【インタビュー】1MC+1ギターの異形ユニット・Kannaはどこから来てどこへ行くのか。往年の名曲をサンプリングした新曲までの歩みを訊く

小学生からひたすらヒップホップに傾倒していたラッパーのNouchiと、ヴァン・ヘイレンに天啓を受けたギタリストのKoshiによるふたり組ユニット・Kanna。ベースもドラムもいないフレキシブルな編成はいかにも既存の枠にとらわれない新世代の在り方だが、出自もあいまってかそのサウンドからはどこか、DTM主体で作られ洗練された近年の主流とは一線を画す、血肉の通った骨太ロックのイズムを感じる。そこになんともワクワクさせられるのだ。

聞けば、当初はミクスチャーロックのスタイルでひたすらセッションに没頭する、硬派な4人組バンドであったのだそう。そこからどのように現在のスタイルに変化していったのか、往年のJ-POPにも通ずる陽性なポピュラリティの源泉はどこにあるのか。そのあたりをひもときながら、ソニー・ミュージックレーベルズからのリリース第一弾としてFLOWの“GO!!!”を大胆にサンプリングした最新作“ヤング・ムーヴメント”完成までのヒストリーを聞いた。このふたり、まだまだ伸びそうだし化けそうなのである。

インタビュー=風間大洋


今のKannaを観たり聴いたりしてくれる方には伝わらない部分だと思うんですけど、意外とどっぷりセッション界隈だった(Nouchi)

──出会いはスタジオだったそうですね。

Koshi そうですね。4人組で活動していた頃のドラマーと僕が出会ってスタジオに入ろうっていう時に(Nouchiが)ついて来たっていう。

Nouchi ドラムが高校の同級生で、他校のやつとスタジオ入るから暇だったら来ないか?って言われて、じゃあついて行くよって(笑)。本当、ただの見学って感じで椅子を出して座ってるだけで、楽器も弾けないし。やることがないことに開始5分で気づくんですよ。

Koshi 特に曲をやるとかでもなく、適当にジャムセッションする感じだったんで。

──そりゃ座ってるしかないですね(笑)。

Nouchi でもその日の夜にファミレスで飯を食いながら、なぜかバンドをやることが決定して。そのあと、もうひとり僕の同級生でベース弾いてたやつを入れて4人組になって。

──そのオーソドックスなバンド編成から、MCとギターという今の2名編成に変わったわけですけど、それに伴って音楽性も変化してきたんですか。

Nouchi ミクスチャーとかラップロックみたいな方向性はわりと初期の頃に決まってたんですけど。今のサウンドの感じになったのはベースとドラムが抜けてからかな?

Koshi うん。直後はサポートを入れたフルのバンドでやろうとしてたんですけど、ふたり組であることを際立たせるためにも同期を使っていこうとなってから、音楽性はすごく変わりましたね。

Nouchi ベースとドラムは進学で他県に行くことになって抜けたんですけど、もし全員名古屋に残ってたらこういうサウンドにはなってなかったかもしれないです。

──もっとバンド感が強い感じに?

Nouchi そうですね。サポートを入れてた頃とか、ライブでも最初の15分ずっとセッションしてたくらい(笑)、生のグルーヴに固執してたというか。今のKannaを観たり聴いたりしてくれる方には伝わらない部分だと思うんですけど、意外とどっぷりセッション界隈だったんで。メタルとかよりはファンクの要素が強いほうのミクスチャーをやってた気はします。

──それぞれが聴いてきた音楽の重なる部分として。

Koshi ちょうどそうかもしれないですね。僕は特に80年代90年代の洋楽のバンドに憧れを抱いてギターを始めて、その中にもファンクの要素はあったし、ヒップホップにもファンクの要素があるアーティストもいたりするから。

Nouchi 僕はヒップホップばっかり聴いて育ってきたので、僕がいちばん歌いやすいジャンルの歌とみんなの演奏が合わさったのがちょうど、ラップメタルじゃないほうのミクスチャーだった感じですね。

──それぞれのルーツ音楽とはどうやって出会ったんですか?

