言語の壁を越えて友達としてバカ笑いもし合うような関係性の両者は、スタジオでの遊びをきっかけに、英語・日本語・台湾語の3つの言語を交ぜた音楽を完成させた。そして、その中に心の深い部分を重ね合わせたからこそ描けるものを閉じ込めた。世界を見渡せば決して先行きが安定しているとは言い難い時代に、国家が定めるボーダーを越えて人間同士が心を交わす、その尊い瞬間を音に昇華しているのだ。この個人的な心の煌めきや楽しい時間が誰にも奪われませんように、と願いも込めて。
両者のサウンドが絡まり合って生み出されるグルーヴは最高に心地よく、BillyrromにとってはWendy Wanderとの制作によって、今までよりさらにスタジアムが似合うほどの壮大な音を獲得することができた作品ともいえる。BillyrromよりMol(Vo)と、Wendy WanderのJian Yang(Vo・B)、Ray(Dr)にオンライン取材を行い、”Nightglow Dreamer”について語ってもらった。
インタビュー=矢島由佳子
通訳=Napiro
──そもそも3人は、音楽仲間というより友達だという話を聞きました。言語も通じなければ文化も違うのに、日本でもこんなに仲良いバンドいないなっていうくらい仲良くなれたので、それを超える何かがあるんだろうなと僕は思ってます(Mol)
Mol そうですね。去年、Wendy Wanderが渋谷のduoで初来日ライブをやったんですよ。それをたまたまメンバーみんなで観に行っていて、他にもいろんなアーティストが出ていたんですけど、そのときWendy Wanderに一目惚れ、一聴惚れしちゃって。終演後に突撃して「So cool!」みたいなことを言いまくりました(笑)。
Jian Yang そのとき、Billyrromのみんなはめっちゃ酔っぱらってました(笑)。それが最初の出会いですが、仲良くなったのはWendy Wanderの日本ツアーにBillyrromを誘って、一緒に東京、京都、大阪を回ったときです。ずっと一緒にいました。みんなとてもいい人で、優しく接してくれました。
──それが今年の4月ですよね。なぜBillyrromを誘ったんですか?
Ray 日本で唯一の友達ですから!
Jian Yang ツアーの話をしているときに「日本で知ってるバンドいませんか?」と訊かれて、「ああ、この前日本でライブしたときに、酔っぱらってた日本人バンドがいるなあ」って(笑)。
Mol うるせー(笑)。
──(笑)。Billyrromのどういったところに魅力を感じていますか?
Jian Yang Billyrromのスタイル。初めて会ったときから、Molはマジかっこいいとずっと思っています。
Ray 魅力と言ったら、ステージのパフォーマンスですね。
──逆に、MolさんはWendy Wanderのどういったところに魅力を感じたのでしょう。
Mol 唯一無二な楽曲がとにかく好きです。ちょっと物寂しい感じもあって、絶対に日本からは生まれない感じがするんですよね。あとJian Yangの声が好きで、もう僕のどストライクなんです。Zeng Ni(G・Vo)の声にも僕は何回もやられてます。ライブで聴くとすっごく心地よくて、息ができなくなりそうになります。ライブでバンドが醸し出す空気感とかも、他では感じたことない雰囲気で、すごく没入感がある。それがどこから来ているのかわからないくらい、個性的な魅力があるように感じますね。もっと日本で聴かれてほしいな、もっとこの魅力が伝わってほしいなと思ってます。
──Billyrromは今年2回も台湾のフェスに出てますけど、台湾へ行くたびに遊ぶくらいの関係性ですか?
Mol そうですね。Billyrromの初台湾ライブも観に来てくれて、その翌日には温泉へ連れて行ってもらったりして。あれ、とってもよかった。
Ray 「湯瀨(ゆせ)」というところですね。
──それだけ仲良くなったのは、バンドとしてのリスペクト以外に、どういうところで共鳴し合えたからなのだと思いますか?
