フィービー・ブリジャーズが本日8月14日(金)、最新作『ロスト・ウィークエンド』をリリースした。
前作から実に6年ぶりとなる本作は、ボーイジーニアスでの活動を経て、長らく表舞台から距離を置いていた彼女が、これまでの人生に起きた奇妙な出来事や新たな出会い、そして逃れることのできない孤独を内省的に綴った、極めてパーソナルな一枚だ。愛、死、無関心、暴力といったフィービーのソロ作品の中で普遍的なテーマとして取り扱っているテーマを、最も静かで、最もミニマルな制約の中で風景的に描き出していた。 そんな本作はリリース前から、各音楽メディアから絶賛の嵐で、早くも2026年のベストアルバム候補として注目が集まっている。そんな『ロスト・ウィークエンド』のリスニング・パーティー/先行販売が、リリース前日の8月13日(木)、タワーレコード渋谷6FのTOWER VINYL SHIBUYAで開催された。会場には多くのリスナーが詰めかけ、穏やかな音像が流れる空間とは対照的に、フィジカルと先行購入特典を求める長蛇の列が形成されていた。その盛況ぶりは凄まじく、先行特典を入手できなかった参加者も出るほど。6年ぶりのソロ作を待ち続けたファンの熱量を、リリース前夜という一点に凝縮したような光景だった。とはいえ、実際にサウンドシステムから鳴らされた『ロスト・ウィークエンド』は、そうした熱狂とはおよそ対極にある。オーガニックで有機的な音の重なりは、派手なダイナミズムを見せることなく、ゆっくりと空間へ浸透していく。私自身、会場の喧騒を忘れてしまうほど、終始そのリスニング体験に没頭していた。特に印象的だったのが、3曲目“Kill Me”だ。フェードするように少しずつレイヤーが積み重なっていくその展開は、イヤフォンやヘッドフォンで聴くのとはまた異なり、音が空間そのものを満たしていく感覚を身体全体で体験させてくれた。「大人になることへの不安」や「自分が信じていたものが崩れていく感覚」を綴った、決してポジティブとは言えない楽曲。それでも、その瞬間に感じたのは不安や喪失ではなく、むしろ音楽に包まれることそのものの多幸感だった。ネガティブな感情を歌った作品が、必ずしもネガティブな体験を聴き手に与えるわけではない。その矛盾こそが、音楽という表現の面白さなのだと思う。
そして本作には、もう一つの隠し要素が存在する。それが、隠しトラック“Best Dressed”だ。
その存在自体が、ストリーミングを中心とする現在の音楽体験に対する小さなアンチテーゼのようにも思える。再生ボタンを押せばすべての音源にアクセスできる時代だからこそ、「どうすれば聴けるのか」を探す行為そのものが、アルバムを聴く体験の一部になる。※再生方法は下記にてご紹介
CD:0曲目に収録。0曲目を聴くには、CDプレイヤーで1曲目を巻き戻すとマイナス表示になり、曲が聴けるようになる(※ただし、すべての機種に対応するわけではありません)。さらに、日本盤CDには“Lost Boys (Acoustic)”がボーナストラックとして収録。
LP:Dサイドに収録。ジャケットには記載されていないが、Dサイドがエッジング仕様というわけではない。
カセット:17曲目に収録。こうした仕掛けを見ていると、『ロスト・ウィークエンド』は単に「聴くためのアルバム」として作られているわけではないことが分かる。蓄光するジャケット、隠されたトラック、フォーマットごとに異なる音源へのアクセス方法――それらは、ストリーミングによって均質化されつつある音楽体験に、もう一度「触れる」「探す」「待つ」という身体的な感覚を取り戻そうとする試みにも見える。音楽は、ただ「聴く」だけのものではない。音に耳を澄まし、ジャケットに触れ、暗闇の中に浮かび上がる光を眺め、隠された音源を探す。その一つひとつの行為まで含めて作品と向き合うことで、本作はより立体的な姿を見せてくる。ぜひフィジカルを手に取り、この作品が仕掛けた小さな謎を一つずつ解きながら、『ロスト・ウィークエンド』の世界に入り込んでみてほしい。(北川裕也)