「ただひとつだけ、間違いないことがある。それは……今日が、めちゃくちゃ素敵な1日になったっていうこと! 全部みんなのおかげや! ありがとう!」という稲村太佑(Vo・G)のいつになくストレートな感謝の言葉に、満場のZepp Tokyoが雄叫びのような大歓声に包まれていく――9月24日にリリースされた最新アルバム『CAO』のリリース・ツアーとして、10月2日:千葉・稲毛 K’S DREAM公演を皮切りに日本各地を巡ってきたアルカラの全国ツアー「ア・ル・カ・ラ 7枚目『CAO』発売記念TOUR『ガイコツアー2014』ワンマンライブ」計27公演(追加公演含む)のうち、新潟/仙台/広島/福岡/札幌/名古屋/大阪/東京をサーキットしてきたワンマン・シリーズのファイナルとなる今回のステージ。自らを「ロック界の奇行師」と称してシーンを翻弄し狂喜させてきたアルカラの、「奇抜なのに切実な」ではなく「その奇抜さにこそ切実さが宿っている」という唯一無二の在り方を、この日の4人の姿が如実に物語っていた。[※以下、曲目および演奏内容についての記述があります。12月10日・渋谷TSUTAYA O-Crest以降の追加公演に参加される方はツアー終了後にご覧いただければ幸いです]
「『ガイコツアー2014』ファイナル、Zepp Tokyo! みんな、骨になるまで熱くなっていくぞ!」という稲村の絶叫とともに雪崩れ込んだ冒頭の“カラ騒ぎの彼女”“アブノーマルが足りない”から、いきなりクラウド・サーファー続出の狂騒空間を生み出してみせるアルカラ。最新アルバム『CAO』の楽曲群を要所要所に配しつつ、“チクショー”“キャッチーを科学する”“癇癪玉のお宮ちゃん”“不完全なキミ”などこれまでの名曲群をがっつり盛り込んで、ロック衝撃映像集の如き『CAO』の世界にさらに決定的瞬間を挿入していくような濃密なセットリストを構築。焦燥と衝動の化身の如き稲村の、観る者すべての頭も身体もびりびりと震わせるハイトーン・ヴォーカル。ビートとフレーズのすべてがカオティックな戦慄と胸の空くような開放感を呼び起こす、稲村/田原和憲(G)/下上貴弘(B)/疋田武史(Dr)の爆裂アンサンブル。異形の美をこの上なくドラマチックに響かせる魔術的な魅力に満ちたアルカラの音が、昨年Zepp DiverCityでワンマンを行っているとはいえ、「ライヴハウスとしては最大規模の会場=Zepp Tokyoでは今回が初ワンマン」とは到底思えないレベルの図太い存在感を持って炸裂し、フロアを文字通り熱狂の坩堝へと叩き込んでいく。
MCもなくほぼノーブレイクで畳み掛けた前半の展開から一転、中盤で一度姿を消した稲村がヴァイオリンを携え&ガイコツ陣を従えて登場、「オバケの国からやってきた、ヤル気満々ガイコツマン、略してヤリマンでーす!」の稲村のコールから“ガイコツマン”へ流れ込むと、ステージ上は暗黒おとぎ話のような空気感へと塗り替わっていく。この日のZepp Tokyoワンマンでは特別に、ひと回り大きなマスクを被った「ヤル気満々デカイマン、略してヤリマン刑事(デカ)」(後に「中の人」が“どうでもいいウタ”に参加していた高木誠司と判明)が加わってのガイコツ陣は、ステージ前面のダンサー・チームのみならず、ステージ背後に脚立を持参して不穏な祝祭感を煽った「地獄の出初め式」(?)チーム、実に10数名。そんな一幕が終わった後で、「みんな、この日をずっと待ってた? 俺もずっと待ってたよ! ついにこの日がやってきました」と思わせぶりに呼びかける稲村。「なんと……オナラの匂いをバラの匂いに変える薬が発明されたというニュースが流れてから6日が経ちましたけど、いかがお過ごしですか? ロック界の奇行師・アルカラです!」。およそロック・バンドのライヴらしからぬMCや場面の数々が、ここ一番の爆笑と歓声を湧き上がらせていく。まるで、観る者の思惑を巧みにすり抜け、思いもかけぬ角度から言葉とロックの礫を放っていく天の邪鬼のように。