Mol お互いの好きなアーティストの話とかバンドマンとしての話もするんですけど、それよりもやっぱり、安い言葉を使ったら「バイブス」みたいな。そこがいちばん大きいかなと思います。言語も通じなければ文化も違うのに、日本でもこんなに仲良いバンドいないなっていうくらい仲良くなれたので、それを超える何かがあるんだろうなと僕は思ってます。
Jian Yang 僕たちも台湾でこんなに仲良い友達はいないかも。だからとても大切にしていますね。台日友好!
Ray みなさん気が合いますね。年齢も近いですし。子どもの頃に経験したことについて話したりもしたのですが、違う国でも似ているところがあるなと思いました。たとえば、子どもの頃に『NARUTO-ナルト-』を観ていたり。
Jian Yang BillyrromのLenoのことを、僕たちはいつも「カカシ先生」と呼んでいるんですよ。大阪の打ち上げでみんなが酔っぱらっていたときに、Lenoがずっと忍者の印結びを真似してましたから。
Mol Lenoができるんですよ。それで変なノリが生まれて(笑)。
日本人のライブは、生命力を感じます。命を燃やしながら演奏している姿がとても素晴らしいと思います(Ray)
──そうやってわかり合えるし、ふざけ合える関係性の中で、どういう流れで「一緒に曲を作ろう」ってなったのでしょう?
Mol 彼らが台北にスタジオを持っていて、「そこで遊ぼうよ」というところから始まりました。5月に台湾へ行ったときにスタジオに入って、みんな適当に楽器を弾き始めて、その中から生まれた曲です。「ちょっと一緒に作りませんか?」とかではなく、すごく自然な流れで、むしろ「こんな感じなら作るっしょ」くらいの空気感があったので、本当に楽しくできましたね。具体的に誰がどこを弾くかとかはあとから詰めたんですけど、そのセッションのときに、体感60%くらいはできていた感じでした。
──サウンドの方向性でいうと、お互いの好きなアーティストの話をしていたときはどういう音楽が挙がってました?
Mol ブルーノ・マーズ、PARCELS、ジャングルとか。Wendy Wanderも僕らと同じようにメンバーによって好きな音楽の系統がちょっと違ったりもして、それがみんなと被ってましたね。たとえばJonathan(Key)はヒップホップ好きで、うちのLenoも好きなので、そこでまた盛り上がったりしてました。
Jian Yang 共通の音楽と言ったら、ジャングルですね。ある日の夜にレストランでジャングルをみんなで一緒に歌ってました。
Mol 曲のリクエストができるお店だったんですよね。それでジャングルを流してもらって、みんなで大合唱してました(笑)。
──めちゃくちゃ楽しそう。できあがった楽曲に、Rayさん、Jian Yangさんはどんな印象を持ってますか?
