KANA-BOON@泉大津フェニックス

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アンコールの最後、谷口鮪(Vo・G)が「やらなきゃいけない」と言って演奏したのは、ファーストミニアルバム『僕がCDを出したら』に収録されている“眠れぬ森の君のため”だった。

 僕がステージを降りたら 鳴りやまない拍手が聞こえて
 君はキョロキョロ周りを見渡しながら涙を流すのさ
 眠れぬ森の君にあげるよ 覚めない夢を。

ロックバンドという、終わらない夢、覚めない夢。夏休みの最後にKANA-BOONが見せたものは、まさにそれだった。地元・大阪、彼らの生まれ育った堺市からもほど近い泉大津フェニックスは、夢の舞台だった。

「KANA-BOON野外ワンマン ヨイサヨイサのただいまつり! in 泉大津フェニックス」と名付けられたビッグなワンマンライヴ。「まつり」という名前にふさわしく、会場内にはメンバーがプロデュースするスーパーボールすくいや輪投げ、飲食のブースが設けられ、その中にはデビュー前の彼らが育った場所であるライヴハウス三国ヶ丘FUZZのブースもあった。デビュー前、といってもそんなに昔のことではない。なのに、当時の写真を見ているとその躍進ぶりに驚きを隠せない。だって、ライヴハウスで必死にお客さんを集めていた4人が、あっという間に1万人を動員するバンドになったのである。正確には、ステージで谷口が発表したところによると16320人。メジャーデビューしてわずかアルバム1枚、このあいだ初めての全国ワンマンツアーを終えたばかりのバンドが、なぜこれほどのスピードで進化し続けているのか。その理由が、この日のライヴを観ていてはっきりと分かった。

KANA-BOON@泉大津フェニックス
ラジオの公開収録、大阪のDJイベント「onion night」のクルーによるDJなどが終わり、18時を少し回った頃。突如フィールドに“ソーラン節”が鳴り渡る。それを合図に、小泉貴裕(Dr)、古賀隼斗(G)、飯田祐馬(B)、そして谷口の順にメンバーがステージ駆け込んでくる。1曲目はライヴの定番“A.oh!!”だ。谷口が「踊れー!」と叫ぶと、待ってましたとばかりに観客のヴォルテージがブチ上がる。さらに“ワールド”“MUSiC”と立て続けに必殺曲を披露し、広大なフィールドを一気に自分たちのペースに引き込んでいく。繰り出される4つ打ちのビート、そして切れ味の鋭いギターリフ。ひとしきり盛り上げ終えると、谷口は「僕らはこんだけの人が前におっても変わらず目を見てやりますから、みなさんも目を見てください。お願いします」と堂々たる宣言だ。この「目を見てほしい」という願いは谷口がずっと歌にし続けてきたことでもある。それをストレートに綴った“見たくないもの”は、まるでその思いが乗り移ったかのようにアグレッシヴだ。小泉のドラムも、古賀のギターもガンガンに攻めている。薄暮の空がまるで本当の白夜のようだった“白夜”、そして1.6万人の手拍子と大合唱が圧倒的だった“クローン”と、完全に「攻め」の序盤戦、メンバーのコンディションもよさそうだ。
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続いてシングル『生きてゆく』のカップリングであり、骨太のグルーヴが心地好いナンバー“ロックンロールスター”を終えると、いきなりギアをチェンジしてゆるーいMCタイムに。開演前にヴィジョンで流れていた「KOGA’Sキッチン」(本家の許可は当日「もらったっぽい」とのこと)をイジり、さらにメンバー考案のソースが決めてのケバブ「ケバブーン!!」の人気アンケートをしたり(ちなみに古賀のチリソースの人気が群を抜いて低いという出来すぎの結果が)。負けた古賀がメンバーから脱退勧告(笑)を受けたりもしつつ、「今日はアゲアゲのセットリスト組んできましたんで」という谷口の言葉どおり、ここからも“ミミック”“ストラテジー”と怒涛のような展開に泉大津フェニックスは大騒ぎである。かと思えば一転して静かな雰囲気の中ギターが鳴らされ、それがだんだんとスケールアップする展開で聴かせる“夜をこえて”を丁寧に演奏し終えると、谷口は「ちょっと話してもいいですか? せっかく地元帰ってきたんで」と滔々と語り始めた。

KANA-BOON@泉大津フェニックス
KANA-BOON@泉大津フェニックス
高校の軽音部でKANA-BOONを結成した頃のこと(この日は会場に当時の顧問の先生が来ていたという)。三国ヶ丘FUZZで育ったこと。そこから16320人という数の人が集まるようになったこと。「たくさんの夢が叶いました。夢を叶えた者として言いたいことはたくさんあって、夢を叶える可能性は誰もが持ってる。僕たちの場合は楽器を始めた時点で50%なんです。それをちょっとずつパーセントを上げていって、100になってデビューしたんです。バンドじゃなくても夢っていうのは、そうやって可能性を上げていって実現するもの。やっと胸を張って言えるようになりました」。KANA-BOONが今ここにいるのは、決して流行りやハイプによるものではない、谷口はそう訴えているように見えた。「夢が見つからん人もおって。そういう人には僕らが夢を見せますから。KANA-BOONを好きな人全員の夢を叶えるのが僕らの仕事だと思ってます」――この巨大なワンマンライヴの「意味」が、本人の口から語られた瞬間である。これは何よりまず彼ら4人の、そしてその周りの人々の、さらには彼らを支えるたくさんのファンの、夢が実現する場なのだ。その夢とロマンのもとに、これだけの人が集まったのである。