アルカラの奇天烈な世界観とエクストリームな音楽世界はしかし、どこまでも切実に聴く者すべての胸を震わせ、鼓舞していく。時にどんなフィクションも追いつかないほどヘヴィで残酷な世の中を生き抜いていかなければならない、タチの悪いジョークのような僕らの人生と真っ向から対峙して、自らの表現として背負っていくために、おそらく彼らは「己の全存在を注ぎ込んだ、命懸けの“カブキ”としてのロックンロール」を鳴らすことを選んだ――ということなのだと思う。そうとでも考えなければ、彼らの(というか稲村の)偽悪的だったり挑発的だったり芝居がかっていたりする佇まいが途方もなく切迫した生命力を帯びていることの説明がつかない。「ヤリマン刑事」こと高木誠司を呼び込んでの“どうでもいいウタ”からは、再び怒濤の楽曲連射モードへ突入! “半径30cmの中を知らない”の爆走カオスも、“扉の前にて”でヘヴィに渦巻くブルースも、この日のアルカラのアクトはそのすべてが痺れるような訴求力に満ちて響いていた。
「こんな素敵な日になったのは、支えてくれたスタッフがいて、昔から支えてくれたライヴハウスがいっぱいあって、そのライヴハウスの店長たちが今日は観に来てくれてる! 一緒にやってきたバンドも、上でいっぱい観てくれてる! みんな、大きな拍手を! それから何よりも、このZeppに、貴重な時間を割いて集まってくれたみんな、ほんまどうもありがとう!」……本編終盤、むせ返るような熱気に満ちたZepp Tokyoのフロアに語りかける稲村。「俺らは、これがカッコいいと思って、これが正しいと思って、堂々と、背伸びせず、みんなに発信してるけど……これが本当にカッコいいことなのか、はたまたとても恥ずかしいことなのか、これが正解なのか不正解なのか、俺にはわかれへん! でも……」。そこに続けて、彼は冒頭に挙げた言葉を伝えていた。「ただひとつだけ、間違いないことがある。それは……今日が、めちゃくちゃ素敵な1日になったっていうこと!」と。フロアが割れんばかりの拍手喝采に包まれたのは言うまでもない。ロック・シーン未踏の地を疾駆し続けるバンドが、オーディエンスとの熱い連帯感を確かめ合った、感激の瞬間だった。
“ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト”で本編を締め括った後、アンコールでは稲村がお馴染み(?)の女装姿で登場、ツアーの対バン公演に出演したバンドをご丁寧にひとつひとつMCでいじり倒していく。アルカラのゆるキャラ「くだけねこ」を招いてのアンコールの楽曲はもちろん“くだけねこのうた”。開場狭しと満ちあふれる熱気をかき混ぜて終了……と思いきや、ステージ背後のスクリーンに流れていたツアーの密着映像が突如乱れ、スクリーンをジャックする形で映像に登場したのは、「ロック界の奇行師ヒーロー(!?)」ことアルカライダー! 「地球人になりすまし『ロック界の奇行師』と称して活動を続ける極悪音楽奇術集団『アルカラ』をこらしめるべく地球から約6(ロック)万光年離れた『アルカランドロス星雲』からやってきた」という5人組(ブラックくだけねこ含む)は、ついにはアルカラの去った後のZepp Tokyoの舞台を乗っ取り、TVアニメ『怪盗ジョーカー』のOP曲にも起用された“怪盗ミラクル少年ボーイ”まで意気揚々と轟かせていったのだった(曲中にはジョーカーも登場!)。不屈の遊び心と、晴れやかな攻撃性と、死に物狂いのヴァイタリティに満ちたアルカラの世界が、痛快なまでにでっかいスケールで咲き乱れた、最高の一夜だった。次回公演=12月10日・渋谷TSUTAYA O-Crest公演も含め、ツアー追加公演は台湾/沖縄/名古屋を経て12月25日・神戸公演まで続く!(高橋智樹)
■セットリスト
01.カラ騒ぎの彼女
02.アブノーマルが足りない
03.チクショー
04.キャッチーを科学する
05.嘘つきライアー
06.癇癪玉のお宮ちゃん
07.藤壷のキミ
08.愚痴ばっかりのローレロレロ
09.不完全なキミ
10.む・つ・ご・と
11.ガイコツマン
12.どうでもいいウタ
13.夢見る少女でいたい。
14.半径30cmの中を知らない
15.+.-
16.扉の前にて
17.振り返れば奴が蹴り上げる
18.ドナドナドーナツ
19.ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト
(encore)
20.くだけねこのうた
[アルカライダー]
01.怪盗ミラクル少年ボーイ