フィービー・ブリジャーズがニルヴァーナの“Lithium”をカバー”。現時点で今年最高評価の新作は必聴。本人による全曲解説集めました

フィービー・ブリジャーズがニルヴァーナの“Lithium”をカバー”。現時点で今年最高評価の新作は必聴。本人による全曲解説集めました - pic by Olof Grindpic by Olof Grind
先週末、ソロ作としてはなんと6年ぶりとなる、フィービー・ブリジャーズ待望の新作『Lost Weekend』がリリースされた。彼女は発売前にはほとんどインタビューに応じていなかったのだけど、今週BBC Radio 1の「Live Lounge」に出演した。

3曲を演奏し、新作から“Bobby”、“Lost Boys” そして3曲目にニルヴァーナの“Lithium”をカバーした。その音声はこちら。“Lithium”

ちなみにボーイジーニアスでは、ローリング・ストーン誌の表紙で、ニルヴァーナを再現したこともあった。
フィービー・ブリジャーズがニルヴァーナの“Lithium”をカバー”。現時点で今年最高評価の新作は必聴。本人による全曲解説集めました
フィービー・ブリジャーズがニルヴァーナの“Lithium”をカバー”。現時点で今年最高評価の新作は必聴。本人による全曲解説集めました
“Bobby”

“Lost Boys”

フィービーはこの後、イギリスでスペシャルライブを行う予定だったのだけど、虫垂炎により延期している。今作で描かれているのは、生前非常に複雑な関係にあった父親の死、失恋、そして新たな愛に出会うこと。その意味では壮絶な作品なのだけど、それでいてサウンドが決して重くなりすぎない。批評家からも、彼女のキャリア最高作と言えるほどの絶賛を受けている。現時点で、レビューを集計する2つのウェブサイト、MetacriticとAOTYで、2026年の1位となっている。
グラミー賞のエントリーの締切は8月21日。これだけの評価を考えれば、グラミー賞でも有力作として注目されることになるだろう。年間ベストアルバムリストでも上位ランクインするはずだ。彼女は、アルバム発売時にインタビューに応じる代わりに、全米各地のカレッジラジオで放送された特別番組に登場し、自ら全16曲を曲順に紹介している。曲の背景や歌詞の意味、レコーディングについて短いながらも本人の口から説明されているので超貴重だ。それを以下に要約した。
1. “The Outside”「DJ志望のフィービー・ブリジャーズです。今日はニューアルバム『Lost Weekend』をかけに来ました。それぞれの曲を流す前に、その曲について少しずつ話していこうと思う。最初の曲は、“The Outside”。この曲は、私が現実から自分を切り離してしまうこと、つまり解離することについての曲。それはかつて、人生から自分を守るための手段でもあった。でも今では、本当に生きていると感じたいときに、その感覚を邪魔してしまうことがある。それでは、“The Outside”をどうぞ」

2. “Lost Boys”「次の曲は“Lost Boys”。この曲は、姿を変えながら、いろいろな人として私の前に何度も現れる、ある人物像について。曲の中には3人の異なる人物が登場する。でも彼らには多くの共通点がある。依存症の問題だったり、自分で自分を傷つけてしまうような行動だったり、要するに、この世界に対して常にむき出しの神経で接しているような人たち。彼らは、どうしようもなく大きくてつらい感情と闘っていて、私はそんな彼らを愛することに苦しんでいる。最初のヴァースは父について。次はある恋愛関係について。そして最後は、おそらく私の人生で最も大切な関係について歌っている。この曲がすごく喜びに満ちた感じなのも気に入っている。アレックス・Gが、どう使えばいいのか自分でも分からなかった短いコーラス部分を書いていて、それを聴いた瞬間、私は何について書きたいのかがはっきり分かった。では、“Lost Boys”です」

3. “Kill Me”「次の曲は“Kill Me”。このアルバムの中でも特に好きな曲のひとつ。書くのも楽しかったし、レコーディングも楽しかった。プロダクションも本当に楽しみながら作った。友人のニック・ジナーが曲の最後でギターを弾いていて、私は曲の最初からずっと、彼のギターが入ってくる瞬間を待っているような感じ。
それで、この曲が何についての曲なのかは、私自身まだ考えているところ。もちろん、こういうことは半分冗談で言っているんですけど。自分の歌詞をすごく字義通りに細かく読み解かれるのは、あまり好きじゃないから。時間が経つにつれて、私の曲作りもどんどん直接的ではなくなっている気がする。だから、この曲が何についてなのかは、みなさんが教えてください。私には分からない。時間が過ぎていくこと……なのかな。たぶん。では、“Kill Me”です」

