【インタビュー】小山田壮平が新作アルバム『時をかけるメロディー』をひもときながら、旅、人生、そして音楽を語る

【インタビュー】小山田壮平が新作アルバム『時をかけるメロディー』をひもときながら、旅、人生、そして音楽を語る
もう会えなくなった人と通じ合えていた過去の記憶が、ふとそこに咲いている花に投影されて湧き上がってくることがある

──“汽笛”も喪失と追憶というテーマが浮かび上がる曲です。

「“汽笛”は、僕が福岡から大学に行くために上京したあと、最初にできた友達のことを歌った曲なんです。彼は29歳くらいのときに病気になってしまって、その後亡くなったんですけど、彼との思い出を歌っていて。汽笛が鳴り響く音に『時を越えてくる』感覚があって」

──聴いていて感じたのは『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)のイメージでした。

「ああ、それはまさにそうですね」

──“それは風のように”も、失ったはずのものが、今また胸の奥に語りかけてくるようなイメージがあります。懐かしいアメリカンポップス的なサウンドで、どこかあたたかい気持ちになる。

「大切な人との別れというのは重く心にのしかかってきたり、自分の心を停滞させてしまうところもあって。でも、自分が暗いところに落ちてしまったときにも、もう会えなくなった人と通じ合えていた過去の記憶が、ふとそこに咲いている花に投影されて湧き上がってくることがある。自分が喪失していたものを、花と風によって思い出すっていう。そういう場面場面を曲にして残すことで、思い出したことを忘れないようにするというところもあります」

──“君に届かないメッセージ”もそうですか?

「これも別れの曲なんですけど、個人的なことを歌うにしても、自分が歌にして届けるということが、聴く人の『何か』になればいいなという思いがあるんです。自分の個人的な体験をそのまま抉り出すと、聴く人になかなか伝わらないこともあると思っていて。なので、誰の体験にも置き換えられるようにという思いがあります。“君に届かないメッセージ”は別れの曲なんですけど、これから一緒に生きていこう、生きていく、というメッセージでもあるんです」


──物理的にはもう会えなくなってしまったとしても、それが本当の別れではないというような。

「そうですね。自分が覚えているし、自分の心の中にいる以上は、ともに生きているということなのかなと」

──あと、すでにリリースされている“サイン”と表題曲“時をかけるメロディー”は対になっているイメージもありました。メロディーや音楽が持つ永遠性を描いているような曲だなと。

「“サイン”は、友達との死後についての会話から生まれたような曲でした。人間ひとりの一生って短く儚いものですけど、ただ儚いだけじゃなくて、自分たちが生きているということには、何かしらの実(じつ)があるというか。自分たちが積み上げているいろんなことが、死後も何か実のあるものとして報われる予感があるというような話をしていたんですね。ざっくり言うと『死後の世界でまた会おう』という話になるのかもしれないですけど。こう言うと少しストレートすぎるかな。でもそういう願いも込めた曲ですね。音楽もそうだし、人々の営みには何かそういう実があるような気がしています。説明するのはちょっと難しいんですけど。この曲はインド帰りで作った曲でしたね。ソロ活動を始めるぞっていう頃に作って、そのときはまた違ったアレンジでしたけど、ずっとあたためてきた曲です」


──このアルバムの流れの中に“彼女のジャズマスター”があるのも、少し目線が変わって面白いですね。

「これは3、4年前に田渕ひさ子さんと対バンすることが決まって、彼女からもらったインスピレーションを曲にしたいなと思って作った曲です。田渕さんがギターを弾いていたNUMBER GIRLの音楽が、かつて自分にいろんなインスピレーションやエネルギーをくれて、そのロックサウンドへのリスペクトがこもった曲になったと思います。その対バンライブの前日か前々日にできて、ライブで演奏することができたんですけど、偶然田渕さんが『ライブ、すごいよかったから実は録音していたんです』って言っていて。『“(彼女の)ジャズマスター”聴いて帰ります』って言ってくれたのがすごく嬉しかったですね」

自分では無自覚、無意識だったりするからこそ、なんでもないような歌詞やメロディーが、幼少期の思い出とつながったりする

──アルバムのラストが“スライディングギター”で、これも音楽が続いていく、人生が、旅が続いていくというようなイメージがあって。とてもポップで明るい曲での締めくくりです。

「軽やかに終わりたいなと思って、この曲を最後にしました。“スライディングギター”はちょっと古い曲なんですよ。andymoriが終わったくらいの頃にできた曲だから、『時をかけるメロディー』というコンセプトとして見るならすごくわかりやすく存在している曲で。井の頭公園を歩いているときに、ふと飛び込んできたギターの音にハッとするという曲だったんですけど、楽しい雰囲気だし、これが最後にあるといいなと思って入れました」

──ふと耳に飛び込んできた音に触発されて楽曲を作ることは、よくありますか?

「そうですね。自分が見聞きした情報が、何かのきっかけで他の記憶とつながったり。どの曲もそういう作り方ですね。ここまで生きてきた自分の、ある記憶が、ふとしたきっかけで勝手に何かとまとまって出てくるというようなイメージです。それを意識して作ろうと思ってやるとなかなか……これまでの長い人生の情報というよりは直近のことばかりになってしまう気がするんですよね。自分では無自覚、無意識だったりするからこそ、なんでもないような歌詞やメロディーが、幼少期の思い出とつながったりする。そういう意味で言えば作曲作業というのは常に、時をかけるメロディーやリズムによって促されているというか。どんな曲もそういうふうにできているんだなと思います。『これとこれをつなげよう』っていう向き合い方では不可能なんです。自分の意識の外でつながるから」

──andymori時代にも、小山田さんのソングライティングには喪失や別れ、そしてその先にあるものというテーマはあったと思いますが、今一層このテーマが色濃く現れて、音楽が時を越えて響くものであるということを表現しようとしたのは、どういう思いがあってのことでしょうか。

「どうなんでしょうね。自分に子どもができたのは大きなことだったんですけど、生まれたときにはほぼ楽曲も出揃っていたので、どれくらいこのアルバムに影響したのかはわからないんです。でも自分のことを考えても、気持ち的には徐々に、だいぶいい大人になってきたなというふうには思います(笑)」

──アルバムは、音の重ね方も含め、細部までアレンジや音色への繊細なこだわりを感じます。参加されているミュージシャンは前作と変わらず?

「そうですね。今回またファンファン(Trumpet)にも参加してもらっていて。“月光荘”もそうですけど、ファンファンのアレンジにはすごく助けられました。あと“コナーラクへ”と“それは風のように”では、野上幸子さんにバイオリンを弾いてもらっています。野上さんは同じ中学校の後輩にあたるんですけど、うちの母親が野上さんのお母さんと知り合いで。姉が死後に出したブログ本(『えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる』)があるんですけど、野上さんはそれを読んでドイツに留学されたという話をされていて。もしバイオリンを入れたいというときには野上さんにお願いしようと思っていました」

──そのつながりも、どこかこの作品のテーマに通ずるものがありますね。

「姉がつないでくれた縁ですよね。インドもそうですしね。というのもあって、今回のアルバムはすごく直感的で無邪気な作品だというのもあるんですけど、サウンドは細部にまでこだわって抜かりなく作っているので、ぜひ、じっくり聴いていただきたいです」

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