10月にプロモーションで初来日し、各メディア引っ張りだこの大フィーチャーとなったダーティ・ループス、そんな彼らの日本デビュー盤『ダーティ・ループス』を引っさげての初来日ツアーとなったのが今回の「ヒット・ミー・ツアー」だ。スウェーデン出身の3人組、スウェーデン王立音楽アカデミーで磨いた破格のプレイヤー・スキルに加え、YouTubeにアップしたカヴァー映像で一気に世界的注目を集めた経緯、はたまたその後の日本でのお茶の間展開も含めて、どこかあのトゥー・チェロズにも似たブレイク街道を突き進んでいる彼らだが、初めてそのフル・パフォーマンスを観て、ダーティ・ループスがいかに特殊で、同時に普遍的なスーパー・バンドであるかを見せつけられてしまった。
SEと共に自ら手拍子して登場したダーティ・ループス、1曲目はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーに憧れてベースを始めたというヘンリック(B)のチョッパー・ベースがうねりまくるファンク・ビートにエレクトロ・シンセが乗るという、ダーティ・ループスのアンサンブルのユニークさを端的に示す格好のナンバー“Roller Coaster”だ。今回のライヴはヘンリック(B)、ジョナ(Vo&Key)、アーロン(Dr)の3人に加えてサポートのキーボードが加わった4人体制で、サポート・キーボードがいるのでジョナは比較的自由にヴォーカルに専念したり、ピアノで弾き語ったりと動き回るフォーメーションだ。そんなジョナの聖歌隊仕込みのファルセットが響き渡るゴージャスなソウル・チューン“Accidentally in Love”、ヒップホップ寄りのビートへと展開していく“Sayonara Love”と、ノンストップで畳み掛けたところで「ヤバーイ!」と日本語でジョナ。「コンバンワー、ゲンキ?昨日の夜はしゃぶしゃぶを食べに行ったんだけど最高だった!ヤバーイ!神戸ビーフ、アメイジング!」。
この日最初のカヴァー曲はレディー・ガガの“Just Dance”。前述のようにカヴァー曲動画でブレイクのきっかけをつかんだダーティ・ループスだが、彼らの場合はカヴァー曲のほうがむしろより鮮烈に彼らの個性が引き出されるのが面白い。“Just Dance”を筆頭にダーティ・ループスのカヴァーの選曲は基本エレクトロ・ポップ・ナンバーだし、ギターレスでキーボード2人体制の彼らのライヴはエレ・ポップ仕様のそれと言っていいだろう。しかし、ダーティ・ループスが結果弾き出すサウンドは、2010年代のビッグ・トレンドであるエレクトロ・ソウルとは全く異なったものになっている。シンセでメロディを定着させていくエレクトロ・ソウルの定石をぶっ飛ばし、即興的驚きと快感に満ちたベースとドラムスが全く別の物語をそこに作り上げていくからだ。
ピンスポの下でジョナが朗々と歌い上げるバラッド“It Hurts”でモードをがらりと変えた後、「次の曲は日本のファンのみんなに捧げます」とヘンリックが言って“Die For You”が始まる。4つ打ちのEDMで始まり、途中フュージョンに転び、そこからさらにアヴァンギャルドなピアノ連打を大フィーチャーしたインプロ・ジャズばりのフリーキーな展開へとなだれ込む“Die For You”は、このバンドのバカテクっぷりに改めてぶっ飛ばされるナンバーだ。アヴィーチーの“Wake Me Up”からブリトニー・スピアーズの“Circus”に繋げるという反則メドレーは、これまた唖然とするほど破格なアーロンのドラム・ソロで幕を閉じる。「ドラム、ヤバかったでしょ?」と誇らしげにジョナ、それを照れくさそうに聞いているアーロン、そして続く“Sexy Girls”はアーロンとヘンリックが真正面からガチンコでぶつかり合うセッションが凄まじく、会場には何度も何度も興奮のどよめきがあがる。“Wake Me Up”にしても“Circus”にしても彼らの“Sexy Girls”にしても、どれも究極のシンガロング・ポップスだと思うのだが、ダーティ・ループスのライヴの場ではメロディのキャッチーさを楽しむよりも、そこで鳴っているベース、ドラムス、そしてヴォーカルのディテールに圧倒的に耳を持っていかれる。
「これから日本語で話してみるよ、通じなかったら英語で言い直すけど」とヘンリック。そして「ケータイ、ダシテ!ライト、ツケテ!」と続ける彼の言葉を受けて無数のスマホが掲げられ、ステージに向かって照らされ始める。そんな中で“Crash and Burn Delight”はジョナのピアノ弾き語りで幕開け、その後エピックなソウル・チューンへと広がっていく。ここら辺の演出は往年の80Sっぽいと言うか、古風なポップ・バンドのそれだと感じた。これぞエレクトロ・フュージョン・ポップと呼ばれるダーティ・ループスの代名詞的ナンバー“Lost In You”、そして「悲しいお知らせなんだけど、次の曲がラスト・ナンバーです。でも、みんながたくさん拍手してくれたら……ね?」とジョナがちゃかして言って本編ラストの“The Way She Walks”へ。そして鳴り止まない拍手を受けてあっという間に(ほんとにすぐだった)彼らが再登場、アンコールが始まる。
アンコールの1曲目はもちろん、皆が予想していたであろう宇多田ヒカルの“Automatic”のカヴァー。ダーティ・ループスのそれが素晴らしいのは彼ら流に思いっきりアレンジして思いっきりファンクに仕上げているものの、同時に宇多田ヒカルの原曲にある軽やかさ、スキッピーでファジーな空気感をも全く損なっていないという点だ。そういう意味では“Automatic”は「宇多田ヒカル、すごい」と改めて感じさせられるカヴァーでもあって、対する次のジャスティン・ビーバーの“Baby”は、原曲とは異次元に位置するジャズ・ファンク・アレンジに唖然とさせられ、「ていうか、ダーティ・ループスがすごい」と言わざるを得ないカヴァーになっていた。フィナーレはツアー・タイトルにもなっているアンセム“Hit Me”。「今年日本で最も売れている洋楽新人バンド」というキャッチフレーズから連想されるキャッチーでフレンドリーな(彼ら自身はまさにそういうキャラだったけど)バンドのライヴとはかなり感触が異なる、最初から最後まで聴覚的快感が波状で押し寄せ続ける、なんだか凄いものを観てしまった、というライヴだった。(粉川しの)
セットリスト
1. Roller Coaster
2. Accidentally in Love
3. Sayonara Love
4. Just Dance
5. It Hurts
6. Take On The World
7. Die for You
8. Wake Me Up
9. Circus
10. Sexy Girls
11. Crash and Burn Delight
12. Lost in You
13. The Way She Walks
En1. Automatic
En2. Baby
En3. Hit Me