People In The Box@Zepp DiverCity

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3ピースのバンド・アンサンブルはかくも精緻かつ大胆に、晴れやかさも荘厳さも描くことができる、ということをまざまざと証明するかのような、ダイナミズムと美しさに満ちたサウンドスケープ。直接的なメッセージではなく豊潤なイマジネーションの力で、観る者の情熱を前へ先へと突き動かすような圧巻の表現力……昨年8月6日に同時リリースされた5thフルアルバム『Wall, Window』&シングル『聖者たち』を携えて、12月4日の名古屋CLUB QUATTRO公演を皮切りに全国7公演にわたって開催されてきた『People In The Box 「Wall, Window」「聖者たち」release tour』のファイナル:東京・Zepp DiverCity Tokyo公演は、People In The Boxというバンドが描き出すマジカルな音楽世界の核心と、波多野裕文(Vo・G)/福井健太(B)/山口大吾(Dr)の3人の奮い立つヴァイタリティが渾然一体となって、至上の祝祭空間を作り上げた名演だった。

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今回のツアーのために書き下ろされた楽曲“Wall, Window”から、間髪入れずに“天国のアクシデント”へ。波多野のファンタジックな歌声とともに広がる麗しの旋律と、シンコペーションの効いたヘヴィ&アグレッシヴな音像が妖しく美しく絡み合い、フロアを「狂騒」とも「躍動」とも別種の高揚の異次元へと誘って、オーディエンスの身体と心を揺らしていく。《ぼくはきみの翻訳機になって/世界を飛びまわってみたい》という“翻訳機”の凛としたメロディと歌がZepp DiverCityの空気を高純度の多幸感で塗り替え、波多野&福井がユニゾンで奏でる“影”のリフとメイン・フレーズがプログレッシヴ・ロックばりの展開を見せながらダイナミックな頂の風景へと昇り詰める……1曲また1曲と世界の真実と謎の扉が同時に開いていくような不思議な楽曲とアンサンブルが、会場の温度をじっくりと上げていく。

ツアー・タイトルの通り、アルバム『Wall, Window』の全11曲と“聖者たち”はじめシングル『聖者たち』収録曲群をセットリストの主軸として構成しつつ、“ダンス、ダンス、ダンス”“物質的胎児”(3rdアルバム『Ave Materia』/2012年)や“水曜日 / 密室”(3rdミニアルバム『Ghost Apple』/2009年)、さらには“水面上のアリア”(1stアルバム『Frog Queen』収録)などインディーズ時代の楽曲も含め幅広い楽曲を織り重ね、濃密な音世界を生み出していく。そんなストイックな演奏とは一転、「結構短いツアーだったので、僕MCが全然冴えてなくて……」と言う波多野に「最前列しか笑わない笑いを届けてるよね、ずっとね」(福井) 「しまいには下ネタ言ってたからね、どっかの会場で(笑)」(山口)と続けたり、「今日、成人式でしょ? 『今日成人したよ』っていう人!」と観客に呼びかけた山口が波多野の地元・北九州の成人式のヤンチャぶりをネタにしていたり――といった場面からメンバーそれぞれの表情が垣間見えるのも面白い。

People In The Box@Zepp DiverCity
『Wall, Window』の“手紙”“あの頃”から“ダンス、ダンス、ダンス”へつなげて至福の音空間を繰り広げた後、ライヴ後半の4曲では波多野がギターから鍵盤にパート・チェンジ。カラフルな“花”から、サイレンの如きサウンド・エフェクトを経て“もう大丈夫”へ流れ込み(イントロを波多野がミスってやり直したのはご愛嬌)、ピアノ・アレンジの“物質的胎児”を経て“月”の静謐でハートウォームな響きでフロアを包み込んでみせる。終盤のMCでは「3月から『空から降ってくる vol.8』……何だっけ? ああ、『空から降ってくる vol.8 〜正真正銘の全国ツアー!これ以上の全国ツアーってある?ねぇー?ねぇぇぇーーー?編〜』がありますけども……」と、年明け早々アナウンスされた計48公演の全国ツアーに触れる山口。「全国47都道府県、みなさんの街へ行きますんでね。3月からのPeople In The Box、ヤバいです!」と呼びかけた後、「全力でぶっ殺しにいくんでよろしく!」という気迫あふれまくりの山口のシャウトからライヴはさらなるクライマックスへ。“聖者たち”のめくるめくハーモニーとミステリアスなグルーヴ感が会場の空気を震わせ、波多野がアコギを奏でながら披露したアルバム『Wall, Window』の最終曲“風が吹いたら”では満場のクラップが巻き起こり、フロアを歓喜で埋め尽くして……本編終了。