Ray 全体的に僕らがいつもやっていることと違いますし、台湾にはこういう音楽があまりないので特別だなと思います。ドラムも、Wendy Wanderが普段やらないことが多くて、いろんなチャレンジをしました。
Mol もともとShunsukeがドラムを叩いてたんですけど、ベースもTaisei(Watabiki)が弾いてるし、せっかくのコラボなのにベースとドラムがBillyrromなのはもったいないなと思って、レコーディングまで1ヶ月もないくらいのときにRayに「叩いてくれない?」って言って。急にお願いしたのに引き受けてくれてありがとう。
Jian Yang Rayが言う通り、いつものWendy Wanderとも違うし、台湾のバンドにはなさそうな音楽で、グルーヴ感がとても心地よいですね。特に僕とMolとZeng Ni、3人で一緒に歌ったところがとても好きです。
──「台湾のバンドにはなさそう」というのは、逆にいうと、ふたりからは日本の音楽の特徴はどのように見えているのでしょう。
Ray 特に日本人のライブは、生き生きとしていて、生命力を感じます。みなさん、命を燃やしながら演奏している姿がとても素晴らしいと思います。
Jiang Yang 最近藤井 風さんのコンサートを台湾で観ましたが、本当にすごかったです。あのパフォーマンスは誰も真似できないでしょう。日本のアーティストは自分の個性が溢れ出るパフォーマンスができて、本当にすごいと思います。また、日本の音楽は聴いたら「ああ、これは日本の音楽だね」とすぐにわかります。
いつ何が起こるかわからないから必死に音楽でやっていこうね、みたいな話はします。国や文化の違いを越えて、友達といて感じたことをそのまま書いた歌詞で……続いてほしいけど、続くかわからないし、という訴えもあります(Mol)
──Billyrromにとっても、Wendy Wanderがいなければ作れなかったサウンド感に到達できているんじゃないかと思いました。“DUNE”のスケール感をバンドが習得するまでに時間がかかったという話を前にしてくれましたけど、“DUNE”よりさらに壮大な、スタジアムで鳴らすのがふさわしいサウンドができあがっていて。しかもその中で儚さや寂しさ、孤独もちゃんとあって。
Mol その通りだと思います。音数も多いんですけど、聴いていくうちに各々の魅力がどんどん滲み出てくる、スルメみたいな曲だと思いますね。
──「Nightglow Dreamer」というテーマは、どこから出てきたものですか? 街も自分の心も暗いときに光が射し込んできた景色を描いていて、一瞬の煌めきと儚さが浮かぶような曲で。
Mol 歌詞を書き始める前から「一期一会」をテーマにしたいなと思って、Wendy Wanderに言ったら「めっちゃいいじゃん」って言ってくれて、そこからJian Yangとふたりでメロディと歌詞をつけていきました。
Jian Yang スタジオでセッションしていたときからすでにMolと少し歌詞を書いてました。大半はMolが書きましたね。ありがたいです。英語、日本語、台湾語の3つの言語が入っていることも、とても素晴らしいことだと思います。僕が書く台湾語の歌詞は、一般的に覚えやすい台湾語の歌詞というより、外国の楽曲のフロウに近いので、この曲のメロディラインとピッタリじゃないかなと思います。
Mol でも、僕が英詞のところを書く前に、Jian Yangが台湾語の《僕の声が君の呼吸に従って/近づいていく周波数/街の灯りはまるで夢のよう/僕はまだ目覚めない》を書いてきてくれたんです。「夢」という言葉も彼が持ってきてくれて、それがきっかけで僕も筆が進みました。
──「一期一会」というテーマが、なぜMolさんにとってしっくりきたのだと言えますか?
Mol 言語も文化も違うのに、「こんなにいい時間が流れることがあるんだ」っていうことが衝撃だったんですよね。久しぶりにメンバーのすげえ無邪気なところを見た気がして。20代半ばのやつらが子どもみたいに遊んでる時間がすごく美しいなと思って。それこそ「カカシ先生」のノリとか、普段絶対にやらないんですけど、いい時間だなって僕も感じたし、みんなもそう思っているように映って、それをそのまま曲にしたいなと思ったんですよね。
──BillyrromとWendy Wanderは世代も近いし、世界に対して思っていることも、言語を超えて共鳴するところがあったのかなと。
Mol そうですね。いつ何が起こるかわからないから必死に音楽でやっていこうね、みたいな話はします。国や文化の違いを超えて、友達といて感じたことをそのまま書いた歌詞なんですけど……続いてほしいけど、続くかわからないし、ということを感じていて。それに対しての訴えもありますね。もともと音楽って、そういうことに対して直接訴えかけられるものでもあると思うから。
──国境を越えて音楽ができることも、自由でキラキラとした時間を続くことも、当たり前ではないし、自分がコントロールできないところで失ってしまう可能性も想像しているし。
Mol そうですね、そこの部分は大事にしました。儚さとか、そういう気持ちの部分にフォーカスした気がします。
──台湾でライブをする中では、どんなことを感じますか?