4. “The Governor’s Waltz”「次の曲は“The Governor’s Waltz”。このメロディ自体は、もうずっと前からあったもので。友人のクリスチャンが、ピアノを弾いているボイスメモを送ってくれて、私はそれを何度も何度も繰り返し聴いていた。でも、そこに歌詞をつけて歌うというのが、どうしてもしっくりこなかった。ところが、ある日なぜか『とにかく座ってやってみよう』と無理やり自分に書かせてみたら、唯一しっくりきたのが、自分の人生をあまり字義通りに書くのではなく、少しおとぎ話のように描くことだった。テーマとしては、これまでと同じように、自分の人生をちゃんと感じられないこと、自分の人生の『今』に存在している感覚が持てないことについて。それから、本当に、本当にゾッとしたことがあって。この曲にはシェリー・デュヴァルについての歌詞があるんだけど、それがこの曲で最初に書いた歌詞だった。それを書いて眠りについて、翌朝起きたら、彼女が亡くなっていた。シェリー、安らかに。みんなあなたを愛しています」

5. “Bobby”「次の曲は“Bobby”。私は、痛みやアイロニーがたっぷり染み込んだラブソングを書くことが多い。でも今回は、そういう曲にはしたくなかった。実際、自分が感じていたものがそういうものではなかったから。書きたかったのは、初めて関係を持った瞬間に恋に落ちるような感覚。誰かと出会ったことで、人生がいい意味で完全にひっくり返ってしまうような気持ち。でも、そういうことを歌った素晴らしい曲はすでにたくさんある。“There She Goes”とか、“Archie, Marry Me”とか。だから、そうした名曲の系譜に自分も一曲加える、という覚悟を決めるのがなかなか難しかった。でも結局は、自分の気持ちに正直になるしかなかった。そして、こんな感情を味わえたことを、私は本当に幸運だったと思っている。だから、ありがとう、Bobby」

6. “Lost Weekend”「さて、みなさんの友達、フィービー・ブリジャーズです。アルバム『Lost Weekend』もB面まで来ました。そしてこれはアルバムのタイトル曲、“Lost Weekend”。この曲は過去についての曲。もっとも、『結局どの曲も過去について歌ってるよね』と人に言われたけど。自分のことをいちばんよく分かってくれている人と疎遠になってしまうこと、そして自分自身も途方に暮れてしまうような感覚について歌っている。だから“Lost Weekend”というタイトルになった。
これを録音したのは、ある朝、ちょっと普通ではない意識状態にいた。曲を書き終えたばかりで、スマホをメロトロンの上に置いて、そのまま録音した。その後、この曲をスタジオに持ち込んだんだけど、最初のボイスメモほどリアルに感じられるものが何ひとつなかった。なので、その録音をそのまま残して、その上に音を重ねていった。曲の最後には、ポール・ランスキーの作品の一部をサンプリングしている。ずっと昔から大好きな曲なので、そこはアルバムの中でも特に気に入っている部分のひとつ。では、“Lost Weekend”――ボイスメモ版です」

7. “Haunted”「次の曲は“Haunted”。森の中で曲を書いていたときのこと、いつものように、なかなかうまく書けなくて。気分転換に、自分でちょっとしたブルーグラス風のメロディを弾いて遊んでいた。そうしたら、そのメロディにはすごく簡単に歌詞が書けた。それで、『とりあえずこのまま書き続けて、あとでどこかの段階で変えるか、別のものに使えばいいかな』と思っていた。でも結局、そうはならなかった。ブルーグラスの曲として、そのまますごく気に入ったから。それに、この曲には私の親友ふたり、ジュリアン・ベイカーとルーシー・デイカスに参加してもらうのがいちばん自然だと思った。というのも、この曲はある意味、少し惨めな気持ちでいた私が、彼女たちとツアーに出て、ものすごく生きている実感や幸せを感じるようになったことについての曲でもあるから。ふたりのことが本当に大好き。では、“Haunted”です」

8. “Panorama”「次の曲は“Panorama”。この曲は、私がアンビエントミュージックを大好きなことから、かなり強く影響を受けている。GrouperやFloristみたいな、アンビエントとシンガーソングライターミュージックの中間にある、ちょっと不思議なジャンルがすごく好きだから。そういう音楽性をこのアルバムにも入れたいと思っていた。それで、何かのようでもあり、何でもないようでもある、半分だけできたヴァースみたいなものがずっと宙ぶらりんになっていて。それをここに入れてみたら、自分には完璧にしっくりきた。この曲は、死がドアをノックしに来ることについての曲。そして、あなたはずっとそれを待っていた。だから、ドアを開けて中に入れる。では、“Panorama”です」

