3月29日の千葉・市原市市民会館からスタートしたツアー「イーガジャケジョロ」。25公演目となる山形・やまぎんホール2デイズ2日目、ホールツアーとしてはこの日が最終日である。そして山形といえば、ABEDONこと阿部義晴の故郷でもある。約1,500人収容の客席はみっちり埋まり、開演前からムンムンと熱気が立ち上っている。
開演時刻になると、ステージ前面に張られた幕のSMA40周年マークがチカチカと点滅し、流れ始めたのは往年の日本テレビ・プロレス中継でおなじみ、“スポーツ行進曲”! いきなり世代を全力でアピールするなか、力強い三拍子のリズムが鳴り響く。そして幕が取り除かれると、ベースを携えたABEDON(Key)、奥田民生(Vo・G)、手島いさむ(G)、川西幸一(Dr)、そして、ステージのど真ん中に置かれた、どう見ても「どこで●ドア」にしか見えないデカいピンクのドア! そのドアがバーンと開いて、登場してきたのはステッキマイクを握りしめたEBI(B)である。歌うのはアルバム『イーガジャケジョロ』でも序盤でいきなりリスナーの腰を抜かせた“夢見た男”。プレスリー風ヴォーカルを披露しながらステージ上を右から左まで歩きまわり、間奏ではフラフープも披露して喝采を誘う。のっけから飛び道具をフルパワーでぶん投げるような展開に、EBIも「センキュー!」とごきげんである。
かと思いきや、続いて披露されたのは“KEEP ON ROCK'N ROLL”。ABEDON作、民生ヴォーカルのこの骨太なロック・ナンバーで、メンバー全員が拳を突き上げ、オーディエンスも「ロックンロール!」と叫ぶ。めまぐるしく移ろうボケとガチ。これぞユニコーンである。3曲目“スターな男”で大合唱が起きたところで最初のMC。川西が「山形ー! ……ユニコーンです」と盛り上げたいんだか上げたくないんだか、というテンションで自己紹介すると、民生は客席を見渡して「しましまが流行ってますね」と一言。ボーダー柄の服が目立っていたのだ。テッシーにしましまは好きかと尋ねる民生。テッシーが「好きか嫌いかって言われたら……」と答えかけたところにすかさず川西が「て“しま”だもん」とクールなギャグをぶっ込む……相変わらずユルいが完成された言葉の応酬だ。
ところで、アルバム『イーガジャケジョロ』がそうであったように、EBIや川西やテッシー、つまり電大トリオがこれでもかとばかりに炸裂しているのが今のユニコーンだ。そしてライヴでは、そんなヤル気マンマンの3人と、ABEDON&民生のロックマイスターぶりが、激しく拮抗するのである。再び登場したピンクのドア(「EBIでもドア」という名前らしい)を引き金にスタートしたEBI独壇場パートでは、軽やかなカウントからの“お前BABY”に加え、本来民生ヴォーカル曲の“ハヴァナイスデー”もEBIが歌う。ハープを吹くABEDONとのカラミも板についていて、EBIは「おー、阿部ちゃん、いいね! やっぱり地元はいいね!」とABEDONを讃える。と、そんなEBIパートの後には今や押しも押されぬ代表曲“WAO!”が披露され、会場全体で大きなハンドウェーヴが起き、“鳥の特急便”ではビッグスケールのロックサウンドにやっぱりユニコーンってすげえバンドだなあと思わされる……とにかく、せめぎ合っているのである。そしてそのせめぎ合っているダイナミズムが、全部ロックの懐の深さとユニコーンというバンドの凄みにつながっていくのである。こんなバンド、他にいない。
