「この3年間、いろんなことをやってきたんですけども、原点に戻って、ポップで、サイケデリックで、グロテスクな私の世界観を、今日は楽しんでいただけたらと思います。今回は『からふるぱにっくTOY BOX』ということで、『ぱにっく』にも注目していただきたいなと思います。ただのかわいいおもちゃ箱ではなくて、いろんなことが起こるので、楽しみにしてください!」。おもちゃ箱とお菓子の家がこんがらがってお城になったようなセットが舞台狭しとそびえ立つ巨大なステージから、きゃりーぱみゅぱみゅが満場の客席に呼びかけると、この日を待ち詫びたオーディエンスから熱い拍手喝采が湧き起こっていく――7月にリリースされた3rdフルアルバム『ピカピカふぁんたじん』を携え7月から9月まで開催された全17公演のホール・ツアー『きゃりーぱみゅぱみゅの雲の上のHEAVEN'S DOOR』に続き、10月18日の幕張メッセ イベントホール公演を皮切りに計9公演にわたって行われてきた、きゃりーぱみゅぱみゅ初のアリーナ・ツアー『きゃりーぱみゅぱみゅのからふるぱにっくTOY BOX』。その東京公演=国立代々木競技場第一体育館2DAYSの2日目にしてツアー・ファイナルとなったこの日のステージは、デビューから3年、今や「日本のスタンダードなポップ・アイコン」として国内外で活躍する彼女が、その輝きも苦悩も決意もすべて極上の祝祭空間の中で解き放ってみせた、特別な一夜だった。
これまでにも「遊園地」「サーカス」など明確なコンセプトをもってステージを構成してきたきゃりー、今回のツアーのテーマはタイトル通り「おもちゃ箱」。メイン・ステージとセンター・ステージが両サイドの花道でつながれた形の舞台上で、開演前から「コングリラ」(ゴリラ)、「ミッツ」(ミツバチ)、「キャティ」(猫)という「押し入れにしまい込まれて忘れ去られたぬいぐるみ」たちが闊歩したり、これまでにもきゃりーのステージをカラフルに彩ってきたキッズダンサーチーム「きゃりーキッズ」がテディベアの着ぐるみとともに「テディー族(テディー・キッズ)」としてその音楽世界を終始ファンタジックに彩っていたり、随所でピエロ顔の「ジャンピィ&ラッピィ」(トランポリンダンサー)が舞台上のトランポリンで凄技を披露していたり……といった具合に、キュートでメルヘンチックな世界観でトータル・コーディネートされていたこの日のステージ。「さあ、愉快なパーティーの始まりです!」という開幕アナウンスとともに、舞台上に置かれていた大きなプレゼントボックスが宙に浮き、ゆっくり着地。リボンを左右からテディー族が引っ張ると、中から純白のドレスをまとったフランス人形スタイルのきゃりーが登場! 湧き上がる大歓声の中、“もったいないとらんど”で代々木第一体育館は瞬く間に高揚感あふれるワンダーランドへと塗り替わっていった。

“きゃりーANAN”では1万人の「きゃりー体操」を巻き起こしたところで、“チェリーボンボン”“スキすぎてキレそう”“jelly”とミニアルバム『もしもし原宿』&1stフルアルバム『ぱみゅぱみゅレボリューション』からの楽曲をメドレーで披露。この日のもうひとつのコンセプトとして挙げていた「原点回帰」を、ステージングだけでなくデビュー当時の楽曲も織り交ぜながら展開していく。ポップでキッチュなかわいらしさと、裏腹に潜む不気味さの隙間から、観る者すべての心を揺さぶる躍動感とセンチメントを描き出していくきゃりーぱみゅぱみゅの世界が、“キミに100パーセント”“PONPONPON”やCAPSULEのカバー曲“Super Scooter Happy”(2ndアルバム『なんだこれくしょん』収録)といった楽曲群と一体になって、刻一刻とその濃密さを増し、オーディエンスの歓喜と歓声を呼び起こしていく。オーディションで選ばれた「Newきゃりーキッズ」を迎えての“Ring a Bell”を経て流れ込んだ“つけまつける”ではセンターステージへ移動、会場一丸の熱気はさらに高まっていく。ロックンロール系ナンバー“シリアスひとみ”ではプレゼントの箱に入ったきゃりーが一瞬でワンピースに衣装チェンジ!と驚く間もなく、金の紙吹雪を浴びてゴールドのドレスに変化、さらにスモークを浴びると今度は赤と黒のミニドレスに!と早着替え3連発。「とてもリスクの高いことをいつも私たちスタッフはやっていますね」ときゃりー自身も語っていたように、公演によっては衣装チェンジに失敗していたケースもあったようだが、とにかく観客を一瞬たりとも飽きさせない!という彼女の意欲が、それらの演出のひとつひとつからも伝わってきた。