Koshi 僕の場合はヴァン・ヘイレンの“Eruption”のライブ映像をYouTubeで観て「こんなかっこいい楽器があるんだ!」って衝撃を受けて。何よりもひとりの人間が──“Eruption”って基本的にバンドがあんまり鳴ってないんですけど、ギター1本だけであんなに大勢の観客を沸かせていて。ギターがこんなにも前に出ていて、しかもちゃんと人を喜ばせられることがあるんだっていうのに、自分の持っていた概念を覆されたというか。

Nouchi 僕は母ちゃんと叔母が音楽好きで。叔母からチケットをもらってついていった2007年の「SUMMER SONIC」でSEAMOさんを観て、ラップっていうのがあるんだって子供ながらに思って。そこから気づいたらもうヒップホップにどっぷり浸かってたっていう。小学校の時はSEAMOさんとかHOME MADE 家族とか名古屋の界隈をよく聴いていて、中学にかけてスマホを手に入れたタイミングでYouTubeにTOKONA-Xのライブ映像が出てきて。そこからアンダーグラウンドなヒップホップにもめっちゃハマった感じです。Kannaを始めるまで、ほぼほぼバンドを聴いたことがなかったですね。

Photo by yuri horie

もともとお互い芯のところでポップス好きだったのが大きいと思ってます(Koshi)

──両者のルーツにあるロックとヒップホップという骨格にプラスして、ある種のJ-POP的なわかりやすいポップさへの意識も感じるんですが、それはふたりになって以降に獲得してきた要素ですか。

Nouchi そこは、ふたりになってから4年ぐらいかかりましたね。

Koshi ただ、もともとお互い芯のところでポップス好きだったのが大きいと思ってます。それまではそういう音楽をやらずに、渋い男らしさがかっこいいっていう……狭めてたわけではないですけど、無意識にそうなっちゃってたところもあったのかなって。

──そこを出してみようと思った理由、きっかけはなんだったんですか。

Nouchi かっこいいだけをやってても、面白くないなって。次世代(所属プロダクション)にお世話になってから、ミーティングで「Kannaのライブってかっこいいより楽しい印象のほうがあるんじゃないかな」って言われた時に「確かに!」と思って。それまでは、俺たちすごいだろ感を出すのに必死で、考え方によっちゃあ内向きだったな、それをお客さんが楽しめるライブにしていくことで外向きになっていくんじゃないかって。「かっこいい」から「楽しい」にシフトしたことで、自然と自分たちのルーツにあったポップミュージックが出てきたんじゃないかと思ったりします。

──その移行はスムーズに受け入れられました?

Nouchi ポップに書くのってめっちゃムズいんだってそこで気づいて。気を抜くとかっこいいこととかを真面目にラップしちゃう、それだと面白くねえなってなるんですよ。

──ラップ自体、自分語りのものだったりもするわけで。そことポピュラリティの部分には相入れない要素もありますよね。

Nouchi はい。ラップだからあくまで自分のこととして書くんだけど、ある程度の伝わりやすさも必要っていうところが、本当にいちばん難しいですね。自分のことでありながら他の人にも刺さるのって、結構限られてるじゃないですか。だから最近は歌詞を書くのがどんっどん遅くなってる(笑)。


──トラックの部分でのポップさ、キャッチーさはどうですか?

Koshi 僕らってギターとMCのふたり組で、僕もギタリストだからギターを前に持ってきたいんですけど、そうするとラップと一緒でどうしてもかっこいいに寄っちゃうんですよ。そこのバランスが最初は難しかったですね。

Nouchi それで一時期、もはやギターを嫌いになってたもんな(笑)。

Koshi そう。でも最終的にいろんな楽器を使えるようになったので、他が支えてくれるからギターは何をやっててもよくなったっていう(笑)。ある意味ツインボーカルみたいな曲の作り方が、3rdシングルの“空”あたりから固まってきて。シンセの知識がなかったから、最初は効果音的なものしかシンセを入れてなかったんですけど、ニュアンスでNouchiに伝えて「それならこれかもね」みたいな感じで最初は作ってました。

Nouchi 僕は高校時代からトラックメイカー的なこともしてたので、意外とデジタルのシンセとかは当初からやれたほうだったんですよ。そこがうまく噛み合ったのは、やっぱり“空”ぐらいかな。最近は僕がほぼほぼシンセとか入れなくなってて、上物をKoshiが作ってベースドラムのアレンジを僕がやるっていう、意味のわからない作り方をしてるんですけど(笑)。

