フーバスタンク @ 新木場STUDIO COAST

2年ぶりとなる来日ツアーで、今回は公演ごとに異なる日本のロック・バンドをゲスト・アクトに迎えるという趣向。まず11月25日の大阪・umeda AKASOではオープニング・アクトとしてNoisyCellを招いたパフォーマンスが行われ、11月27日の東京・新木場スタジオコーストではオープニング・アクトにCOUNTLOSTを、ゲスト枠にONE OK ROCKを迎えて共演が繰り広げられる。そして今回レポートするのは、追加公演としてスケジュールされた11月26日(つまり東京初日)のスタジオコースト。オープニング・アクトとして登場したのはMAKE MY DAYで、Isam(Vo)の今にも噛み付きそうな凄まじいスクリーミング・ヴォーカルと、Julian(G/Vo)の伸びやかなメロディアス歌唱が鮮やかにコントラストを描き出す。ギラついたヘヴィネスを振り撒きつつ、約20分という短い持ち時間の中にも最高のスタート・ダッシュを見せてくれた。

引き続き、この日のゲスト枠として登場したのは、目下リクエスト・ツアー「PLAY WHAT U WANT」を行っているMAN WITH A MISSIONだ。初っ端から驚くほど出音が良く、トーキョー・タナカ(Vo)とジャン・ケン・ジョニー(G/Vo/Raps)の並走ヴォーカルもクリアに届けられる“Get Off of My Way”を皮切りに、えげつないほどのキラー・チューン連打で今回のステージに臨んできた。ほとんどワンマン公演じゃないか、というフロアの光景を生み出す“FLY AGAIN”、激情の騒音美を描き出す“Emotions”。バキバキのロック・グルーヴを用いて物語性を伝えてしまう“When My Devil Rises”と、勢いに乗ったまま次々に多彩なカードを切ってゆくさまも見事。フーバスタンクとの共演を喜びながらも、ガチの対バンと言えるような全9曲を披露した。

さて、いよいよヘッドライナーのフーバスタンクである。MWAMの必殺曲連打を受けて、ということもないのだろうけれど、こちらも2012年作『ファイト・オア・フライト』までの代表曲がズラリと揃ったグレイテスト・ヒッツ・ライヴ。ダグラス・ロブ(Vo)の威勢の良いカウントから飛び込む“No Destination (Fight Or Flight)”がダン・エストリン(G)のディレイ・リフでダンス性を一気に加速させる。ダグは決して調子が悪そうというわけではないのだけれど、バランスの具合なのかヴォーカルの抜けが今ひとつというところ。21世紀型のハイブリッドなアメリカン・ロックの中にも、味わい深いメロディが光るフーバスタンクであるだけに、この点は少々残念だった。

“My Turn”では、「あらん限りの声で叫んでくれよ。いいかい、〈When's it gonna be my turn?〉って歌うんだよ」とレクチャーしつつコール&レスポンスに向かったのだが、「オーオー♪」というメロディアスなパートを思いっきり大きな声で歌ってしまうオーディエンスが多く、ダグが戸惑う場面も。この辺りの言葉の壁はご愛嬌だが、結局は盛大な歌声を浴びて「アリガトウゴザイマス!」と喜んでいる様子であった。そしてクリアな音像から一気に燃え盛る“Same Direction”、素晴らしいハーモニー・ヴォーカルを添えるジェシー・チャーランド(Ba)が同期サウンドを操り、それでも豪快なロックでしかありえないアンサンブルに到達する“Remember Me”と、90年代USオルタナティヴ以降の刺激的なギター・サウンドもエレクトロニカも自分たちの審美眼に照らし合わせて、効果的に配置するフーバスタンクの実力が露になっていった。

ダグは、自らもギターを抱えて“I Don't Think I Love You”に向かおうとするとき、「今回のツアーは、日本のバンドと共演できて本当に嬉しいよ。MAKE MY DAYと、MAN WITH A MISSIONに、もう一度盛大な拍手を贈ってくれ!」と笑顔で呼び掛け、ダンのドリーミーなギター音響に包まれる美曲“If I Were You”では、フロア一面に揺れる掌を前に歌いながら「奇麗だね」と満足げな言葉を漏らす。それにしても、ダンの多彩なギター・ワークは本当に素晴らしくて、重く硬質なサウンドからサイケデリックになびくサウンドまで、ギターというのはなんて雄弁な、限りない可能性を秘めた楽器なのだろう、とロック・ファン冥利に尽きる感慨があった。じわりと迫るグッド・メロディ“So Close, So Far”の次にはダイナミックな“Inside of You”と、緩急のロック体験を何度も行き来する、メリハリの効いた曲順も実に良く練り上げてある。

ダグの狂おしいファルセットが伝う“The First of Me”は、その歌メロもクッキリと浮かび上がっていて、個人的にはこの夜のベスト・ナンバーだった。そして鋭い悲鳴のようなギター・イントロから爆走する“Pieces”の盛り上がりぶりに、ダグは「ちょっと危なくないかい大丈夫? アブナイ!」とオーディエンスを気遣いつつ、クライマックスは時代を刻む大名曲“The Reason”で喝采を浴びる。本編フィナーレはクラウド・サーファーがダンと手をタッチしてしまう狂騒の“Just One”。クリス・ヘッス(Dr)のスネアは、ここぞとばかりに鋭い響き方をしていた。アンコールに応えると、キャリアに培われて来た重厚なロック・グルーヴを浴びせかける“This Is Gonna Hurt”で「今夜は楽しいなあ!」とダグが声を上げ、まだまだ人気の曲があるよ、とでも言わんばかりに“Crawling in the Dark”と“Out of Control”を放っていた。

新作リリースのタイミングではなかっただけに、00年代以降、ロック・シーンのメインストリームをひた走って来たバンドとして、名曲群を今でもヴィヴィッドに伝えるための工夫が随所に凝らされたステージであった。翌27日のスタジオコースト公演を経た後、フーバスタンクはシンガポール、台湾、ハワイと続く諸地域のステージに向かう。(小池宏和)
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