もちろんEBIだけではない。ABEDONと、緑のブレザーを着たタクシー運転手・川西によるコント(川西から目的地を尋ねられたABEDONは懐からメモを取り出して告げた行き先は「蔵王の御釜」)から、“俺のタクシー”へ。タクシーのハリボテをまとったパーカッションを叩きながら歌う川西っさん。そこから“トキメキーノ”、そしてなぜかメンバー全員での敬礼を経ての“イーガジャケジョロ”と、川西曲の連打である。やはり『イーガジャケジョロ』のタガが外れたモードは本物だ。それはもちろん本人たちも自覚しているようで、民生は“イーガジャケジョロ”を終えた川西を指さして「はい、いかがでしたでしょうか、川西幸一(笑)」と寄ってらっしゃい見てらっしゃい状態である。そこからABEDON珠玉の名曲“We are All Right”と民生によるハード・ロックナンバー“ユトリDEATH”(スモークの量が半端じゃなかった)を挟んで、今度はテッシー・コーナーだ。“新甘えん坊将軍”で客席にティーバッグをバラ撒き、たったひとりキーボードを弾きながら自作のバラード“それだけのこと”を歌い上げる。これが感動的だった。曲が終わると割れんばかりの拍手である。袖から登場したメンバーも、拍手をしてテッシーを称える。
ここまででEBI、川西、テッシーは存分に見どころを提供し、もちろんABEDONも民生もしっかり役目を果たしたわけで、民生は「もうこっち(バンド)側的には終わりです。バラード(“それだけのこと”)をやってるときにこっちでは『おつかれ!』ってやってます。よかったなあ、ツアー、もう終わりか」と発言。完全に打ち上げモードである。「時間余ったんで、適当にやろうと思います」なんて言っているが、もちろん、ここからがクライマックスなのである。アルバム屈指の民生節が炸裂する“早口カレー”、そして“オレンジジュース”を経ての“大迷惑”! 民生がマイクを手に右へ左へ走り回って叫ぶ! さらに“Boys & Girls”でABEDONが盛り立てて、本編最後は“Feel So Moon”。ユニコーンの真骨頂を立て続けに見せつけ、本編は大歓声の中幕を閉じた。
が、本当のお楽しみはここからだった。アンコールの手拍子が鳴り渡るホールにいきなりヒゲダンスのテーマが鳴り響き、客席後方からABEDONが登場! なぜかブルース・リーの黄色いカンフースーツを着て首からヌンチャクをぶら下げている。そして客席のど真ん中に立った彼の呼び込みにしたがって、同じくカンフースーツ姿のメンバー全員が順番に客席を通ってステージへ。もちろん観客は騒然、お祭り騒ぎだ。山形での最終公演ならではのスペシャルな演出である。最後にABEDONが「幸せ」という名の紙吹雪をばらまきながらステージに戻り、いよいよアンコールである。ABEDONがお客さんに今日のライヴが楽しかったかどうか「はい」か「YES」で答えろと迫る――ということは、アンコールはこの曲である、“はいYES!”。『イーガジャケジョロ』の「セブン&アイ限定盤」にのみ収録されている楽曲だ。さらに2度目のアンコールに応えて再びステージに戻ってきた5人は全員がツアーグッズのTシャツにジーンズ姿。最後の最後にやる曲といったらこれしかない。“すばらしい日々”! 『イーガジャケジョロ』の自由闊達なムードをこれでもかとアピールしながら、最後にはやっぱり安心のユニコーン印できっちり落とし前をつける、いや、参りましたとしか言いようがなかった。
ツアーはこれで一段落だが、6月28日・29日には幕張メッセ、7月7日・8日には大阪城ホールでのアリーナ公演が控えている。そこではさらにスケールアップしたユニコーンワールドが観られるはずだ。(小川智宏)
■セットリスト
01.夢見た男
02.KEEP ON ROCK'N ROLL
03.スターな男
04.あなたが太陽
05.HEY MAN!
06.お前BABY
07.ハヴァナイスデー
08.WAO!
09.鳥の特急便
10.俺のタクシー
11.トキメキーノ
12.イーガジャケジョロ
13.We are All Right
14.ユトリDEATH
15.新甘えん坊将軍
16.それだけのこと
17.早口カレー
18.オレンジジュース
19.大迷惑
20.Boys & Girls
21.Feel So Moon
(encore1)
22.はいYES!
(encore2)
23.すばらしい日々