Koshi ギターにしてもJ-POPにしても、僕の好きな音楽は上物文化が強いんですよね。で、ヒップホップのリズム文化にはどうしても勝てないし、ラップとリズムってやっぱり結びついてるから、ドラムとベースは何をやってくれてもいいよっていう。

Nouchi 『Music 1』の頃からその分業が固まりました。

Photo by イノコシ ゼンタ/courtesy of SUMMER SONIC 2025
Photo by イノコシ ゼンタ/courtesy of SUMMER SONIC 2025

僕僕ら世代がみんな知ってる曲だとやっぱりFLOWの“GO!!!”で、マジで僕の同級生を適当に集めてもほぼみんな歌えるんじゃないか?って(Nouchi)

──『Music 1』が今年の春の作品ですけど、今回の“ヤング・ムーヴメント”ではまたサンプリングという新たな試みをしていて。

Nouchi サンプリングして曲を作ってみたら面白いよねっていう、本当に軽いノリから始まって。その中で何をサンプリングしたかがちゃんと伝わったほうが面白いから、自分たちの世代のルーツにしようと思ったんですよ。音楽のルーツって人によってバラバラですけど、過ごしてきた、育ってきた世代の共通項としてのルーツも何曲かあるよねっていう。僕ら世代がみんな知ってる曲だとやっぱりFLOWの“GO!!!”で、マジで僕の同級生を適当に集めてもほぼみんな歌えるんじゃないか?っていう。何曲か候補はあったんですけど、その中でKoshiが入れてきた“GO!!!”がいちばんハマりそうだねっていうことで決定しました。

──サンプリングってヒップホップでは珍しくない手法ですけども。

Nouchi なんなら今がちょっと少なくなってるだけで、昔って何かをサンプリングした曲も多かったし、僕目線では全然普通のことだったんですけど、Koshiは苦戦してた印象がありますね。

Koshi めっちゃしました。

──そうなりますよね。原曲に入ってるギターとの兼ね合いとか。

Koshi 印象的なところはそのまま持ってきたかったし、ギタリストとしてあのリフはどうしても活かしたくて。だけどカバーじゃないんで、自分たちの良さもフレーズとしても組み込まなきゃいけない。そのバランスが難しかったです。

──でもこのギター、いいですよ。重量感でいうとわりと軽めだけどしっかり立ってる感じで、曲がヘビーになりすぎない。

Koshi “GO!!!”自体、使ってるフレーズとしてはヘビーに聴こえてもおかしくない動き方をしてるんですけど、メタルやラウドに聴こえるかっていったらそんなことなくて、ちゃんとポップに聴こえる。そこの良さをうまく活かしたかったので、そう言ってもらえて安心しました(笑)。


──言葉の部分はどう書いていったんですか?

Nouchi この曲に関してはREC日まで歌詞を書いてて。

Koshi 今までなかったもんね、そんなの。

Nouchi 《"とりあえず"大学に進学》からのヴァースは、わりと細かいことを言えるんで世間との共通項を見つけやすかったんですけど。サビでよりポップさもありつつ盛り上がってる感じの歌詞を考えるのが、本当に難しくて。デモの状態だとちょっと真面目すぎるというか、かっこいい寄りだなと思ったので、逆にもう変なこと言ってやろうと思って。

Koshi 偏差値が15くらい下がってるよね。

Nouchi (笑)。いや、僕の中では結構上がってんのよ、偏差値が。やっぱりふざけられるやつっていちばん頭いいと思うんで。

Koshi 確かにね。

Nouchi 今はSNSとかでいろんな情報を手に入れられるじゃないですか。それを鵜呑みにしてみんな真面目な方向へ行っちゃったりとか。

──知ったようなことを言えちゃうというか。

Nouchi 言えちゃうからこそちょっとバカになってみるくらいのほうが、一個肩の荷が下りるじゃないけど、気にせずに前へ進んでいけるよなっていうメッセージの曲にしたかったのもあるんで、ここに行き着いたというか。だいぶ捻り出しましたね。

──まず耳から入ってきて気持ちいいという前提をクリアしたうえで、文字で見た時に伝わるメッセージとか想いもあって、よくわからない部分もちゃんとある。

Koshi 余白がありますよね。

Nouchi このよくわかんないところは、よくわかんないままでいいなという考え方です。……改めて見ると変だもんなぁ(笑)。

Photo by yuri horie

コンプレックスとか環境とかをあえて武器にしてセルフボーストしてく文化を、もうちょっと大衆的に言えないかな(Nouchi)

──特に渾身のラインはここだった、とかあります?

