【インタビュー】「今回は、聴き手に対する感覚がすごく強い」──バンドに対する自信、肯定、そしてファンへの信頼。クリープハイプ・尾崎世界観が語る新曲“私の歌“、そしてEP『仮のまま定着したような愛情で』

【インタビュー】「今回は、聴き手に対する感覚がすごく強い」──バンドに対する自信、肯定、そしてファンへの信頼。クリープハイプ・尾崎世界観が語る新曲“私の歌“、そしてEP『仮のまま定着したような愛情で』

EPといえば約3年前の『だからそれは真実』は、最終曲“真実”が特別な存在感を放っていたという意味で興味深い作品だった。だがそれ以上に、この新しいEP『仮のまま定着したような愛情で』は、EP自体がアルバムともシングルとも違う意味合いと肌触りを持ち、クリープハイプの新たな作品フォーマットと言えるまでに達した画期的な出来になっている。
クリープハイプのシグネチャーであるキャッチーでトリッキーなフックがほぼなく、尾崎の言葉と声の個性の過剰さで突き抜けるような手法も取られていない。すべての楽曲がテーマにしっかりと焦点が合っていて、1ミリの過不足もなく磨かれている。だから歌詞の物語が、演出を通してではなくそれそのものとしてスパッと入ってくる。楽曲と言葉に耳や頭が振り回されるいつもの感じとはちょっと違って、冷静に集中して聴いているのに心だけが大きく動かされるような、これまでになかった感触だ。この「しぐさ」の変化には、クリープハイプに対する自信や肯定、そしてファンへの信頼などいろいろなことが関係していると思った。尾崎世界観に話を聞いた。

インタビュー=山崎洋一郎 撮影=笠井爾示(KATT)


今回はとにかく、スピード感。一瞬を切り取るっていう。

──毎回言ってると思うかもしれないけど、今回のEP、とてもいいです。

ありがとうございます(笑)。

──画期的だし、新章の始まりだと思う。歌詞もサウンドもシンプルで磨かれてるんだけど、緻密というよりは裸のままで、それでいてすごく完成度が高い。本当に素晴らしいと思います。

去年の年末ぐらいに、次に作るならEPくらいの、4、5曲で全部手が届くようなものがいいなと思って。EPはその時のいちばんかっこいいところだけを切り取れる、今で言うショート動画みたいなものなので、時期的に今がいいんじゃないかと思ったんです。いろんなことがあまり気にならなくなってきたというか、自分たちに期待しなくなったのが大きかったですね。どこまで行けるんだろう、もっと行けるかもってずっと思ってたけど、まあこれぐらいだろうっていうのが、悪い意味じゃなくストンと腑に落ちた。その感じがいつまで続くかわからなかったから、今作っておこうと思ったという。

で、曲を作り始めたのが12月ぐらいですね。今回、昔みたいに一日に3曲録ったりしたんですよ。初期の感じを出したいなと思って、スタジオも昔使ってたところを予約して。昔はお金がなくて何日もかけられないから一日に何曲も録ってたんですけど、今は技術が上がってきたから、クオリティを落とさずに曲数を詰め込めるっていう、その変化も面白くて。バランスはよかったですね。あえて貧乏な感じを出すわけでもなく、ちょうどいい感じであの頃の感覚に近づけた。でも、「これだ」っていうのを磨きすぎてない感じもあって。今から記録しますよって言われて走るのではなく、本気で走ってるけど別に公式記録じゃない、みたいな感じで全力疾走できたと思います。

とにかく、スピード感を持って一瞬を切り取るっていうのをやろうと思って。突き詰めようと思えばどこまででもやれてしまうけど、そうじゃなくて、ここって決めたらそこしか録らない。そういうのを目指しました。曲も、今までは書き込めば書き込むほどよくなると信じてやってたんですけど、そうでもないなっていうのは──鑑賞する側としてはわかってるはずなのに、作る時はそれができなくなるので、今回は絶対にやりすぎないって決めてましたね。

どうにか生き残るために技術を磨いて、トリッキーなこともしてきたけど、このタイミングで1回武装を取り外すことができたなら、ちょうどいいのかな

──そういうふうに、今を切り取るEPの中にやりたいことを落とし込めるというのは、ここ2、3年のクリープハイプの物語からすると必然だと思いますね。前回のアルバムは、大きな会場で肯定的なライブ空間を作れるようになったクリープハイプが、ポジティブに作ったアルバムだったと思うんだけど。このEPはそれをさらに超えて、聴く人に委ねられるようになってる。クリープハイプって、まず自分たちを肯定するまでに時間がかかったじゃん。

肯定しきれてないところが伝わってる部分もあったと思うので、わかっててやってるところもありましたけど。でもどこかで、これは健全じゃないなっていうのもわかってて。

──今回はすごく、聴く人を信頼するっていうバイブスが出てるよ。

やりすぎないでいられたのは、それだと思いますね。こっちとしては、まだいろんなメロディがあるよとか、そういうのを見せたい気持ちもあるんですけど、お腹いっぱいの時にあれもこれもって出されても食べられないのと一緒で、その時に気持ちよく聴いてもらえるように、我慢していこうと。今回、やっとそれができたかなと思います。5曲ぐらいであればできるってことなのかもしれないですね。最初の一歩としてはいいのかなって。

──武装してないクリープハイプの楽曲がシンプルな形で並んだ作品って、画期的だと思うんだよね。今までの楽曲は、やっぱりトリッキーな部分があったじゃない? それがひとつの武器だったし、聴き手に対しての働きかけを強く意識した楽曲作りをやってきたと思うんだけど、この5曲に関しては、トリッキーな部分が一切ない。それはすごく大きいと思うのよ。

出始めの頃みたいな感じが出せたらいいなと思ってたんですよね。ファーストの時はそもそも経験も技術もないから、トリックを仕掛けられなかった。そういう意味では、あれも武装してないと言えば武装してないと思うんですよね。その後、ファーストの反応を見てセカンドを作って、ファーストと比べられたり、いろんな悪意にも晒されたりして。そんな中でどうにか生き残るために技術を磨いて、トリッキーなこともしてきたけど、このタイミングで1回武装を取り外すことができたなら、ちょうどいいのかなと思いますね。

──そうやってできあがったものが、素晴らしいですよ。

よかった。今回、曲を同時に作ってて。この曲のここができて、そのタイミングで別の曲のここができて、みたいな感じでやってたんですけど、楽しかったですね。久しぶりに「作ってるな」って感じがしました。うまく伝えるのが難しいんですけど、できているものは同じだとしても、今回は「作ってる感」がちょっと強い。自分のために作ってる感じがしましたね。でもなぜか、聴いてる人のほうを向いてるっていう。

前は、お客さんのために作ってるはずなのに自分のほうを向いてることが多かったけど、今回は逆でした。周りのシーンを見たり、曲を聴いたりするのに疲れたっていうのもあるかもしれないですね。ここで一生懸命頑張ることに見切りをつけたっていうか。自分のためだけに、クリープハイプっていうバンドと、それを好きな人のためだけにやろうっていう。どこか諦めきれないところがあったけど、この1年ぐらいで「あ、もういいか」ってほんとに思えて、完全に断ち切ることができたんです。そのぶん自分の作る曲だけに行けたのかな。

次のページ今回は、聴き手に対する感覚がすごく強いですね。特に“私の歌”と“生きてみます”はそうだと思う
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on