【インタビュー】yamaがたどり着いた「自分のポップス」。EP『C.U.T』に込められた変化と「羽化」への祈り

【インタビュー】yamaがたどり着いた「自分のポップス」。EP『C.U.T』に込められた変化と「羽化」への祈り

(“Hanamushiro”の歌詞には)背中を押されているような感覚になって。《もうすぐ春が終わる》って終わるんですけど、春が終わるっていうことは、自分は次の季節に行けるんだって

──だから本当に武装解除感があるんですよね。どの曲もいいんですけど、個人的にはGeGさんとやった“End roll”と秦基博さんが提供した“Hanamushiro”、そして最後の“蛹”にすごく手応えを感じたんです、まず“End roll”は、yamaさんの歌詞がめちゃくちゃいい。

本当ですか。これは、今ある幸せみたいなものって永久ではない、限りがあるっていう感覚が幼い頃からあって。今一緒にいてご飯を食べて「美味しいね」っていう時間って尊いよなというか、限りがあるからこそ感じられる幸せはあるなと思って、それを書きたいなと思って書きました。よりミニマムな自分の視点から見える日常の切り取り方を、歌詞でやってみたかった。自分の死生観とかを尖りすぎない形で、むしろ柔らかく優しい形で出せないかなと思って書き始めた曲です。

──ここに書いたような人生観、死生観とかみたいなものって、yamaさんの中にはずっとあったもの? それとも年を重ねるごとに生まれてきたものですか。

結構昔からあったかもしれない。最初の体験としては、めちゃくちゃ仲よくしてたやつにいじめられたっていうのがあって。ってことは、人と仲よくできてる時間って簡単に崩れちゃうんだな、こんなに好意が裏返っちゃう瞬間ってあるんだなと思ったんです。そこでちょっと客観的な視点になっちゃって。だからずっと昔からあった人生観ではあるんですけど、とくにこれを書いた時に思ったのは、おととし、おじいちゃんが亡くなって……そのおじいちゃんが結構親同然だったんで、どんどん昔の記憶が蘇ってきたんですけど、そういう時に思い出すのって、瞬間瞬間なんですよね。写真みたいな感じ。その「よかった」「幸せだったな」「楽しかったな」っていういい思い出のひとつひとつに、死を実感すると同時に、すごく尊いものだったんだなって思ったんです。そこから、今関わってる人とか、今自分が美味しくご飯食べられていることに「ありがたいな」って自然と思うようになっていきましたね。

──ああ、だから、この曲にあるのは客観的に「そういうもんだよね」っていう視点じゃないですよね。もう1回主観に戻っていくっていうか、「私にとってはこれがとても幸せなんだ」っていう視点になっていく感じがある。

本当にそうですね。

──そういう主観のあり方がすごく新鮮だなという感じがしたんです。で、そういう意味でさらに決定的だなと思ったのが、秦基博さんが提供した“Hanamushiro”だったんですよね。

これは本当に素晴らしい曲だなと思いました。なんかこう、ところどころ出てくるモチーフがやっぱ“春を告げる”とか、自分のこれまでの音楽を思い出すような感じもして。それを秦さんが意図したのかはわからないですけど、すごく背中を押されているような感覚になって、とってもいい曲だなと思いました。この曲は《もうすぐ春が終わる》っていう歌詞で終わるんですけど、春が終わるっていうことは、自分は次の季節に行けるんだっていうこととか。音楽的な自分の人生を重ねてみると、春が終わって次の夏なのか、秋なのか、冬なのか、次にちゃんと行けそうな気がするなと思ったりして。すごくドキッとしますよね。心当たりがあることばっかり書かれてる。


──くじらさんが作った“春を告げる”の歌詞には、「春」という言葉が出てこないじゃないですか。

出てこないですね。

──だから、一般的な春のイメージに対してまったく馴染めない側の曲だったわけですけど、この“Hanamushiro”もそうだと思うんです。ここに描かれるのは決して明るくて楽しい春じゃない。でも、そういう春を超えて次に行くんだよってところまでを歌っているっていうのは、まさに“春を告げる”から始まった5年間の先へっていう物語を示唆している感じがしますね。

そうだと思います。自分も春があまり好きじゃなくて。新しい環境になって、その環境に自分が順応しなきゃいけないっていうのがすごく苦手だったんです。だから春は自分にとっては寂しくてちょっと怖くて、避けたい季節なんですけど。そのアンニュイさはやっぱこの曲にもあるなと思います。でも、すごく内省的なことを書いてるんですけど、それを相殺するように美しい景色も書いていて。すごく──。