9. “Still Standing”「次の曲は“Still Standing”。この曲は、今もとても恋しく思っている父についての曲。“Still Standing”をどうぞ」

10. "Liberty Tree”「この曲は“Liberty Tree”。どうしようもないような場所で恋に落ちることについての曲。実話です。マサチューセッツにLiberty Tree Mallというショッピングモールがあって、ネットでは『バックルーム』とか『リミナル・スペース』的な場所としてすごく人気がある。みんな大好きだし、私も大好き。すごく奇妙な場所で、いるとちょっと変な精神状態になる。この曲はライブで録音した。バンドも一緒にライブ録音していて、このレコーディングの音が全部、本当に大好き。アルバム制作の本当に、本当に最後の最後に出来上がった曲なんだけど、ちゃんと入ることになって本当によかった。アルバムの中でもお気に入りの一曲。では、“Liberty Tree”です」

11. “Never Going Back!”「こんにちは。再びホストのフィービー・ブリジャーズです。今、私のアルバム『Lost Weekend』を1曲ずつ紹介していますが、C面まで来ました。この面は“Never Going Back!”という曲から始まる。タイトル通り、かなりそのままの内容。では、“Never Going Back!”です」

12. “Other Plans”「次の曲は“Other Plans”。このアルバムを作り終える、本当に最後の最後に書いた曲。もう十分すぎるくらい曲はあったので、これ以上新しい曲はまったく必要なかったんだけど。でも、この曲はすごく短時間で一気に書けたので、『これはアルバムに入るべき曲なんだ』と感じた。大切な人から、『ひとつの音だけを使ってメロディを書いてみて』という課題を出された。それで、そのあとすぐにこの曲を書いた。CP-80を弾きながら、私ひとりだけで録音したんだけど、なんだか魔法みたいな感じがした。今でも、この曲が何についての曲なのか自分でもよく分かっていない。なんとなく心当たりはあるし、自分だけのちょっとした意味もあるんですけど、それも変わるかもしれない。だから、この曲が何についてなのかは、みなさんが教えてください。では、“Other Plans”です」

13. “Lost Parade”「この曲は“Lost Parade”。内容はわりとタイトル通りなんだけど、アルバムの中に出てくるメロディのモチーフがたくさん使われている。それに、自分の昔の音楽にもすごく近い響きがある。だから、この曲を聴くと本当に過去へ連れていかれるような感覚になる。では、“Lost Parade”です」

14. “I Can’t Wait”「次の曲は“I Can’t Wait”。このアルバム全体を通して、自分でもすごく誇りに思っていることがひとつあって、それは私のボーカルにメロダイン(音程修正)を使っていないこと。別にメロダインに反対しているわけではない。むしろ素晴らしいツールだと思っている。すごくいいテイクや、素晴らしいライブテイクが録れたのに、ところどころ音程のズレが気になってしまうような場合には、本当に助けになるし、その瞬間の感情をそのまま残すこともできる。このアルバムはかなりエレクトロニックなものにしたかったので、それとは対照的になる何かも入れたかった。それから、このアルバムで面白いのは、気づいている人もいるかもしれないけど、私と同じくらいたくさん歌っているシンガーがいること。キャロライン・ショウという人で、本当に素晴らしい。アカペラグループのRoomful of Teethをはじめ、いろいろなグループで活動している。彼女は、本当に『声そのものが楽器』というような歌い方をする人。この曲では、全編を通してすごく独特な微分音の歌い方をしていて、私はそこが大好き。このアルバムの中でも特に気に入っている部分のひとつ。そしてこの曲は……ちょっとした自分自身の『現状報告』みたいな曲。当時の自分がどんな状態にいたのかを、そのまま表したようなもの。私はこの曲が好き。すごく“今ここにいる”感じがすると思う。では、“I Can’t Wait”です」

