Nothing's Carved In Stone@Zepp Tokyo

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8月にリリースされた、メジャー3作目(通算6作目)のアルバム『Strangers In Heaven』を携えての、全国23公演のツアー。村松拓(Vo・G)が「23本中22本目、東のファイナルだと思って来てます! 集大成だと思ってね」と意気込みを伝えていたステージなのだが、本当に凄まじかった。新作の方も、バンド史上最高峰と思えるヘヴィネスとドラマティックな高揚感を描き出した傑作だったわけだが、NCISの4人が個々のスキルを遠慮なしにぶつけあうライヴ・パフォーマンスには、やはり特別な手応えがある。ステージを覆う紗幕スクリーンに映し出された大きな満月、そして浮遊感に満ちたダブステップのイントロSEの美しさに、思わず息を飲むオープニングである。

暗転したステージでは、生形真一(G)の歪んだギター・フレーズがじっくりと奏でられ、おにぃこと大喜多崇規(Dr)が振るうスティックは電飾に煌めいている。ヘヴィな音塊を楽々と振り回す豪快なグルーヴで切り出されるのは“キマイラの夜”だ。生身の肉体と精神に、膨大な情報とテクノロジーがまとわりついた現代の合成怪物=キマイラとは、NCIS、そして我々のことに他ならない。そして鮮烈なディレイ・リフとビートが鳴り響く“7th Floor”へとシームレスに連なり、紗幕が引き剥がされるといよいよ、ライトアップされたステージ上で4人が走り出す。クリアなフレーズが交錯し、村松の伸びやかな歌声で沸騰するのは“ツバメクリムゾン”だ。キックは4つ打ちでも、その上でおにぃは語るように雄弁なビートを刻んでいる。

Nothing's Carved In Stone@Zepp Tokyo
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新作モードのオープニングを引き継いで、「踊りませんかー!!」と都市の夜景を背景に繰り出されるのは“Brotherhood”だ。深い友愛を前提に立ち籠める物語とエモーション。ウブは、エフェクターを効かせたリフから鮮やかなフレージングまで、変幻自在のギター・プレイを駆使しながらその詩情を支えている。村松のしなやかな歌メロが発揮されるときほど、他の3人は自由奔放にフレーズを展開させ、その綱渡りを見るようにスリリングなNCISのアンサンブルが興奮を助長させるのだ。「ただいまー。東京帰ってきました。Zepp Tokyoソールドアウト、ありがとうございます! たくさんの思いがここに集まってくれて嬉しいです。一人残らず、ハートをあっためて帰ります」。そんなふうに率直な挨拶を投げ掛け、すぐさま楽曲へと向かう村松にも、とにかく4人の音にモノを言わせるのだ、という気概が感じられていた。

驚異的な演奏技術を備えていながら、プログラミングされたサウンドを用いて表現の幅を押し広げることも、NCISのスタイルのひとつだ。“Crying Skull”“What's My Satisfaction”“(as if it's) A Warning”といった楽曲群でアンサンブルの深部を見せつけてゆく展開だが、そんな中でも村松は身振りを交え、表現すべきエモーションの形を見失うことがない。曲間で囃し立てるオーディエンスの声に「おまえら、ちょこちょこ面白いこと言うなよ。集中できないわ! 今日は楽しいから、休憩しないでこのまま行こうか!」と放たれる言葉は結局、その後もオーディエンスの悪ノリを増幅させる引き金となってしまうわけだが、新作モードの凄味を見せつけておいて挟み込まれる“Out of Control”や“November 15th”という選曲には、盛り上がるなという方が無理な話だろう。

Nothing's Carved In Stone@Zepp Tokyo
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ひんやりと凍てつくような美しいSEにバンド・サウンドがナチュラルに絡み、村松の艶やかな歌声で心象が広がる“雪渓にて”。“Midnight Train”では、ただアグレッシヴに響くというよりも、ウキウキと楽しかったり哀愁を引き摺ったり、そんな表情豊かなスラップ・ショットで演奏を牽引する、ひなっちこと日向秀和(B)のプレイも素晴らしかった。そして“Pride”から“Idols”にかけては、メンバーがそれぞれに見せ場を作りオーディエンスの歌声も誘いながら、後半戦の熱狂が育まれていった。

