OGRE YOU ASSHOLE @ 渋谷クアトロ

11月5日にリリースされた2ndミニ・アルバム『しらないあいずしらせる子』のリリースに伴う東名阪ツアーの初日となる本日。最初から最後まで平熱感が漂うライブだった。そして、最初から最後までオーディエンスの拳が振り上げられることはほぼなかった。じゃあ、「盛り上がってないの?」と思われてしまいそうだが、そうではない。OGRE YOU ASSHOLEが奏でる中毒性の高い、心まで骨抜きにしてしまうような音楽を前にすると、もう抵抗ができないというか、必死に立ち向かうっていう方法が成り立たないのだ。全身の穴という穴に知らぬ間に吸収されていって音に塗れていく感じ。もう抗うことはできない。満員のフロアでオーディエンスはひたすら酔いしれるように揺れていた。

暗転とともにステージに現れるメンバー。ゆっくりとコンディションを整え演奏体勢に入る。その瞬間から会場には彼ら独特のタイム感が流れていく。勝手に名づけるとすれば沖縄時間ならぬ「オウガ時間」。穏やかな安心感がありつつ、同時に緊張感も伴うような空間だ。

ツアー初日ということで詳しいセットリストに触れることは避けるが、まず最初に披露された最新作からの楽曲が、本当にポップで開かれていてリスナーに寄り添うようなメロディが素晴らしかった。OGRE YOU ASSHOLEが奏でるメロディーは、決して世間一般でいうメロディアスなものではない。下手すれば平坦ともとれてしまうものだ。なのに、これほどまでにカラフルで鮮やかに一音一音が響いてきて、最終的にはメロディアスなものとして耳に残るのはなんでなんだろう。それは、立体感のあるバンド・アンサンブルがそうしているのだと思う。

ベースの平出とドラムの勝浦はライブ中ずっと常に向き合いながら演奏し、ストイックにグルーヴを生み出していく。馬渕と出戸のギター・アンサンブルはお互いに被らないように繊細に絡み合う。そこに出戸の甲高くて粘っこい歌声が織り交ざる。それぞれから出される音とグルーヴがもう奇跡としか言いようがないほど絶妙なバランスで構成されているのを感じることができる。緻密に重ねられた一音一音が後から妙に癖になりそうなほど耳にこびりついているのだ。

後半は初期の楽曲を次々と披露。尖ったサウンドと哀愁に満ちたメロディーがオーディエンスをかきまわし、私たちはゆらゆらと横ノリでそれぞれが思うままに降り注がれる音に身体を委ねて盛り上がっていく。初期の楽曲を聴いていると、やはりここ最近のオウガはだいぶポップな方向へ開かれているんだなと感じる。

出戸がMCで、(MCのしゃべり声と歌声が全く違って、今にも消え入りそうな声だったのが可笑しかった。)「今日はバンド史上、一番長い時間ライブをやってやります」と言っていたのだけど、ダブル・アンコール含めて全19曲約1時間半。なんだかあっという間だった。まだまだ、オウガの奔放で刺激的な音に触れていたいと思える至福のひとときだった。

ちなみに、このツアーの大阪公演を終えた後には、9mm Parabellum Bulletのツアーへの参加が控えているのだが、この2バンド、「盛り上がる」という意味が全く違うベクトルに向いていて、それぞれ真逆のライブをやるんだろうなと今日のOGRE YOU ASSHOLEのライブを観ていて想像してしまった。面白そうだ。お近くの方はぜひ。(阿部英理子)
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