ジェイソン・ムラーズ @ 東京国際フォーラム ホールA

ジェイソン・ムラーズという破格の才能をあらゆる角度から目撃・堪能できた、あまりにも濃い3時間だった。20分のインターバルを挟み2部制を採っていたその3時間は、最新作『イエス!』のフォーキーでオーガニックな方向性からも察しうる、未だかつてないほどシンプルむき出しの歌・メロディの美しさがフィーチャーされた第一部と、未だかつてないほどの宇宙的な広がりを持つサイケデリックに酔わされる第二部のコントラストも凄かった。しかし何よりも、その両極を自在に行き来して宙を震わせるジェイソンの歌声がさらに凄かったのだ。室内楽のミニマリズムも、交響楽のダイナミズムも、彼の声の元で完全にコントロールされ、集約されていく。3時間ほぼずっと着席で聴き入るタイプの鑑賞型のショウだったが、それを目の当たりにした私たちオーディエンスの脳内には、鑑賞型ではなく明らかに体感型の興奮が吹き荒れていたと思う。

『イエス!』にも参加しているガールズ・フォーク・バンド、レイニング・ジェーンのオープニング・セッションで幕を開ける今回のショウは、そのままレイニング・ジェーンがジェイソンのバック・バンドも務めるスタイルになっていた。「ジェイソンから一緒にやらないか?って誘われた時はマジなの?!私たちがあのジェイソン・ムラーズと?!って驚いちゃった」とドラムスのモナ、そして彼女の紹介を受けてジェイソンが登場し、1曲目の“Life Is Wonderful”がスタートする。“Life Is Wonderful”、 “Everywhere”、“Lucky”と冒頭はレイニング・ジェーンの紹介も兼ねたミニマムなアコースティック・アンサンブルで、ゆるゆると通奏されるチェロの音色も相まって親密な空気が醸成されていく。レイニング・ジェーンの女声コーラスとの掛け合いで徐々にヒートアップしていく“Lucky”は、アウトロでスパンダー・バレエの“True”のカヴァーに雪崩込んだかと思えば、そこにさらに即興でデペッシュ・モードの“Enjoy The Silence”まで歌い被せてくるという楽しさだ。

ジェイソンの弾き語りで始まった“Take The Music”では、一筋のピンスポに照らされたジェイソンの元にレイニング・ジェーンの4人が集まってきて、ここからの数曲はステージ前方でのこぢんまりとしたバスキング・スタイルでのパフォーマンスとなる。新曲“Hello, You Beautiful Thing”で鉄琴がフィーチャーされたり、“Make It Mine”ではちゃかぽことユーモラスなパーカッションと軽快なバンジョーが並走したりと、まさに『イエス!』のモードに則った親密さ、近さを感じさせるセットだ。5000人以上が詰めかけた満員の東京国際フォーラムが、まるでひとときジェイソンの家のリヴィング・ルームに早変わりしたかのような、贅沢な時間がすぎていく。

「新作の中でも特に好きな曲」だとジェイソンが紹介して始まった“Long Drive”、そして続く“I Won't Give Up”でわっ!とこの日最初の歓声と、アップビートなカントリー・ギターに煽られての最初の大合唱が巻き起こる。そして“3 Things”以降は通常のバンド・セットに戻ってのシンガロング・ナンバー攻勢だ。ジェイソンがピアノを担当する “Back To The Earth”と“Mr. Curiousity”は圧巻で、特に “Mr. Curiousity”で披露されたファルセット・ヴォイスは、直前までのカジュアル&アコースティックな世界観を一変させる威力を持っていた。1部のラスト・ナンバー“Bottom Of The Sea”では、ジェイソンたちが地球温暖化の調査のために南極を訪れた際の映像がスクリーンに映し出される。それも含めてシリアスなメッセージ性の強い曲には違いないが、「ダンシング!」のかけ声と共に映像の中のアザラシとペンギンがぴょこぴょこ首をかしげたりと、遊び心も忘れていないのがこの日の1部の彼ららしさだった。

ここまでで約2時間、そして20分の休憩を挟んでの第2部がスタートした。ミニマムで激渋な “Love Someone”での幕開けに「2部も1部同様に室内楽的な感じになるのかな?」と思ったのも束の間、ここからは全くの別次元のパフォーマンスへと急速にアンサンブルが構築されていく。そう、まさに構築型、ともするとプログレっぽくすらある緻密なカタルシスに向けて、全ての曲が育っていくのを感じられたのが2部の凄まじさだった。シタールがフィーチャーされていることもあり、格段にサイケデリックな酩酊感も強まっていく。特にブレイクビーツみたいなパーカッションが先導し、チェロとシタールが見違えるほどハイファイなレイヤーを構築していった“93 Million Miles”、地球→惑星→宇宙→ビッグバンとどんどんぶっとんだスケールになっていく映像と完璧リンクしたスペクタクル・サウンドで会場を揺るがした“Shine”はとんでもなかった。これが1時間前には飾り気のない素面のアコースティック・サウンドを響かせていたバンドと同じバンドのパフォーマンスだと思うと、その落差に頭がクラクラしてきたし、何よりもそのどちらにおいても核を担う、ジェイソン・ムラーズという歌い手の計り知れない才能に打ちのめされる体験でもあった。

“Over The Rainbow”のカヴァーを挟んで始まった“I'm Yours”で、ついに会場はこの日初めての総立ちとなる。ここまでの3時間弱で脳内に溜めまくっていた観客の興奮が一気にバーストするような、過剰な多幸感にフォーラムが包まれる。「オツカレサマデシター」とジェイソン、そして1本のマイクに5人が向かって歌い、再び1部のようなシンプリシティに立ち返り締めくくられた“It's So Hard To Say Goodbye To Yesterday”も完璧なエンディングだった。(粉川しの)

セットリスト
1. Life Is Wonderful
2. Everywhere
3. Lucky
4. Take The Music
5. Hello, You Beautiful Thing
6. Make It Mine
7. Long Drive
8. I Won't Give Up
9. The Woman I Love
10. 3 Things
11. Back To The Earth
12. Mr. Curiousity
13. Bottom Of The Sea
======================
14. Love Someone
15. Song For A Friend
16. Butterfly
17. Browntown
18. 93 Million Miles
19. A World With You
20. Shine
21. Over The Rainbow / I'm Yours
22. It's So Hard To Say Goodbye To Yesterday
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