暗転したステージでは、生形真一(G)の歪んだギター・フレーズがじっくりと奏でられ、おにぃこと大喜多崇規(Dr)が振るうスティックは電飾に煌めいている。ヘヴィな音塊を楽々と振り回す豪快なグルーヴで切り出されるのは“キマイラの夜”だ。生身の肉体と精神に、膨大な情報とテクノロジーがまとわりついた現代の合成怪物=キマイラとは、NCIS、そして我々のことに他ならない。そして鮮烈なディレイ・リフとビートが鳴り響く“7th Floor”へとシームレスに連なり、紗幕が引き剥がされるといよいよ、ライトアップされたステージ上で4人が走り出す。クリアなフレーズが交錯し、村松の伸びやかな歌声で沸騰するのは“ツバメクリムゾン”だ。キックは4つ打ちでも、その上でおにぃは語るように雄弁なビートを刻んでいる。
驚異的な演奏技術を備えていながら、プログラミングされたサウンドを用いて表現の幅を押し広げることも、NCISのスタイルのひとつだ。“Crying Skull”“What's My Satisfaction”“(as if it's) A Warning”といった楽曲群でアンサンブルの深部を見せつけてゆく展開だが、そんな中でも村松は身振りを交え、表現すべきエモーションの形を見失うことがない。曲間で囃し立てるオーディエンスの声に「おまえら、ちょこちょこ面白いこと言うなよ。集中できないわ! 今日は楽しいから、休憩しないでこのまま行こうか!」と放たれる言葉は結局、その後もオーディエンスの悪ノリを増幅させる引き金となってしまうわけだが、新作モードの凄味を見せつけておいて挟み込まれる“Out of Control”や“November 15th”という選曲には、盛り上がるなという方が無理な話だろう。
「こんなに集まってくれてね。ホント、こんなに嬉しいことはないですよ。涙がちょちょぎれますよ。各地を回って、みんなにパワーを貰って、『Strangers In Heaven』ツアーをやってるんですが。みんなの力でアルバムが本当に完成していってるような、この後どうなるんだろうみたいな、不思議な気持ちです。一言で言えば、寂しいんだけど……ちがう(笑)、だから、完成していってるってことなんですよ! ありがとうございます! 俺たちはこうやって、好き勝手に音を鳴らしてるじゃん。照明がパッと当たって、ときどきみんなの顔が見えるんだけど、ほぼ100パーセント笑顔なの。俺らバンドマンにとって、こんなご褒美ないですよ!」と感慨を溢れ出させる村松である。
強烈な個性をぶつけあい、更なる表現の深みを目指し、作品を発表して、ツアーを回ってファンと共に楽曲を成長させ、その経験を糧にまた次の夜へと向かう。当たり前と言えば当たり前のサイクルかも知れないが、こんなふうに幸福なサイクルを続けられるバンドは、決して多くはないのだ。去り際にウブは、「1月14日に、シングルが出ます。言うの忘れてた(笑)」と慌てて告知していた。タイトルは未定で、ライヴDVDとの同時リリースとなることも既に発表されている。ツアーはいよいよ、翌10/25のZepp Nambaにてファイナルを迎える。(小池宏和)
■セットリスト
01.キマイラの夜
02.7th Floor
03.ツバメクリムゾン
04.Brotherhood
05.Spirit Inspiration
06.Crying Skull
07.What's My Satisfaction
08.(as if it's) A Warning
09.Out of Control
10.November 15th
11.雪渓にて
12.Midnight Train
13.Pride
14.白昼
15.Idols
16.きらめきの花
17.Isolation
18.Around the Clock
19.Shimmer Song
(encore)
20.Assassin
21.Moving In Slow-Motion
22.Same Circle