アンコールを求めて鳴り止まない手拍子を受けて、再び波多野/福井/山口が舞台に登場。「本当に嬉しいですよ、こんなにたくさん来てくれて。去年より多いんじゃないですかね?」と前回の同会場でのワンマン・ライヴ(昨年1月11日『空から降ってくる vol.6』)を回想しつつ、「すごく楽しいです。本当にありがとう」と感謝を伝える波多野。「ライヴってすごく楽しいものにしたいと思ってるんだけども、ピープルの『楽しい』ってたぶん、他のバンドの『楽しい』とだいぶギャップがあるよね。何をやっても意味深になっちゃうからさ(笑)。特に、最後にやった“風が吹いたら”なんて、歌詞の内容寂しいじゃん? 本当はね。でも、それでみんな手拍子してくれて、嬉しかったです。どうもありがとう」……いかなるジャンルやスタイルでも割り切れない唯一無二の音楽を追求し、至高の輝度と強度を備えた音の地平を描き続けるPeople In The Boxのアイデンティティが、そんな飾らない言葉からも滲んでくるように思えて、思わず胸が熱くなった。

People In The Box@Zepp DiverCity
さらに、アンコールでは山口から「実は今日、ファイナルじゃございません。裏ファイナルやります!」とまさかのサプライズが飛び出す。「いつやると思いますか? え、『明日』?……正解! 場所は下北沢SHELTER。マジです!」という発表に驚きと感激でどよめくフロアを、「明日のセットリストは、今日やった曲1曲もやりません!」(山口) 「俺が疲れる古い曲ばっかりやるからね。汗だくでやるんで」(福井) 「明日やる曲、リハやってません!(笑)」(波多野)のやりとりでさらに煽ったところで、『Bird Hotel』の“月曜日消失”から“あなたのなかの忘れた海”へ、さらに“ニムロッド”の硬質なサウンドで熱気をびりびり震わせてフィナーレ……かと思いきや、再度湧き起こる手拍子に応えて三たび3人がオン・ステージ! Wアンコール1曲目はなんと、波多野自身も「できたてっていうか、できてないんですよ。頭の中で作りかけの歌詞を、どっち歌おうかな?ぐらいの感じで。でも、どうしてもやりたいんですよ」と語っていた未完成の新曲。メランコリックなアルペジオに象徴される心の深淵に、ひとすじの光をメロディで描いていくような、真摯な音像……魔法にでも魅入られたように、オーディエンスはじっとその歌と音に聴き入っていく。

この日のラストを飾った楽曲は“ヨーロッパ”。冒頭、波多野は「あと何十年とやりたいと思ってるから。みんなも、何十年と来てください!」と決然と呼びかけて、ひときわ熱い拍手喝采を呼び起こしていたのが印象的だった。3月からスタートする初の47都道府県ツアーを前に、抑え難く沸き立つ3人の冒険心とクリエイティヴィティが、最高に透徹した形で結晶した一夜だった。そして、『「Wall, Window」「聖者たち」release tour 〜裏ファイナル〜』は1月13日:東京・下北沢SHELTERにて19:00から開催!(高橋智樹)


■セットリスト

01.Wall, Window
02.天国のアクシデント
03.翻訳機
04.影
05.さまよう
06.馬
07.おいでよ
08.水面上のアリア
09.手紙
10.あの頃
11.ダンス、ダンス、ダンス
12.花
13.もう大丈夫
14.物質的胎児
15.月
16.水曜日 / 密室
17.聖者たち
18.アメリカ
19.風が吹いたら

(encore)
20.月曜日消失
21.あなたのなかの忘れた海
22.ニムロッド

(encore 2)
23.新曲(タイトル未定)
24.ヨーロッパ
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