──そのマインドが、新しい挑戦へのエネルギーになっているわけですね。そんなエイルさんが今回のアルバムで、一番チャレンジングだった曲を選ぶとすれば?歌手人生として、まずは60歳まで歌っていたい。そこまではやりたいというのがひとつの夢です
“靉靆”ですね。もう、歌いながらわけがわからなかったので(笑)。溺れながら歌っているのかと思うくらい難しくて。この曲、自分の声のめっちゃ低いところと高いところを使うレンジが広い曲を歌いたくて作ってもらったんですけど、予想以上に大変で自爆しました(笑)。ただ曲調はちょっと猟奇的でかわいくて。ポップだけどグロテスクなところがお気に入りです。
──サウンド的にはスウィンギーなブラスロック“カリギュラ・カリキュラム”も今までのエイルさんにはなかったテイストの攻め曲ですね。
チャレンジングという意味ではこの曲とどっちを選ぶか迷いました。もともとはボカロっぽいイメージで書いてもらっていて、今とはアレンジが全然違ったんですけど、ブラスを入れたらかっこいいんじゃないかと話し合って今の形になりました。自分から提案してサビ頭でがなってみたり、表現しがいがありました。
──逆に“SYNTHESIS”は従来の藍井エイルのイメージを踏襲した王道のマイナーアップチューン。セルフオマージュのような趣もあります。
私の過去の楽曲から着想を得て作ってほしいとお願いしました。今までの楽曲タイトルが歌詞のあちこちに入っていて、集大成のような一曲です。アルバムができあがっていく過程で、暴れん坊な曲が多かったので、自分でも落ち着かなかったんですよね(笑)。これはきっと聴く人も同じ気持ちになるかもと思って、藍井エイルの血肉になっているような曲を一曲入れることにしました。
──確かにこの曲があることでアルバムに芯が一本入った印象です。また、今作にはエイルさんが作詞したバラード“タイムトラベラー”も収録。切なくも愛を感じる曲です。
“MONSTER / 絵空事 ”のリリース時にラジオ番組で自分の飼い犬について語る機会があって、そこで愛犬を題材に歌詞を書いたことがあるか聞かれたのがきっかけで書いた曲です。うちの犬はもう13歳でおじいちゃんなんですけど……犬は人間より何倍も速いスピードで生きているから、私とは違う時間の流れにいる。それを“タイムトラベラー”にたとえて、命の尊さ、命は永遠じゃないから今ある時間を大切に接していこうという、私の願望も込めて書きました。
──そしてアルバムの最後を飾るのが、オーケストラをバックにした壮大なナンバー“Our Horizon”。どのような着想から生まれたのですか。
クライマックス感のある、とにかく壮大な曲を歌いたくて作ってもらいました。ストリングスだけで13人もいらっしゃって、レコーディングが進むにつれてどんどん壮大になっていくのが面白かったです。
──歌詞は今のエイルさんの再出発という思いに重なる世界観ですね。
私としては「これまでの歌手人生の中での私」というイメージが浮かびました。“嵐の中でも”が能動的な応援歌なら、“Our Horizon”はそこにあるだけで支えになるような、受動的な応援歌。私のハッピーを誰かに分けてあげたいという気持ちで、ふくよかに歌うことを意識しました。誰かの応援歌になればいいなと。
──《君》や《私たち》という言葉が入っていることで、誰かと共に歩んでいく未来が浮かびます。
《胸の奥のこと 不安になること/私はすべて連れて行く》の部分は、ファンの方たちに向けた言葉にしたくて歌いました。アルバムの最後にふさわしい、みんなでひとつになって未来へ進める楽曲だと思います。
──歌詞の最後に《まだ行ける まだ行くって/私たちこの場所から》とありますが、エイルさんはこの先、どこまで歩んで行きたいですか。
歌手人生として、まずは60歳まで歌っていたい。そこまではやりたいというのがひとつの夢です。ファンの人たちがついてこれるなら、その先も70歳くらいまで延長戦をしてもいいですけど(笑)。
──(笑)ファンの皆さんと見てみたい景色はありますか?
以前は自分の夢を掲げて「私が頑張るからついてきて!」という感じでしたけど、今はファンの人がそこにいてくれるだけで最高の景色なんです。だから「何かを達成したい」という感覚はあまりないかも。今ある景色で十分幸せだなと思います。
──お話を聞いていて思ったのですが、今は無心で音楽と向き合えている感じがすごくありますね。今のスタイルが一番幸せなのかなと思っています。ただ、歌に対してはストイックに向き合いたいですね
そうかもしれないです。前は焦燥感がすごかったんですよね。自分を商品だと信じて、「藍井エイル」に箔をつけるために、いろいろやろうとして自分を追い込んでいた。でも今はまったくそんなことはなくて。自分がハッピーだとファンの人もハッピーだと言ってくれるし、皆さん「とにかく無理しないでください」と言ってくれるので、今のスタイルが一番幸せなのかなと思っています。ただ、歌に対してはストイックに向き合いたいですね。
──そこは昔から変わらず、ですね。
はい。でも、昔は自分にも他人にも厳しすぎて「怖い」と言われていたんですよ(笑)。きっと他人に自分の価値観を押しつけてしまっていたんでしょうね。今となっては間違っていたと素直に思いますし、丸くなりました。すごく理想的なスタイルでやらせてもらっています。