Mol 台湾のお客さんって、すごくピュアな人が多くて。ライブでもお客さんが純粋に楽しんでる印象がすごくあって、そこが台湾の魅力だと僕は思ってます。音楽市場の話とか、どういう流れで売れていくのか、日本と台湾でどういう違いがあるんだろうということに純粋に興味があって彼らと話したりしたんですけど、台湾って、聴き手が売れるものを選んでいるような感覚があるんですよね。台湾のお客さんの音楽の楽しみ方が、単なる消費で終わってないところが僕はすごく好きです。
──当たり前のものとして享受しているのではなく、心の底から熱狂して、しかもそれを外に出して表現するという。
Mol ライブの盛り上がりとか、本当にすごいですよ。すごく楽しんでいるんですよね。楽しめる時間がもっと貴重なのかなとか、色々考えちゃいますね。しかもみんな心でしゃべってる感じがある。建前とか上面じゃなくて。すべてにおいて愛がある国だなって思います。
──この曲の深みは、そういうところまでちゃんと互いに話し合ったから生まれ得たものだったのだなと思いました。『ナルト』のノリみたいなことだけじゃなくて。
Mol そうですね。ただただ仲良い友達と曲を作りましたっていうだけでもないというか、そういう気持ちはあります。
次は日本のスタジオでセッションしたりMV撮影もしてみたいです。また新しいものが生まれるんじゃないかな(Jian Yang)
フルアルバムを作ろう!(笑)(Mol)
──ミュージックビデオも、一緒に過ごした時間を残すようなロードムービー的作品になっていますよね。
Jian Yang Wendy Wanderの“I Want to Be With You”のMVと同じKEYNO監督に依頼しました。監督が「日本のバンドに台湾を案内するというのはどうですか」というアイデアを出してくれて、みんなで一緒に海やエビ釣り場など、色々な場所へ行きましたね。
Mol 本当に、遊んだだけですね。2日間、朝から夜まで、みんなでバスに乗っていろんなところへ行きました。
Jiang Yang 逆パターンもやってみたいですね。次は日本のスタジオでセッションしたりMV撮影もしてみたいです。また新しいものが生まれるんじゃないかな。Wendy Wanderにとっても、他のアーティストと一緒に曲を作ることは初めてでした。一緒に曲を作れてとても嬉しかったです。これからも長く続けましょう。また曲を作りましょう!
Mol フルアルバムを作ろう!(笑)
Jian Yang Let’s go!
──Billyrromにとって今年は、海外のチャートに入ったり海外でもライブが増えたりした1年でしたけど、台湾はじめ海外でやっていきたい気持ちは高まってますか?
Mol 自分たちがこだわり抜いた楽曲をいろんなところでやっていきたいというバンド名の由来通り、「アメリカでやりたい」「メキシコでやりたい」とかそういうことではなく、僕らは僕らで好きにやって、それが勝手に広まってくれたらいいな、という気持ちですね。その中でもやっぱり台湾は僕たちにとって大事な場所になってます。日本だけでやっていると気づけなかったことにいっぱい気がつけて、より一層、いろんなところでいろんな音楽をやっていきたいという気持ちが強くなりました。Wendy Wanderとはいつまで経っても友達でいたいですね。ずっと友達という空気感で、作りたい時に曲を作って、という感じでいたいなと思います。
Wendy Wander(溫蒂漫步)× Billyrrom
『Nightglow Dreamer』
●ライブ情報
「Billyrrom Oneman Tour 2025 “WiND”」
2025年2/9(日) 名古屋・新栄シャングリラ
2/15(土) 仙台・MACANA
2/22(土) 福岡・BEAT STATION
2/24(月祝) 大阪・Music Club JANUS
3/1(土) 札幌・SPiCE
3/9(日) 東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)
「Billyrrom Oneman Tour 2025 “WiND” in Taipei」
3/22(土) 台北・THE WALL Live House提供:Neighborwood Culture/SPYGLASS AGENT
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部