汗まみれの理想郷だった。PIZZA OF DEATH RECORDSの主催により初開催された、パンク/ラウド/ハードコアの祭典『SATANIC CARNIVAL '14』。幕張メッセにSATAN STAGEとEVIL STAGEと名付けられた2つのステージを設営し、開演時間の正午から21時まで、激アツのバンド・アクトばかりが次々にパフォーマンスを繰り広げる。オーディエンスの体力は最後まで保つのか、という余計な心配も杞憂に終わり、SATAN STAGEでのマキシマム ザ ホルモン、10-FEET、KEN YOKOYAMAというトリプル・ヘッドライナーの大熱演に至るまで、巨大な歓喜が収まることは一瞬たりともなかった。SATAN STAGEの模様を中心に、一日を駆け足でレポートしたい。
SATAN STAGEのトップ・バッターは、目下アルバム『WITNESS』を携えた全国ツアー真っ最中のFACT。超人ドラマー=Eijiによる独壇場のパワフルなプレイで観る者を釘付けにしているうちに、他のメンバーも登場して分厚い轟音の音響美“slip of the lip”を放つオープニングである。FACTならではの急展開する楽曲群を芯の強い歌メロが繋ぎ止め、Hiro(Vo)は「朝一発目ー! 起きろーっ!! 一日なんて、あっという間に終わっちまうからな!!」とオーディエンスを煽り立てながらシンガロングを要求する。襲い来るトリプル・ギターのハードア音響にブラスト・ビートとヴォーカル・リレーの絨毯爆撃、Adam(G)とオーディエンスでがっちり歌詞の掛け合いを決める“ape”や“disclosure”など近作の盛り上がりもバッチリで、最後は名曲“a fact of life”へ。広大なフロアで高密度の熱狂を巻き起こす、これが『SATANIC CARNIVAL』だと知らしめるようなステージであった。
2番手のdustboxは、昨年のアルバム『Care Package』からJOJI(B・Cho)のヘヴィなベース・ラインに導かれるファスト・チューン“Want A Kanojo”で着火。終始ニコニコと汗の雫が流れる笑顔を浮かべて伸びやかに歌うSUGA(Vo・G)も、前線2人を追い回すようなドラム・プレイを繰り出すREIJI(Dr)も、3ピース・バンドの機動力を目一杯活かす、性急にして痛快なパフォーマンスへとのめりこんでいった。序盤は『Care Package』からの楽曲群を連打し、そのスピード感にもオーディエンスはしっかりと食らいついて“Still Believing”のフレーズを分かち合う。自らが誘った手拍子&JOJIコールで踊りながら傾れ込む“Sun which never sets”、そしてクライマックスはSUGAが「みんなの輝かしい未来に!」と告げて披露される“Tomorrow”から“Right Now”と、温かい肯定性を刻み付けてみせた。
続いては、カオティックな音出し一発と共にSiMが登場だ。エフェクトを噛ませたマイクで“Get Up, Get Up”を歌い出すMAH(Vo)が、重厚なバンド・グルーヴを乗りこなし、大きなアクションを見せながらも高い演奏精度がキープされたパフォーマンスを繰り広げてゆく。メタルコアからレゲエ、ハードコアからスカへとめくるめく展開を見せるさまはSiMならではだが、そのすべてを受け止めて踊りまくるファンの姿も最高だ。“Blah Blah Blah”から超スモーキーなダブ・サウンドの“Amy”と演奏を続けた後、MAHは憧れのPIZZA OF DEATHに出演を誘われたことに感謝しつつ「世代も違うしさ、やってることも違うし。ライヴハウスでやってる以上、あの世代のデカ過ぎる背中は感じてて、正直、あのムーヴメントに触れることが出来なかったのは俺の中でコンプレックスでもあります。でも、過去には戻れないしさ、この2010年代、俺たちとみんなで、また面白いものを作れたらなって思います」と名MCを投げ掛け、オーディエンスの熱い喝采を浴びるのだった。
一日も中盤に差し掛かろうという時間帯、『TRIPLE AXE TOUR '14』の開催を目前に控えた反骨祭典集団=HEY-SMITHが登場する。満(Sax)とlori(Trumpet)の賑々しいホーン・セクションがトラッド・パンクの風を呼び込む“Endless Sorrow”からパフォーマンスをスタートさせると、辺り一面はまさに狂喜乱舞という文字通りの様相である。陽性ヴァイブにきっちりとパンク・スピリットを宿したパーティー・チューンが止まらず、満は自身のサックス・パートが無いところでは白目を剥くようにして激しいステップを踏みまくっていた。笑顔のまま狂気にタッチしてしまうような光景だ。トロピカル・パンクな“Jump!!”に続いて“STAND UP FOR YOUR RIGHT”を届けると、猪狩秀平(G・Vo)は「どんなにでかい会場でも、俺たちがライヴしてみんながライヴしたら、いつものライヴハウスと一緒やって気づいたわ! ありがとう!」と告げる。そしてチャーミングなメロディに詩情が転げる“Lonely With Everyone”などを経て、最後は“Come back my dog”の狂騒でステージは幕を閉じるのだった。