KANA-BOON@泉大津フェニックス
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そんな谷口の思いを乗せて奏でられたのは“結晶星”。一歩一歩夢を掴んできた彼らだからこそ、今この歌は強い説得力をもつ。語りかけるような谷口の歌に、自然と手拍子が巻き起こっていく。さらに立て続けに披露されたのは“さくらのうた”。ステージの真ん中に4人が集まってスタートしたこの曲、この日の演奏は今までに観た中でもいちばん壮絶だった。エモーショナルな歌とサウンド。谷口のソングライティングの原風景のようなこの曲が、逆説的にこのライヴがひとつの大きな区切りであることを物語る。そこから8月27日にリリースされたばかりのニューシングル“生きてゆく”へ。“さくらのうた”と同じような風景を歌った歌だが、過去を忘れないためではなく、未来に向かっていくための曲だ。フィールド一面のハンドウェーヴは、そのメッセージと思いが、しっかりと届いていることを証明していた。個人的には、この日のライヴのハイライトはこのパートだったと思う。“生きてゆく”を歌い終えて谷口が深々と一礼すると、ここからは文字通りのお祭り。“レピドシレン”“ウォーリーヒーロー”、そして古賀の江頭2:50のモノマネ(クオリティが上がってきている……)を経て“盛者必衰の理、お断り”からの“フルドライブ”! なんか聴いたことのないフェイクを入れているなと思ったら、谷口は「楽しくてわけわからなく」なっていたらしい。

そんなこんなであっという間に本編最後の曲。「お腹がすいてきた頃じゃないですか?」という谷口のセリフから繰り出されるのは、もちろんKANA-BOON最強アンセム“ないものねだり”だ。メンバーそれぞれによるコール&レスポンスもばっちり決まり(飯田がお客さんに「ちんちん」と言わせ、さらに古賀が「たまたま」と言わせるという、不必要な?連携プレーもあれはあれでよかった)、16320人と4人による夏の祭りは大団円――で済むはずがなく、鳴り止まない手拍子に応えてアンコールがスタートだ。

KANA-BOON@泉大津フェニックス
“1.2. step to you”でまずは一山作ると、「記念の日だから」という谷口の一言から新曲が披露される。“シルエット”と題されたこの曲、谷口は自信ありげに「もっとたくさんの人を出会わせてくれる曲になる」と言っていたが、確かに、アッパーなビートと強力なサビのメロディには、さらにでっかくなっていきたいというバンドの意志が込められているようだった。これがどういう形でリリースされるのか、今から楽しみだ。そして、新曲をどかんと見せつけ、「これで終わろうと思った」と言いながらも、最後の最後で演奏されたのが冒頭でも書いたとおり“眠れぬ森の君のため”だったのである。

KANA-BOON@泉大津フェニックス
最近ではほとんどライヴで演奏されないこの曲を、なぜ彼らは最後の1曲に選んだのか。昨年、KANA-BOONはこの会場で行われているフェス「RUSH BALL」にクロージングアクトとして出演した。彼らのステージが終わったあと、観客は会場のBGMとして流れたこの曲をずっと歌っていたという。その様子を見ていたスタッフは号泣したという。フェスに出ること、CDを出すこと。自分たちが思い描いたバンドの夢物語が、決して自分たちだけのものではないことを、そのとき彼らは知ったのではないか。だからこそ、その夢の集大成としてこの「ただいまつり!」をとらえたとき、この曲をやらないままでは終われなかったのではないか。気合いの入ったメンバーのパフォーマンスは、そんな1年間の物語にしっかり決着をつけようという意識の表れだったのだ。

最後、谷口は「明日からまたKANA-BOONの新しい歴史を作っていこうと思います」と告げた。ここ大阪の地で生まれたKANA-BOONの夢は、その地元でひとつの区切りを迎えた。だが、言うまでもなくこれが終わりではない。今彼らは、もっともっと大きくて豊かな夢を描き始めている。肩を組んで観客にお礼をする4人の姿が、いつにもまして頼もしく見えた夜だった。(小川智宏)

■セットリスト

01.A.oh!!
02.ワールド
03.MUSiC
04.見たくないもの
05.白夜
06.クローン
07.ロックンロールスター
08.ミミック
09.ストラテジー
10.夜をこえて
11.結晶星
12.さくらのうた
13.生きてゆく
14.レピドシレン
15.ウォーリーヒーロー
16.盛者必衰の理、お断り
17.フルドライブ
18.ないものねだり

(encore)
19.1.2. step to you
20.シルエット(新曲)
21.眠れぬ森の君のため
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