ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館

赤裸々なまでにロックンロールなノエルがいた。3月のUK・ベルファストで幕を開け、日本では4/6の大阪・フェスティバルホール(追加公演)を皮切りに広島、福岡、名古屋と巡って来た『チェイシング・イエスタデイ』のツアー。そして迎えた東京・日本武道館の初日である。前作ツアーでは、最終的に超プロフェッショナルなポップ・スペクタクルへと到達していたノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズだが、サウンドの新局面も覗かせた新作のライヴは、意外なほど熱く、ハミ出すほどに衝動的なヴァイブを受け止めさせる内容だった。翌4/16には武道館での追加公演を控えているので、そちらを楽しみにしている方は以下、本文の閲覧にご注意を。

“Tomorrow Never Knows”の爆音SEが鳴り止むと、場内が暗転して大歓声の中バンド・メンバーが登場する。レコーディングにも参加しているジェレミー・ステイシー(Dr)やマイク・ロウ(Key)含め、お馴染み5人のロック・バンド編成。プラス、今回のツアーでは公演ごとに異なる現地調達ホーン・セクションがステージの所々に加わるという、ユニークな趣向が持ち込まれている。総勢8名で手応えを確かめるように、新作ボーナス・トラックの“Do The Damage”を切り出すオープニングだ。ノエルの歌も抑制を利かせた印象だったが、3曲目、眩しい太陽が昇るCGアニメーションを背景に繰り出される“Everybody’s on the Run”辺りから、いよいよ芯の強いメロディを軸に、NGHFBのサウンドが本領を発揮し迫り来る。

ノエルがアコギを抱えると、この序盤のうちにほっこりとした穏やかなアレンジで披露されてしまうオアシス曲は“Fade Away”だ。B面曲にしてこの大歓声。オアシス曲の抗い難い影響力が伺える。そして、旋律がしなやかだからこそイーヴン・ビートの推進力が映えるシングル曲“In the Heat of the Moment”を挟み、一夜の情熱的な恋をノイジーなロックで駆け抜ける“Lock All the Doors”へと向かう。これらの新作曲ではとりわけ、シンプルなアレンジのホーン・サウンドが加わり、楽曲にふくよかさをもたらしている。ただし、それ自体は新鮮なオプションではあっても、この新作ツアーの最重要ポイントではなかった。

“Riverman”を経たところで、前線のファンが掲げるプレゼントの包みに気付いたノエル。「なにそれ? フェイスマスク? それよりTシャツとか買ってくれよ! 俺にはフェイスマスクなんて必要ないけど、でもありがとう」と、相変わらず歯に衣は着せないが旅路の出会いを楽しんでみせる。そして“The Death of You and Me”は、トボケた哀愁を漂わせるトランペットのミュートが、絶妙に嵌るパフォーマンスだ。重厚なピアノの演奏に導かれた“You Know We Can’t Go Back”のロックンロールな無敵感は、間違いなく前半のハイライトだったろう。

オアシス初期から一貫して、スリリングな逃避行を求める魂と、逃げ切れないまま重くのしかかる現実の虚無感を歌い続けてきたノエル。中盤で披露された“Champagne Supernova”はかつての栄光には違いないが、今の彼にとっては重くのしかかる現実そのものだろう。ノエルはその「逃れられなさ」を熟知しているから、この曲をプレイする。ただし、あの終盤のギター・ソロを、もはや自らの手では弾かない。今の“Champagne Supernova”はノエルの手を離れ、既にファンのものになっている名曲だからだ。逃避を求める魂と、逃れられない現実がせめぎあい、するとどうなるか。吹き上がるエモーションはより熱く、激しくなる。メロディが強烈な加速感をもたらす“Ballad of the Mighty I”にしても、やたらBPMが速い“Dream On”にしても、ステージ後半のNGHFBは、ロックンロールのスリルでしか描けないものを伝えていった。

“The Mexican”は、思い切り楽曲をブーストアップするホーン・サウンドが最高だ。そして“AKA...Broken Arrow”を歌い切ると、ノエルはこう語る。「1994年、オアシスのクアトロ公演に来た奴はいるか? 君らにこの曲を捧げるよ、クソッタレ」。まさにブチかますような、痛快無比の“Digsy’s Dinner”である。こんなヤケクソ気味のメンタリティさえも掬い上げてしまうところに、ノエルが残して来た名曲群の「逃れられなさ」はあるのだろう。そして本編ラストは、“Don’t Look Back in Anger”。頭から大合唱ではあったけれども、コーラス部分に突入しようというとき、ノエルは客席を指差してスタンド・マイクから大きく離れてしまう。ファンが歌う名曲だからだ。でも、今度は終盤に、エモーショナルなギター・ソロを弾いていた。

アンコールに応えると、NGHFBのファーストから2曲、そして「今日は、来てくれてどうもありがとう。次が最後の曲、“The Masterplan”だよ。また会おうぜ」と告げて、ステージを締め括ったノエル。ファーストから7曲、新作からボートラ含め8曲、オアシス曲が5曲。《We let love get lost in anger, chasing yesterday...》というノエル史上の名フレーズを誇る“While The Song Remains The Same”が披露されなかったことは唯一の心残りだが、ただプロフェッショナルなショウマンの座に甘んじることなく、欲望と現実の狭間で踠き、全力でロックンロールするノエルは堪らなく愛おしかった。3年前がそうだったように、今夏フジロックでは更にパフォーマンスの精度を上げて来るだろう。楽しみだ。(小池宏和)

[SET LIST]

1. Do The Damage
2. (Stranded On) The Wrong Beach
3. Everybody’s on the Run
4. Fade Away
5. In the Heat of the Moment
6. Lock All the Doors
7. Riverman
8. The Death of You and Me
9. You Know We Can’t Go Back
10. Champagne Supernova
11. Ballad of the Mighty I
12. Dream On
13. The Dying of the Light
14. The Mexican
15. AKA...Broken Arrow
16. Digsy’s Dinner
17. Don’t Look Back in Anger

En1. If I Had A Gun...
En2. AKA...What a Life!
En3. The Masterplan