さあ、ここからはいよいよトリプル・ヘッドライナーの出番と言うことで、まずはマキシマム ザ ホルモンである。“恋のメガラバ”の先制パンチで体感温度をぐっと上昇させると、ナヲ(ドラムと女声と姉)は「十数年前、PIZZA OF DEATHのTシャツを着ていた頃の、Sサイズの私。レジェンドが、いますよね。そして2010年代を背負うSiMのような新世代がいて……私ら、なんやねん!」と、中間管理職キャラをタテに斜めから切り込んで来る。さすがである。“「F」”や“ロッキンポ殺し”といったお馴染みの凶悪ナンバーを畳み掛ける合間にも、CHAGE&ASKAネタを捩じ込んで(一瞬だけ“SAY YES”のイントロが流れるところが抜け目ない)、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)は「まあ、薬ですか!? 錠剤ですか粉ですか!? そんなもんよりねえ、合法ドラッグ=ロックがあるでしょう!」と“シミ”に繋ぐ。一方、マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)は“鬱くしきOP~月の爆撃機~”の熱唱からもちろん“鬱くしき人々のうた”に繋ぐなど、今回も爆音と憤りと哀しみと笑いがてんこもりのステージを繰り広げていった。クライマックスは、「恋のおまじない(座るバージョン)」からの“恋のスペルマ”振り付き大合唱で完璧な幕切れである。
そして10-FEETは、TAKUMA(Vo・G)がフラッシュライトの中でギラッギラーのギター・サウンドを繰り出しながら歌う“JUNGLES”から“RIVER”と、瞬く間に沸点へと到達してしまう。フロアに無数のタオルが舞う“CHERRY BLOSSOM”や“super stomper”といった鉄壁ナンバーを届ける最中には、「ええ感じやー。いろんな奴がおるからなあ。バンドマンもお客さんもいろんな奴がおるから、楽しみ方は人それぞれやし。だからそこでイライラせんと。人が飛んで来ても足が飛んで来ても、そこで睨みつけるか、笑って見てやるかで、帰りの顔付きも違うんちゃうか。すべては自分次第や」と兄貴肌MCを投げ掛け、3人で広大なフロアに詰めかけたオーディエンス全員を乗せて運ぶようなパフォーマンスを続けるのだった。後半は、“シガードッグ”“蜃気楼”“その向こうへ”といった超エモーショナルな詩情を誇る名曲が連発。持ち時間がギリギリになってしまったということで急遽、最後の演奏曲を予定と変更したが、Hi-STANDARDに憧れて作ったというインディーズ時代からのナンバー“DO YOU LIKE…?”で《Do you like 10-FEET?》とオーディエンスの喝采を誘い、トリプル・ヘッドライナーの最後の一組へとバトンを繋ぐのだった。
さて、一方のEVIL STAGEでは、ドラム・セットやアンプ機材などを乗せた土台のスライド式高速転換で、全12組ものバンドが出演。トップを飾った04 Limited SazabysやCOUNTRY YARD、EGGBRAINといったフレッシュ・パワーをはじめ、熱い思いを乗せた言葉が突き刺さるハードコア新世代のTHINK AGAIN、鬼気迫るヴォルテージのスクリームと密度の高い音塊が圧巻だったNOISEMAKER、SANDはPIZZA OF DEATHからの出演で、最後に爆音の“Take Me Home, Country Rords”カヴァーを聴くことが出来た。
SAやROTTENGRAFFTYは独自のロック道を見せつけてオーディエンスを沸かせ、今まさにパンク・シーンの中核を担っているNorthern19に続いては、鍛え抜かれたハードコアが最高だったkamomekamomeが登場。これぞメロディック・パンクというブライトネスを運び込んだSHANKを経て、EVIL STAGEのアンカーとしてTOTALFATが、“PARTY PARTY”を皮切りに歓喜のラストスパートを始めていた。
さあ、SATAN STAGEの最後には、Ken Yokoyamaが堂々の登場だ。「PIZZA OF DEATHのフェスなんだけど、自分をどこにどう置いたらいいか分からないんだけど、いち出演者としてやります」という控え目な挨拶ではあったが、いやいや、初っ端から出音が半端じゃない。タイトに引き締まってはいるがスリリングな4ピース・サウンドを放っては歌い、“How Many More Times”では早々にマイクをフロアへと投げ込んでしまった。日の丸を旗を肩にかけての“You And I, Against The World”では「日本の国旗掲げてたら、俺たち右翼みたいだな(笑)。違うよなあ? ただの生活者だよ。東京に暮らす、40代のおっさんだよ」と語る。また“This Is Your Land”をプレイした後には、「ただ音にノって踊って楽しむのもいいけど、歌詞カードには対訳が載ってるから、それを読むとKen Yokoyamaが何を言おうとしてるのかってことが分かる。あ、本(先頃刊行された『横山健 随感随筆編』のことだろう)を読むってのも手だなあ(笑)。たまにはちょっとでも、そういう楽しみ方をして欲しい」とまっすぐに伝えるのだった。後半は“Punk Rock Dream”や“WALK”のカヴァー、“Believer”から“Save Us”と、ひたすらにオーディエンスの歌声を巻き起こし続ける、出し惜しみなしのアンセム連打を繰り広げ、強い思いが分かち合われるためだけのステージは幕を閉じた。
横山健自身が、「俺がやろうって言い出したわけじゃない」「どこから入るのかも分からなかったしね。PIZZA OF DEATHにとっては良いことだと思うけど」と語っていたことも、今回の『SATANIC CARNIVAL '14』を象徴する言葉だった。横山健が立ち上げたPIZZA OF DEATHで、その思いを受け取めてきたスタッフが主体的に動き、レーベル外のベテランや若手バンドにも思いを伝えて招き、その意志の連鎖が具体的な形となって顕れたのが『SATANIC CARNIVAL '14』だったわけだ。多くの人々が関われば、伝える方法や解釈の差も生まれて混沌とすることもあるけれど、その渦巻くエネルギーは間違いなく膨大なものだった。特定の世代のムーヴメントではなく、世代や個性のギャップも含めて積極的に楽しむべき、そういうフェスの形があった。(小池宏和)