「水曜日のカンパネラはまだ3年目なんですよ。そもそも『2年で面白いことやって、ウケなかったらそれで終わろう、それでいい』と思ってたんですけど……こんなに人が集まるようになると、やめられなくなるもんで。ありがとうございます!」というコムアイ(主演・歌唱)のあっけらかんとした、しかし感慨深げな言葉に、フロアも2階も人で埋まった赤坂BLITZから拍手喝采が降り注ぐ。5thアルバム『ジパング』を携えて全国7会場を回る「水曜日のカンパネラ・ワンマンライブツアー『ジパング』」の初日=東京・赤坂BLITZ公演。ツアーファイナルの沖縄公演以外は全会場ソールドアウトという状況が、水曜日のカンパネラという存在とその表現に対する期待値の高さを如実に表しているが、そんな熱気をあっさりと歓喜の真っ只中へ導く、自由で鮮烈なアクトを見せてくれた。[※以下、セットリストおよび曲目についての記述があります]
開場の大幅な遅れによって19:30予定だった開演が45分押しとなり、開演を待ち詫びるオーディエンスのテンションがいやが上にも高まる中、スカジャンにホットパンツ+シースルースカートという出で立ちでコムアイ登場、湧き上がる大歓声! ライヴの幕開けを飾ったのはニューアルバム『ジパング』から、PVでは「日清カレーメシ」とのコラボも実現している“ラー”。ゴージャス&ダンサブルなトラックとともに繰り出すしなやかなラップが、本人もMCで触れていた「カレーなのにインドじゃなくてエジプト」というミスマッチまでもポップのスパイスへと変えて、一面の「Your Justice!」コールを呼び起こしていく。さらに『ジパング』からもう1曲炸裂させた北海道ご当地ワード一斉掃射ナンバー“シャクシャイン”も、「この通り、大変お待たせいたしました。お詫び申し上げます! ごめんね!」と舞台中央のお立ち台に手をついて深々と陳謝するコムアイの姿までもが、会場の高揚感を刻一刻と高めていく。
「思いっきりここを湯気でいっぱいにしようと思うんで!」と“ディアブロ”での「いい湯だね!」コール&レスポンス、さらに“桃太郎”の♪きびだーん きびきびだーんのダンスとシンガロングでフロアを満たしていく。水曜日のカンパネラの楽曲は作曲・編曲担当:ケンモチヒデフミによるものだし、ケンモチ&「それ以外」担当:Dir.Fという制作陣の2人は舞台に姿を見せることがない。それゆえに、歴史上の偉人やアニメの登場人物などをネタとユーモア満載で拡大解釈しまくった歌詞世界も、クール&ハードなテクノ/ハウス/エレクトロヒップホップの音像も、「何を」鳴らしているかよりも、それをコムアイが「どう」表現しているかが重要になってくる。アンニュイでアグレッシヴな唯一無二の空気感。アートもストリートもお構いなしにポップの原動力に変えて撃ち放つ鮮烈なパフォーマンス。満場のオーディエンスを雨の赤坂に呼び寄せた誘引力を、ありったけのエモーションとともに無限増幅していくコムアイの佇まいは、何にも囚われないポップの魔法そのものだった。
ヤフオクCMでお馴染みの“ツイッギー”、光り輝くシャンデリアを片手に歌い上げた“メデューサ”、「日本からのラブレターの主が美女だと思って会ったら髭の男だった」とハードなテクノに乗せて軽やかに歌い上げた“小野妹子”など『ジパング』の楽曲を軸としつつ、「雨乞いの歌」こと“ユタ”、目にも鮮やかな着物姿で踊り回った“ナポレオン”をはじめ歴代楽曲を織り込んで、無上の祝祭空間を作り上げていく。友達同士の会話のように観客をいじりまくったり、素早く舞台を降りたかと思ったら突如2階席に現れたり、本編最後の“ドラキュラ”では直前のMCの流れで会場後方のブースまでフロアを大移動して照明スタッフに歌を委ねたり、最後には会場一丸の《ちーすーたろか おまえの ちーすうたろか》大合唱へと導いたり……舞台のみならず会場丸ごと「自分の場所」として、終始カラフルでスリリングなアクトを繰り広げていった。
「好き勝手にやったアルバムを出して、こうやってお客さんが新たに来てくれるのは、本当に救いなんですよ」とコムアイはMCで語っていた。「ミュージシャンって、やりたいことやってる人ばっかりじゃないから。でも、本当にやりたいことを、私は少しずつやれるようになってきたし。やって、それでまた評価されるようになっていきたいなと思うので。その都度やりたいことの内容が違っても、応援してください!」……音楽ファンのみならずお茶の間レベルでも、日を追うごとに熱い注目と支持を集めつつある水曜日のカンパネラ。招き猫の巨大バルーンに大人数ダンサーに「カレーメシ」着ぐるみキャラまで動員してアンコールで熱演した、この日限りのスペシャルバージョンの“ラー”が、さらなる「その先」へ向けて奮い立つコムアイの想いを象徴していた。ちなみに、このツアーは各会場ごとに異なる演出が施されているとのことで、本稿執筆時点で唯一チケットが残っている12/23・沖縄公演の会場=ガンガラーの谷・ケイブカフェは、鍾乳洞の中にあるオープンカフェとのこと。観る者の未体験ゾーンに次々と手を伸ばしていくその快進撃は、まだまだ勢いを増すばかりだ。(高橋智樹)
●セットリスト
01.ラー
02.シャクシャイン
03.ディアブロ
04.桃太郎
05.マルコ・ポーロ
06.ライト兄弟
07.ツイッギー
08.ウランちゃん
09.ユタ
10.メデューサ
11.ナポレオン
12.小野妹子
13.猪八戒
14.ドラキュラ
(encore)
15.ラー