Nouchi えええー!? どこだろうな……Koshi的にどこだと思う?

Koshi 僕がこの曲で毎回いちばん耳に入ってくるのは《バビロン的バリを取りバリオン》。これ、ラッパーじゃないと出せない語感の気持ち良さがあって、すっごい言いたくなる(笑)。あとは1ヴァースは頭から終わりまで入ってきますね。僕は四大の経済学部に通って3ヶ月だけ就職もしてたんで、そういう人生とも重なる部分があるいい言葉だと思ってました。……さて、見つかりましたか、渾身の1ライン。

Nouchi 僕は《カビたティッシュも誇りゃNew Art》です。

──おおー。

Nouchi ちょっと下ネタ的なニュアンスも入れたいなと思って、結構スタッフチームとも相談して、消されてしまった部分もあるんですけど(笑)。まあ、自分のダサい部分とか泥臭い部分も誇っていったら新しいアートになるよっていう、ヒップホップ的な捉え方で書いてみたというか。いわゆるコンプレックスとか環境とかをあえて武器にしてセルフボーストしてく文化を、もうちょっと大衆的に言えないかな?というところで。いちばんのパンチラインはそこかなぁ。

──いいですねえ。もう1曲の“ルックアヘッド☆ジャンプ”はどんなふうに作っていったんですか?

Nouchi これは逆にほぼデモから変わってない。

Koshi マジでシンセとか使ってない本当にシンプルなバンドサウンドですけど、僕らの原点としてはやっぱりそこで。シンセやピアノ、いろんな楽器を使った最新“ヤング・ムーヴメント”との対比を詰めたくて、ラフにシンプルなサウンドを作ったらNouchiがいい感じに歌を入れてくれたっていう。

──西海岸のポップパンクとか、そういうノリですよね。

Nouchi Kannaを始めてからいろんな音楽を聴き始めた中で、西海岸のパンクスとかをめっちゃ聴いてる時期とかあったんで。あっちの音楽って、歌の情報量がめっちゃ少ないじゃないですか。

──1番と2番で同じこと歌ってたり。

Nouchi ざらにありますよね。だからこの曲も情報量少なくていいかなって(笑)。……ディズニー(シー)にあるソアリンっていうアトラクションに乗ったことだけを1曲にしました。だからデモができた段階で、ソアリンに乗ってる一人称視点の動画も貼って送ったんですけど、誰も反応してくれなくて(笑)。

Koshi ごめん。マジでそのリンク見てなかった(笑)。

──この2曲が新しい出会いにも繋がると思うんですが、この先としては?

Koshi 今年はすごく変化の多い年だったと感じてて。今回のリリースでもサンプリングを新しく取り入れたり、活動が大きくなるにつれてどんどん自分たちの環境も変わっていってますけど、僕らはいちばん等身大でリアルなところをずっと伝えていきたいです。やってる音楽もこれから先どんどん変わっていくと思うんですよ。今はポップなことやってますけど、そのうちめちゃくちゃ聴きづらいプログレになるかもしれないし(笑)。

Nouchi マジであるな。

Koshi 変わっていくのが僕らであって、そのリアルをずっと表現していきたいので。来年以降も新しい取り組みをいろいろやるだろうけど、根底にあるのは自分たちが表現したいことと、より多くの人を楽しませたい、喜ばせたいというところなので、期待して見ててくれたらなって思います。

Nouchi 本当にKoshiが言った通り、Kannaの音楽は変わっていくと思うので。なんならまだ構想段階ですけど、僕にはその変わっていく先のイメージもなんとなくはあって。その変化をみんなには楽しんで聴いてほしい。それにこのヘンテコなリリックの中にもちゃんと、考察したり発見する余地をちりばめてたりするので、そういう楽しみ方もありなのかなって。

Koshi ただただふざけてるわけじゃないっていうね。

──おふざけの奥がちゃんとある。

Nouchi そういうリスナーの人がどんどん楽しくなっていくような音楽作りを、これからもしていきたいです。

Photo by イノコシ ゼンタ/courtesy of SUMMER SONIC 2025

●リリース情報

『ヤング・ムーヴメント』

配信中
●ライブ情報

Kanna×EMNW "2 X 2"

提供:ソニー・ミュージックレーベルズ
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部
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