藤巻亮太@EX THEATER ROPPONGI

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昨年秋に自身初の弾き語りツアー「明日の歌旅 2013」を行い、全国18の場所でその歌声を響かせてきた藤巻亮太。そこでは訪れなかった5都市を巡り、東京はEXシアター六本木で千秋楽を迎えるショート・ツアー「明日の歌旅 2014」が開催された。2012年10月にソロ・ファースト・アルバム『オオカミ青年』を発表して以降、新作リリースはなし。前回のツアー同様、未発表の新曲が数多く披露されるツアーとなったわけだが、ファイナルの東京公演を観終えての率直な感想は、「やはり藤巻亮太はソングライターとしてもシンガーとしても尋常じゃない才能の持ち主だ」ということ。レミオロメンの楽曲も同列にして只ひたすらに曲をやっていくというシンプルなステージによって、その紛れもない事実がありありと証明される形となった。

バックドロップも装飾もないシンプルなステージに、暗転と同時にふらりと現れた藤巻亮太。リラックスした様子でステージ中央に置かれた椅子に腰かけると、手にしたアコースティック・ギターを爪弾き1曲目へと突入する。いきなりの新曲“go my way”。その挑戦的な幕開けにニンマリとしたのも束の間、最初の一声が放たれた瞬間に会場の空気がパッと変わってしまったことに驚かされる。空気をビリビリと震わせるほどの圧倒的な声量を持ちながら、深い情感と色彩も帯びた歌声。1番を歌い終えると同時にワーッと沸いた拍手が、その声の力を何よりも証明している。「次は、新しいことに挑戦した友達に向けて作った歌です」とスタートした“明日の歌”では、素直で温かなメロディに乗せて伸び伸びとした歌声を届けていく藤巻。続くレミオロメンの楽曲“春夏秋冬”では移り行く四季の彩りを豊潤に描き出し、“ベテルギウス”では地底から宇宙へと一気に駆け上がる壮大なサウンドスケープを解き放ち……と、アコギ一本のみの弾き語りスタイルで目くるめく風景を立ち上げて、着席スタイルで一心に聴き入る観客を酔いしれさせていくのであった。
藤巻亮太@EX THEATER ROPPONGI
その後は、清水ひろたか(G)/皆川真人(Key)という2人のサポート・メンバーを加えたバンド編成に。オルガンの丸みを帯びた音色が心地よい“春の香り”、切迫したヴォーカルが冴えわたる“永遠と一瞬”で濃淡のコントラストを浮かび上がらせたと思いきや、椅子から立ち上がった藤巻がエレキに持ち替えてのその後の展開がすごかった。スロー・バラード“指先”で真っ直ぐなメッセージを届けると、硬質なリフが疾走する“ハロー流星群”で一気にスパーク。続く“かすみ草”では混沌としたアンサンブルが駆け巡り、荒涼とした大地のような風景が場内いっぱいに広がっていく。その中で毅然とスタンドマイクに立ち向かい、パワフルな歌声を届けていく藤巻の姿が何とも眩しい。そして、ピアノの流麗な旋律とともにファルセットを駆使した藤巻の歌声が狂おしいエモーションを咲かせる“月食”で、深淵たる世界へ……曲を終えて藤巻は「こういう曲がやりたくてソロになったんですよ。でもこういう曲ばかりだと辛いでしょ?」とこぼしていたけど、いやいや、その濃密な音世界に聴き惚れているうちに、あっという間に時が過ぎてしまったような感じ。周りのお客さんもリズムに乗ることも忘れて固唾を呑んで見入っていたという具合で、藤巻亮太というアーティストが抱える深い情念が圧倒的な説得力でもって押し寄せた、素晴らしいパートだった。
藤巻亮太@EX THEATER ROPPONGI
終盤に入ると、アコギとエレキを持ち替えながらバラエティに富んだサウンドスケープを披露。“南風”“パーティーサイズ”をアコースティック・セットで伸びやかに奏で、「我々が見ている光は8分前の光らしい」という話から着想を得たというバラード“8分前の僕ら”では、時空を超えたロマンチックな恋心をエモーショナルに歌い上げる。さらに“光をあつめて”をしっとりと奏でると、ヒリヒリとしたエレキ・サウンドから幕を開けたのは“オオカミ青年”。ライヴも佳境、本来ならアッパーな楽曲でクライマックスに向けて華やかに上り詰めるのが順当と思えるところに、この重たく閉塞感に満ちた楽曲をブチ込んでくるのが、なんとも藤巻らしいといったところか。その後、すっかり緊迫した客席のムードを前にして、「えー……」と気まずそうに口を開く藤巻の姿が個人的にツボだった。そして「僕は実家の山梨によく帰るんですけど。そうすると向こうに色んな友達がいて、『皆それぞれの場所で頑張っているんだなぁ』と勇気をもらうんですね。最後は、そんなそれぞれの場所で輝いて闘って生きている人に向けた曲をお届けしたいと思います」という挨拶から、映画『太陽の坐る場所』の主題歌として書き下ろされた新曲“アメンボ”へ。ステージ背後を覆っていた黒幕が左右に開き、露わになった白壁にステージ上の3人の巨大なシルエットが映し出される中、温もりと優しさに満ちたスロー・テンポの音像がゆっくりと広がって、しめやかなフィナーレを描き出した。
藤巻亮太@EX THEATER ROPPONGI
アンコールでは、ひとりステージに現れた藤巻。「早く皆にCD届けられるといいな」という発言に、大きな拍手喝采が送られる。そして新曲“命みたいな日”を弾き語りで披露しはじめたのだが……なんと2番のサビに差し掛かる直前で「間違った!」とプレイ中断。「ここまで歌ったのに、どうしよう……」と悔しがる藤巻を尻目に、やんやと沸き返る客席である。結局アタマからやり直す形になり、日常の風景を切り取りながら「あなた」への思いを歌い上げる美曲を1.5倍楽しめるというお客さんにとってはオイシイ一幕となった。そしてレミオロメンの“昭和”を経て、再びサポート・メンバーの2人を呼び込んでのラスト・ナンバー“名もなき道”へ。バンドからソロへと紆余曲折の道を歩んできた自らの「これまで」と、まだまだ力強く突き進まんとする「これから」を、同時に讃えるようなポジティヴでパワフルなバンドサウンドを高らかに打ち鳴らし、2時間強に及ぶステージは幕を閉じた。リリースに伴わない、フリーフォームの公演であるが故に、藤巻亮太というアーティストの破格のポテンシャルを思う存分堪能できたステージ。このツアーを大きな糧として、彼の才気はますます迸っていくことだろう。この日披露された10曲の未発表曲はどれもガツンとした手応えの感じられるものだったし、本人も言っていた通り、まずは一刻も早くCDをリリースしてもらいたい。そんな期待感を否応なしに煽る、圧巻のアクトだった。(齋藤美穂)

■セットリスト
1.go my way(未発表新曲)
2.明日の歌(未発表新曲)
3.春夏秋冬
4.ベテルギウス
5.春の香り(未発表新曲)
6.永遠と一瞬
7.指先(未発表新曲)
8.ハロー流星群
9.かすみ草(未発表新曲)
10.月食
11.花になれたら(未発表新曲)
12.南風
13.パーティーサイズ
14.8分前の僕ら(未発表新曲)
15.光をあつめて
16.オオカミ青年
17.アメンボ(未発表新曲)

encore
18.命みたいな日(未発表新曲)
19.昭和
20.名もなき道(未発表新曲)
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