all pics by 五十嵐一晴「今日は『NOW AND THEN』ということで。ずいぶん大昔に作った1stアルバムと2ndアルバムの曲を全部やる!というライヴなんですけど……本当に全部やんのかな?って」と冒頭の“ランチ”の後で客席に語りかける岸田繁(Vo/G)の言葉を受けて、「アルバムツアーやっても、そのアルバムの曲あんまりやらへんかったりするバンドやったんで(笑)」と佐藤征史(B/Vo)。そこへ“虹”“オールドタイマー”と『さよならストレンジャー』の楽曲が鳴り渡り、開場の高揚感が1曲また1曲と高まっていく――。
2016年の結成20周年に向けたコンセプトライヴ「NOW AND THEN」の第1弾として、大阪2公演&東京2公演にわたって開催された今回の公演は、1stアルバム『さよならストレンジャー』(1999年)と2ndアルバム『図鑑』(2000年)の完全再現ライヴ。“東京”“虹”“街”など近年でもレパートリーに加わっている楽曲群を除けば、リリース当時以外は披露されることの少ない『さよならストレンジャー』『図鑑』収録曲を曲順通り生で体験できる貴重な機会ということで、東京公演2日目も開演前から渋谷公会堂にあふれ返っていた熱気と期待感を、くるりの「今」の豊潤な音像があっさりと凌駕していった。
今秋に出産を控えたファンファン(Tp/Key/Vo)が戦列を離れ(途中、彼女の「ありがとう」「『音博』来てね〜」というサンプリングされたメッセージが「再生」されていた)、現在は岸田繁/佐藤征史の2人にサポートプレイヤー=松本大樹(G)&mabanua(Dr)を加えた4人編成でライヴを行っているくるり。“虹”に鮮烈な色彩感を与える松本のギターソロ、“オールドタイマー”の疾走感も“トランスファー”の朗らかさもくっきりと浮かび上がらせるmabanuaのドラミングなど、スタート間もない新フォーマットの高い完成度を、この日のステージでも自然にアピールしていた。
インスト曲“ハワイ・サーティーン”をマリンバ:佐藤&効果音:岸田(スポーツ新聞をビリビリ裂いていた)で実演していたり、リヴァーブ&逆再生のインタールード的トラック“葡萄園”まで丁寧に再現したり……といった「ここまでやるか!」的な感激も最高のスパイスとして機能していたし、ゲストにゴンドウトモヒコ(Euphonium/Flugelhorn/Didgeridoo)を迎えた5人編成での『図鑑』パートも珠玉の豊潤さに満ちていた。が、何より特筆すべきは、そんな演奏を通して2015年に「解凍」された、当時20代前半の青年だったくるりの驚くほど豊かなアイデアとヴァイタリティだった。
変化球的ポップセンスと揺るぎない名曲志向を青春性とともに焼きつけた『さよならストレンジャー』。前作でも覗かせていた実験精神を朗らかに剥き出しにした『図鑑』。その2作の意味と特性を今この瞬間に立ち昇らせ得るのは取りも直さず、十数年にわたって磨き抜かれたくるりの表現力があればこそだし、リリース当時はメーターが振り切れた切迫感をもって伝わってきた“窓”や“チアノーゼ”“ロシアのルーレット”もしなやかな包容力とともに響いていたのが印象的だった。「俺やったら帰るわ。“Remember me”とか“奇跡”とか“ばらの花”でファンになった人が、『結局やらないのね!』みたいな……」と岸田は冗談めかして言っていたが、むしろ新しいファンを『さよならストレンジャー』『図鑑』の虜にするには十分すぎる輝きを、この日の歌と音は確かに備えていた。
アンコールでは未発表の新曲“その線は水平線”を披露。柔らかなコードワークが印象的なマスターピースが、特別な一夜の終わりを美しく彩っていた。このライヴは6月28日(日)17:00からWOWOWライブで放送されるので、そちらもお楽しみに。(高橋智樹)
■セットリスト
01.ランチ
02.虹
03.オールドタイマー
04.さよならストレンジャー
05.ハワイ・サーティーン
06.東京
07.トランスファー
08.葡萄園
09.7月の夜
10.りんご飴
11.傘
12.ブルース
13.イントロ
14.マーチ
15.青い空
16.ミレニアム
17.惑星づくり
18.窓
19.チアノーゼ
20.ピアノガール
21.ABULA
22.屏風浦
23.街
24.ロシアのルーレット
25.ホームラン
26.ガロン
27.宿はなし
(Encore)
28.その線は水平線(新曲)