「こんなに集まってくれてね。ホント、こんなに嬉しいことはないですよ。涙がちょちょぎれますよ。各地を回って、みんなにパワーを貰って、『Strangers In Heaven』ツアーをやってるんですが。みんなの力でアルバムが本当に完成していってるような、この後どうなるんだろうみたいな、不思議な気持ちです。一言で言えば、寂しいんだけど……ちがう(笑)、だから、完成していってるってことなんですよ! ありがとうございます! 俺たちはこうやって、好き勝手に音を鳴らしてるじゃん。照明がパッと当たって、ときどきみんなの顔が見えるんだけど、ほぼ100パーセント笑顔なの。俺らバンドマンにとって、こんなご褒美ないですよ!」と感慨を溢れ出させる村松である。

Nothing's Carved In Stone@Zepp Tokyo
そして再び力強いビートが繰り出される中、「ここからは、俺たちがみんなにお返しする時間です!」と放たれたのは、フロア一面にスウェイが広がって華やかな披露される“きらめきの花”。そこから“Isolation”に“Around the Clock”と、鉄板のライヴ・ナンバーを続けざまにプレイし、沸騰必死のクライマックスが描き出されていった。ここで見事なフィナーレと思いきや、本編ラストはこの上なく美しい轟音で《誰だってそうだろう 孤独な夜を越え/夢見て傷ついて でも前を見る》と歌われる“Shimmer Song”。完璧だった。こんなふうにキマイラたちは、新しい音と歌を胸に、何度でも夜へと向かい、夜を越えてゆくのだ。

Nothing's Carved In Stone@Zepp Tokyo
アンコールに応えると、“Song for an Assassin”のイントロからテクノロジーの恩恵をたっぷりと吸い込んだ“Assassin”、そこから一転して生々しいコンビネーションの“Moving In Slow-Motion”とプレイしてゆくのだが、「これ以上カッコよくなったらどうするんだろう、みたいな。そんな心配は一切無い! 今日までに2曲、新曲作りました! ちょっとやってみる?」と、前のめりなシャッフル・ビートの新曲を披露する。歌い出し部分までの触りだけだったけれども、ウブの鋭利なリフに絡み付いてゆく村松のギター・フレーズも非常に印象深いものがあった。そして順繰りにメンバー紹介を行い、「俺たちと、ここにいるみんなでNothing's Carved In Stoneです!」と告げながら向かった最終ナンバーは“Same Circle”だ。温かなコーラス・ワークが高らかに響き、ひなっちはプレイしながら自身のキャップをウブに被せたりしてしまう。

強烈な個性をぶつけあい、更なる表現の深みを目指し、作品を発表して、ツアーを回ってファンと共に楽曲を成長させ、その経験を糧にまた次の夜へと向かう。当たり前と言えば当たり前のサイクルかも知れないが、こんなふうに幸福なサイクルを続けられるバンドは、決して多くはないのだ。去り際にウブは、「1月14日に、シングルが出ます。言うの忘れてた(笑)」と慌てて告知していた。タイトルは未定で、ライヴDVDとの同時リリースとなることも既に発表されている。ツアーはいよいよ、翌10/25のZepp Nambaにてファイナルを迎える。(小池宏和)

■セットリスト

01.キマイラの夜
02.7th Floor
03.ツバメクリムゾン
04.Brotherhood
05.Spirit Inspiration
06.Crying Skull
07.What's My Satisfaction
08.(as if it's) A Warning
09.Out of Control
10.November 15th
11.雪渓にて
12.Midnight Train
13.Pride
14.白昼
15.Idols
16.きらめきの花
17.Isolation
18.Around the Clock
19.Shimmer Song

(encore)
20.Assassin
21.Moving In Slow-Motion
22.Same Circle
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