ビョーク @ 日本武道館

2003年のフジ・ロック、2005年のライヴ8での来日を除けばじつに7年ぶりとなった、今回の単独公演。結論から言えば、ビョークの表現は、時代がどれだけ移り変わってもつねにラディカルであり続ける――そのことを確信させられるライヴだった。しかも彼女は、べつに革新的であろうとはしていないのだろう。ただただ、動物のように、嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませサウンドを探し操り、自らの魂と共振させている。そのとてつもないエネルギーには、毎度のことだが一瞬で呑み込まれてしまう。

ステージ上には、最新作『ヴォルタ』のイメージにふさわしく、動物のイラストを施した色とりどりの旗が高く掲げられている。ステージ上のビョークもやはり、最新作のモードを全身で表現するかのように、カラフルなフェイスペインティングを施し、フォークロア調の衣装をまとっている。同じように原色のスモックとフェイスペインティングを身につけた大所帯のブラス・バンド、キーボーディストにパーカッショニスト(コノノNo.1のクリス・コルサーノ)、そしてエレクトロニクスを操るマーク・ベルという編成で、ショーは進められた。

まさにヒットメドレーと呼ぶにふさわしいセットリストで、新旧の代表曲に『ヴォルタ』からの楽曲を混ぜ込んだ構成。そのどれもが、今のビョークとしかいいようのないものにアップデートされていた。アイスランドから引き連れてきた、女性ばかりのブラス・バンドが醸し出す、のびやかで牧歌的なムード。『ヴォルタ』で回帰した、プリミティヴで猛々しいリズムとビート。それらを加速させていく、徹底的にデザインされた硬質なエレクトロニック・ビート、舞台を駆け回るビョークの姿。そして、そのすべてをつなぎ合わせていくのが、言うまでもなくビョークの「声」だった。言ってみればインディ・ポップもダンス・ミュージックも、等しく鳴らされているわけなのだが、もはやハイブリッドとか融合などではないのである。あの「声」によって、それらのぶつかり合いがそのまま叩き出されていくのだ。“ディクレア・インディペンデンス”で力強く掲げられたコーラスと無数の拳は、世界への反発を物語っていたけれど、それが「怒り」として表現されるのではなく、何ものにも束縛されない自由な表現者のスピリットとして、音楽のもつ原始性として観客を圧倒し、踊らせていたのだった。しかしやはり、もうちょっと観たかった。(羽鳥麻美)
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