フジロック1日目、ヒップホップの概念を塗り替える、ポスト・マローンの衝撃

フジロック1日目、ヒップホップの概念を塗り替える、ポスト・マローンの衝撃

今年のフジロックは本当に本当に濃かった。開催前、出演アーティストのラインアップを見て、アーティスト名を追うだけで、それが2018年のフジロックからのメッセージになっているような気がした。
N.E.R.Dポスト・マローンケンドリック・ラマー、アンダーソン・パーク……こうして書き出すだけでも、「ヒップホップ」とひとくくりにできない、自由で解放的なビートを鳴らすアーティストが出揃った感があった。
またポストロック、ポストインディーのアーティストのラインアップにも目を見張るものがあり、総合的に見て、ここ数年のフジロックの中で、最も刺激的だったと個人的には感じている。

そんなフジロック初日。折から台風12号の接近が不安視されていたけれど、この日は近年稀に見る快晴(私の記憶の限りでは、雨は1滴も降らなかった)。
昼間のグリーンステージを心地好いロックのバイブスで揺らしたGLIM SPANKY、レッドマーキーでは実験的でありながらどこか懐かしさも感じさせたポップデュオ、レッツ・イート・グランマ(ストロベリー・スウィッチブレイドの危ういキュートさが、最新のポストロック的解釈で2018年にアップグレードされた感じ)の好演、ホワイトステージでは思いきりポジティブでハッピーなロックを響かせたアルバート・ハモンド・ジュニア──。
ロックの解釈や表現は本当に多様であることを耳で、目で、肌で感じられるようなラインアップ──それを洋邦織り交ぜながら違和感なく実感できる流れを作り上げるフジロックは、やはり特別だなと思う。今年は特に。

フジロック1日目、ヒップホップの概念を塗り替える、ポスト・マローンの衝撃

もちろんこの日のヘッドライナー、N.E.R.Dのパフォーマンスも圧巻だった。“ゲット・ラッキー”のセルフカバーやケンドリック・ラマーの“オールライト”を入れてくるなど、求められているものを惜しげも無く披露しながら、明確な政治的メッセージを込めた“1000”など、伝えるべきことをストレートに突きつけてくる。「HAVE HOPE.」のシンプルな文字が会場の気持ちをひとつにしていく。

そんな中でも特に印象深かったのは、レッドマーキーのトリを飾ったマック・デマルコと、ホワイトステージのトリ、ポスト・マローンだ。
マック・デマルコは、今年1月の単独公演でも、ゆるさの中に危うさと儚さとが同居するマジカルなサウンドを存分に(エンドレスに続くんじゃないかと思うほど)聴かせてくれたが、フェスでのライブはまた一味違って、しっかり持ち時間が決まっている分、やりたいことをギュッと濃縮して楽しませてくれた印象。
『スター・ウォーズ』のテーマで登場したり、背景には『MOTHER2』のプレイ画面が映し出されていたり、唐突に「オマエハモウシンデイル」と言い出したり、いきなり倒立したり、舞台袖にいた、これからホワイトでの出番を控えているはずのポスト・マローンを呼び込みエッグシェイカーを振らせたり(もちろん会場は大歓声!)、小ネタがびっしり詰め込まれたライブは、もはやいちいちツッコミを入れることさえ野暮だと思わせる。もうひたすらに楽しい。
で、それがなぜかとっ散らかった印象にならないから不思議だった。終始ピースフルでハッピーなライブ。“上を向いて歩こう”をはさみつつの“スティル・トゥギャザー”ではシンガロングも起こって、マックもかなりのご機嫌。

フジロック1日目、ヒップホップの概念を塗り替える、ポスト・マローンの衝撃

で、この日はやはりポスト・マローンのライブ抜きには語れないだろう。初来日となった今回のステージは、おそらく長く語り継がれる伝説になるはずだ。もう「事件」だったと言ってもいい。心底やられた。
マック・デマルコのステージでのゆるい「サプライズ顔見せ」もあって、こちらとしては幾分パーティーモードの頭になっていたこともあり、完全に油断していた。1人でホワイトステージに立つポスティ。その佇まいは、さっきレッドのステージの端で適当にタバコふかしながらシェイカー振ってた人物とはまるで別人。
例えば“サイコ”でゆるやかにヒップホップのビートに身を預けようとしても、破格のスケールで会場奥まで響きわたる彼の歌声に圧倒されてしまうのだ。
ロックスター然とした生活を鼻で笑うシニカルな“ロックスター”なども、歪んだギターサウンドのトラックをバックに、強烈なオーラを放ちながら歌い上げる。
ヒップホップは彼のサウンドのベースに欠かせないものとして確実に在る。でも、そんなジャンルで語ることを完全に無効にするほど、ロックアーティストとして、シンガーソングライターとして、最高に素晴らしい歌を聴かせてくれた。
アコギで弾き語る“フィーリング・ホイットニー”、そのアルペジオと歌声のピュアなことと言ったら。“ステイ”のメロディの切なさときたら。音源で聴いた時以上の感動がそこに生まれた。
ステージに投げ込まれた観客のスニーカーに酒を注いで飲み干したり、アコギを思いっきり叩きつけて破壊したり、破天荒で衝動的なパフォーマンスと、愛嬌のある笑顔──なるほど、そういうところ、マック・デマルコとちょっとかぶるなと思ったりもして。

1日目が終わった時点で、「今年のベストアクトはもうポスト・マローンで決まりなのでは」と思ってしまったくらい、終演後しばし呆然としてしまった。
自分の中でヒップホップの概念が鮮やかに更新されていく──2日目のケンドリック・ラマーや3日目のアンダーソン・パークのパフォーマンスで、その予感は確信に変わっていくことになるのだが、その流れは初日のN.E.R.Dの洗練されたステージ運びや、このポスト・マローンの衝撃があってこそだったのだなと、今振り返ってみて改めて思う。(杉浦美恵)
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