──閉じてないんですよね。閉じこもっていない。

そうなんですよ。

──秦基博という人はずっとそうだと思うんです。劣等感とか傷とか痛みとか、そういうところから出発する曲が多いと思うんですけど、彼の曲はそこでとどまらず、その外に出ていこうとする。そういう意思をずっと歌ってる人で。そういう秦基博らしい心の在り方や矢印が、結果的に今のyamaさんともめちゃくちゃフィットしたからこそ、この“Hanamushiro”はすごくいい曲になったんだろうなって思います。

本当、そうですね。すごく「わかる」と思いながら、共感しながら歌いました。

【インタビュー】yamaがたどり着いた「自分のポップス」。EP『C.U.T』に込められた変化と「羽化」への祈り

「この手の中にあるものをそのまま出したいのに」っていう思いがあって。それが「どうか羽ばたきますように」っていう祈りみたいなものを書こうと思いました

──そしてEPは“蛹”で締めくくられるわけですけど、これはジャンルや構造的にはいわゆるポップスな曲ではないじゃないですか。当初はもっとポップスになるイメージだったとおっしゃっていましたけど。

“蛹”はいちばんメッセージも強いし、サウンド的にもすごくチャレンジしています。これは、自分が今このEPをわがままで作りたいと言った、その行為自体が、蛹から羽化する過程でもあるなと思ったんです。だからそういう今の自分を表す曲がこのEPの中で必要だなって思って作りました。

──蛹から羽化して羽ばたいていく、そういう今のyamaを象徴する曲ということですよね。

《真っ新な羽根》、《真っ白な羽根》という言葉が歌詞にあるんですけど、今までの自分の感覚として、今までは真っ白で真っ新な状態で、本当に心の中にあるものを作品に出せてたかっていうと、そうではなくて。もうちょっときれいにお化粧したり、脚色したり、ちょっと本心が伝わらないようにしてみたりしていたんです。でもずっと、実は「この手の中にあるものをそのまま出したいのに」っていう思いがあって。それを自ら踏みにじってたなと思ったんです。それが「どうか羽ばたきますように」っていう祈りみたいなものを書こうと思いました。やっぱりそれを認めてあげないと表現がどんどん狭まっていくなと思ったんで。

──その、心のうちにあるものを「出したいけど出せない」っていう感覚だったんですか。「出したくない」ではなく。

出したくないとも思っていたかもしれない。だから、隠して隠してってやっていたけど、どれだけぐちゃぐちゃになってもそれは生きてるから、ずっと抗ってくるんです。だとしたらもう、こっちが負けましたっていう。「飾らないでいいよ」って、ある時から思うようになりました。自分を抑えて、理想のクールなyama像を演じることを最初はやっていたんですけど、今は、本当に飾らないままでいたいなって思えるように変化しましたね。


──蛹って、蝶でも蛾でもそうですけど、あの中では体の組織が全部ドロドロに溶けているんですよね。

そうなんですよね。人間もそうじゃんと思うんです。幼い頃とか、すごく衝動的にやるし、言っちゃいけないことも言っちゃうし、やりたいことをやるけど、思春期、高校生、大学生になるにつれてドロドロになっていく。そのドロドロを覆い隠すようになることで人は大人になるんじゃないのかなと思うんです。誰しも絶対ドロドロはあって、それを上手に隠して生きてるだけで、たまには内側のドロドロを隠さなくていい瞬間もあっていいんじゃない?と思ったりして。

──まさに《もうとめられないや》と歌っている通りですよね。

もちろんバランスですけど、時折振り返って認めてあげるっていう。必要以上に抑制してる人も多いと思うし、思ったことを言えないとか、生きづらさみたいなものはやっぱり現代、あるなと思うので。そういう人たちが少しでも自分で自分を認められるようになればいいのになと思いながら音楽をやってます。

──リリースツアーのタイトルもまさに「羽化」ですね。

今までもバンド編成やったんですけど、今回は生っぽい曲も多かったりするし、よりグルーヴ感というか、バンドと心が通じ合ってちゃんと演奏してるかとか、そういう部分が大事になってくると思います。なるべく生で再現できるようにしたいなと思って、コーラス隊を初めて入れたり、キーボードを増やしてみたり、ライブでもちゃんとこだわれたらいいなと思いながら準備中です。これまでとは全然違った質感になると思います。私の楽曲は音数が多いんで、ライブでやるとボーカルの余白が少なくなっていって、ニュアンスがどうしても伝わりづらくなったりもしていたんですけど、生になればなるほど自由に表現できると思うので。そこの表現力というか、自分が身ひとつでどこまでいけるのかっていうところは、ドキドキではありますけど、挑戦したいなと思っています。

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ヘア&メイク=Mirai Uejo スタイリング=Masataka Hattori (Hattori Pro.)

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