロック」という理想をたぎらせていた蒼き日々の想いは、デビュー10周年を来年に控えた今も何ひとつ変わっていない――。そんな松尾レミ&亀本寛貴の現在地が、以下の発言からも充分に伝わるはずだ。
インタビュー=高橋智樹
「聴かれなかったら曲は存在しないのと同じ、もっと感覚をオープンにしなきゃいけない」っていうことを、今回いちばん強く言ってました(亀本)
――強烈なメッセージで先導する作品というよりは、聴き手の中に入ってから大事な作品になっていく、という手触りのアルバムだと感じました。おふたりにとっても、作っていく感覚の面で違った部分があったんじゃないですか?松尾レミ(Vo・G) 曲作りをするうえで、自分の中で今までこだわっていたところをNGにして、今までNGにしていたところをOKにした、というのがあって。たとえば、今までだったら「ここはもっとマニアックに行けるな」っていう部分を掘っていっていたんですけど、「そうじゃなくて、聴いてくれる人がいかに『自分のこと』を歌っているように感じられるか」を追求したり、「生活の中にスッと馴染んで、聴いてくれる人の生活をきらめかせるメロディにしたい」と思ったり……そういう方向に舵を切りましたね。こだわりたいところはこだわりたいんですけど、今の自分のモード的には「開けた広いフィールドで鳴らせて、聴いた人がその曲の主人公になれる曲」を作りたくて。そこが今までとはいちばん違うところです。
亀本寛貴(G) そういうものにしていきたい感覚はずっとあって、取り組んではいたんです。ただ、ふたりで曲作りをしてるとは言え、曲を書くのは松尾さんなので、いかに松尾さんにそういう意識を持ってもらうかを――今までも考えていたんですけど――今回はマジで言いましたね。「そういうものにしないとダメだ」「やる意味がない」くらいのことを(笑)。曲なんて毎週誰もが出しているから、「もはや曲なんて要らない!」「もうこれ以上曲なんて増えなくていい!」とまで思ってるんですよ。聴かれなかったら曲は存在しないのと同じだから、まず聴いてもらわなきゃいけないし、意味がないと思っている。「聴いてもらうにはもっと感覚をオープンにしていかなきゃいけないんじゃないか」っていう話をずっとしてたんですけど、今回は今までのアルバムの中でもいちばん強く言ってましたね。
松尾 「確かにそうかも!」って思って。今までアルバムを6枚作ってきて、今回が7枚目になりますけど、「GLIM SPANKYはまだまだこれからだ」っていうことをアルバムで証明したくて。だからこそ歌詞も、初心に戻ってめちゃめちゃ蒼い気持ちで書いたり。あとは、デビュー当時に書いてボツにしてた曲でも、新しい気持ちで聴くとOKなものがあったりして……時代が変わっていったり、自分の心が変わっていったりすることによって、過去にはNGだったものがOKになったんです。アルバムができてみて、いい意味で感性が塗り替えられていったのを感じました。
何を頑張ればいいかわからない時代に、もっとパーソナルな部分を支えていく曲を作りたいなと思って“Glitter Illusion”を作りました(松尾)
――“光の車輪”とか“Innocent Eyes”みたいな、「開放的で包容力のあるGLIM SPANKY」のイメージは新鮮でした。“光の車輪”って、曲のイメージとは裏腹に、実は結構BPM速いですよね。松尾 そうなんですよ。リズムも結構こだわって。
亀本 テンポの速い曲を作りたいと思ってたんです。いわゆるJポップ、Jロック的な、8ビートでテンポの速いノリの曲――“不幸アレ”はそういうノリで作ってるんですけど――そうじゃないけど速い、みたいな曲もちゃんと作らないといけないなと思った時に、こういうアレンジのアイデアが出てきました。
松尾 リズミカルに聴かせるけれど、メロディのリズムを大きく取ることによって、壮大さを作り上げるというところにはかなりこだわりました。馬や乗り物が広大な草原を駆け抜けるような爽やかな感じをリズムでちゃんと表せている感じがして、気に入ってる曲です。もともと亀本がカラオケ的に作ったデモに私がメロディを乗せていったんですけど、その時にはもうこの雰囲気に仕上がっていたので、そこに引っ張られて歌詞もできていったかもしれないですね。
――今までの道程があるからこその、「今」のGLIM SPANKYの開放感であり、高揚感ですよね。これは僕の印象なんですけど、デビュー当初――『I STAND ALONE』ぐらいまでのGLIM SPANKYって、革命戦士みたいだったんですよ。
松尾・亀本 (笑)。
――「全人類に届く日本語のロックを確立する」という壮大な理想にまっすぐ向かっていたし、《尖り抜いた孤高の旗を振れ》(“アイスタンドアローン”)というのはその象徴になっていて。闘いの旗を下ろしたわけではないけど、24時間365日戦闘モードでいなきゃいけないわけじゃないし、気持ちのいい景色を見ることだってあるよね、という居心地の良さが今作にはあると思います。GLIM SPANKYが進む大きな理想のベクトルは変わってないけど、その表情は変わっているという――そういう現在地すべてが、このアルバムには入っている気がしました。
亀本 アルバム制作の時に話してたんですけど、デモを作って松尾さんに聴かせた時に「これ、どういうことを歌ったらいいの?」って訊かれて、「『頑張れ』とかでいいんじゃね?」って言ったら「そういうのはいっぱい歌ってきたから! どんだけ頑張らなきゃいけないんだよ!」って言われて(笑)。「今、生きてる中で、『頑張れ』が響く人って、実はそんなに多くないんじゃね?」みたいなことも考えたりしたんですよ。自分としては、人生って常に「階段を上っていく」とか「足を前に進めていく」ものだし、それが人生のいちばん大事な価値だと思っていたんですけど……意外とみんなはそんなことないんだなって、30代になってから思うようになって。
松尾 たぶん、頑張ってないわけじゃなくて、何を頑張ればいいかわからない人が多いんだと思うんです。デビュー当時から、どんな曲を歌っていても「希望があること」を大事にしてるんですけど、今回はその見せ方が違っていて。“Glitter Illusion”は、夜の妖しい空気の中、純粋ではない気持ちを持ちながらも「結局何を大事にすべきなのか?」を考えて、「自分自身を大事にする」ことによって明日へと繋いでいく――この時代に、大きい「頑張れ!」じゃなくて、もっとパーソナルな部分を支えていく曲を作りたいなと思って書いた曲です。“光の車輪”は「自分を光で繋いでくれる何か」――それは命かもしれない、歴史かもしれない。それを何十年後の話じゃなくて、今日・明日の話としてしっかりと歌詞に描きたいなと思って作っていて。物事を細かく、明確に書く部分が増えたかもしれないですね。