15. “As Above”「さて、このアルバムも最後から2曲目まで来ました。この曲は“As Above”。過去と現在と未来が全部重なり合っているような感覚と、飛行機に乗っているとき特有の、ちょっと変な精神状態についての曲。だって、飛行機に乗ることって、ある意味タイムトラベルみたいなものだから。飛行機は、このアルバムだけじゃなくて、私の人生そのもののテーマでもあります。とにかくいつも乗っているので。それに、飛行機の中で映画を見るとなぜか泣いてしまう、ってよく言うじゃない。たしかスペインに向かう飛行機の中で『オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式』を観ていて、それがきっかけで自分の人生についていろいろ考え始めた。では、“As Above”です」

16. “Lost Weekend (Reprise)” 「“Lost Weekend (Reprise)”――『リプライズ』なのか『リプリーズ』なのか。さて、最後の曲は“Lost Weekend (Reprise)”。どっちの発音が正しいのか、よく分からない。まあ、どっちでもいいか。もともとは“Lost Weekend Relax”というタイトルだったんだけど、それだとちょっと不穏すぎる気がして。この曲は、ある感情に戻ってくることについての曲。最初の“Lost Weekend”にあった感情に戻るんだけど、今度はもう少し覚悟ができていて、少し穏やかに受け入れられているような感じ。アルバムをずっと聴いてきて気づいたか分からないけど、私の父は亡くなりました。だから、ここでは悲しみの真っ只中にある、焼けつくような感情というより、父のどんなところを愛していたのか、父から何を学んだのかを考えている。アルバムを終えるには、いい曲だと思った。面白いのは、この曲を書いたとき、いつものように家でボイスメモを録った。背景では犬が吠えていて、一匹は私の犬、もう一匹は近所の犬。お互いに吠え合っている。最初の“Lost Weekend”もボイスメモだから、かなりローファイ。それで最初は、『じゃあ最後はハイファイなバージョンにしよう』と考えていた。教会で大きなオルガンを使って、ちゃんとしたフルバージョンを録ろうって。実際にやってみたんだけど、どうもしっくりこなかった。初めてこの曲を歌ったときの、最初のテイクのほうがずっと感情が伝わってきた。なので、そのまま聴いてください。“Lost Weekend”です。最後の最後には、教会のオルガンもこっそり入れている。聴けば分かると思う。そして最後に聞こえるのは、デモを録り終えて私がスマホを手に取る音。それでアルバムは終わる。では、“Lost Weekend”です」

「以上、私のアルバム『Lost Weekend』でした。聴いてくれて、そしてみなさんのカレッジラジオにチャンネルを合わせてくれて、本当にありがとう。みんなのことが大好き。この曲たちをライブで演奏するのが待ちきれない。みんなに会いたい。愛してる。じゃあね」今作には、ボーイジーニアスの2人、ジュリアン・ベイカーやルーシー・デイカスをはじめ、長年のコラボレーターから意外なゲストまで、そうそうたるメンツが参加している。インディ・オールスターとも言えるような作品だ。アレックス・Gはじめ、ジョン・ブライオン、コナー・オバースト、ニック・ジナー(ヤー・ヤー・ヤーズ)、ジャスティン・ブロードリック(ゴッドフレッシュ)、マヤ・ホーク、ボー・バーナム(フィービーのパートナー)など。そして私は迂闊にも気づかなかったんだけど、ギースのキャメロン・ウィンターが、偽名「サン=ジョン・ジョンソン」で参加しているという噂もある。クレジットされているのは、“Kill Me”と”I Can’t Wait”。ローリング・ストーン誌が、それについてたキャメロンに聞いたところ、笑いながら「弁護士に連絡しなきゃ」と答えたそうなので、ほぼ確実かもしれない。今作は、彼女の極めてパーソナルな6年間を綴った作品。告白や破局、父の死、そして新たな恋について歌っているのだけど、それを単なる私小説に終わらせず、記憶、時間、喪失、恋愛、そして「今ここに存在すること」、についての作品に昇華している。それがこれほど高く評価されている理由のひとつだと思う。しかも、それはテーマだけでなく、レコーディング方法やサウンドそのものにも反映されている。基盤にあるのは、フィービーらしいフォークやアメリカーナだけど、そこにアンビエント、エレクトロニクス、ブルーグラス、シューゲイズ的ギター、ヴォコーダー、ボイスメモ、教会のオルガンなど様々なサウンドを混ぜ込んでいる。それでも、いわゆる「実験作」然とした作品には全くなっていない。彼女のサウンドとして新たなものとして響かせながらも、そうした音が、それぞれの曲の感情をより正確に表現するために使われているからだと思う。ぜひ週末に聴いてみてください。フィービーのツアーは9月から開始。

さらに、本格的に女優デビューする『PRIMETIME』も9月25日から公開される。
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