“ファッションモンスター”“にんじゃりばんばん”“インベーダーインベーダー”とシングル曲を連射して場内一面のハイジャンプを巻き起こし、“み”で1万人を「ハイ! ハイ! ハイハイハイ!」のコール&レスポンスへと導いていったきゃりー。“み”の途中できゃりーが一度姿を消すと、ステージ背後に隠れていた巨大なバルーンのクマが暴れ始め、ステージは特効の炎に包まれていく。すると、続く“きらきらキラー”ではセンターステージがせり上がって巨大なケーキが出現、一段高くなったケーキの中央に、頭にイチゴを乗せたきゃりーが登場! イチゴの光線銃からレーザービームを発射、大クマを見事に退治――といった「ぱにっく」の大仕掛けから、ライヴは一気に終盤へ。“みんなのうた”で会場を高らかなクラップで包み、“トーキョーハイウェイ”“ファミリーパーティー”と『ピカピカふぁんたじん』の楽曲を畳み掛けた後、ラストを飾ったのは彼女自身「「少年が夢を見て航海に出る曲」と語っていた『ピカピカふぁんたじん』の最終曲“エクスプローラー”。マーチング・バンド風サウンドとともに《波を越えて 遠くの大地へ/いっぱいの ワクワクを知りたいから》という歌声が晴れやかに響き渡って……本編終了。

アンコールではTシャツ&クマ耳というスタイルで登場、“CANDY CANDY”で「一緒に歌って!」と熱いシンガロングを巻き起こしたきゃりー、「今日で、無事にファイナルが終わります。ありがとうございます」と語りかける彼女の目は涙に潤んでいる。「なぜ泣いてるかというと……本当に、本当に感動しました! 18でデビューしてから3年が経ちまして。今この状況で、ソロのアーティストって本当に不利で。みんなグループだったり、アイドルだったり、たくさん人がいて、大きい会場でやれてると思うんですが。ひとりで、こういう体育館を2DAYS埋めれるのかな?とか、すっごい不安だったんですけど……本当にありがとうございました!」と胸の内を明かすきゃりー。拍手と歓声が広がる。「私自身、嫌なことが続いてまして。芸能界ってこんなに大変なんだ、って思ったんですけど……外を歩くだけでプライベートのことをいろいろ言われたりして。でも、今日こうやってみんなの顔を見て……小さなお子さんから大人の方まで、たくさんの人が笑顔を見せてくれて」と広い会場を見渡す彼女。「ほんとに、『やめたいな』とか思ったりしてたんですけど……でも、これからも夢のある、ファンタジーを作り続けたいなと思います!」。満場の客席に決然と呼びかけるその姿に、惜しみない拍手喝采が降り注いでいった。
最後はダンサーやキャラクターたちオールスター勢揃いしての“ちゃんちゃかちゃんちゃん”で一面のクラップ&ハンドウェーブを巻き起こしてグランド・フィナーレ! 「みんな、今日は本当にありがとう! また会おうね。バイバイ!」というコールとともに舞台をスモークが包み、きゃりーの姿は一瞬で消え失せていた――最高の楽曲と歌とステージセットとイリュージョンが織り成す至上のポップ・ワールドが、そこには確かにあった。そして、このライヴの模様はWOWOWにて12月21日(日)21:00からオンエア!(高橋智樹)
■セットリスト
01.もったいないとらんど
02.きゃりーANAN
03.チェリーボンボン
04.スキすぎてキレそう
05.jelly
06.Super Scooter Happy
07.キミに100パーセント
08.PONPONPON
09.Ring a Bell
10.つけまつける
11.おやすみ
12.シリアスひとみ
13.ファッションモンスター
14.にんじゃりばんばん
15.インベーダーインベーダー
16.み
17.きらきらキラー
18.みんなのうた
19.トーキョーハイウェイ
20.ファミリーパーティー
21.エクスプローラー
(encore)
22.CANDY CANDY
23.ちゃんちゃかちゃんちゃん