筋金入りのファンク・グルーヴを放つ4ピース・バンドと2名のバック・コーラス兼ダンサーを引き連れたアダムがオープナーに披露したのは新作でもハードなエレクトロ・ナンバーとなった"Evil in the Night"。シャープなデザインのジャンプスーツで登場し、圧倒的なヴォーカル・パフォーマンスを披露した後に脈打つようなシンセ・ベースが炸裂する"For Your Entertainment"を叩きつけて、まずはアダムの世界観をオーディエンスにみせつけていく。さらにテクノ・ハウス的な新作からの"Ghost Town"と続き、その問答無用の歌唱力と強烈なビートという力業で観る者を自分の世界へと引き込んでいく展開は導入部としては完璧な内容。
続く"Runnin’"からはテンポを緩め、しっとりとした"Underground"やロック・チューンの"Lucy"で歌をメインに聴かせる流れへと移り、いったん舞台袖に引っ込むと濃いピンクのシルク・スーツで再登場。"Afterhours"ではむやみに歌い上げるわけではなくR&B感の強いパフォーマンスを繰り広げつつ聴き手を引き込んでいくという、そのヴォーカルの自在ぶりを披露しつつ、ここで初めてオーディエンスへのMCも披露。すると歓声もどっかーんと上がり、ここまでストイックにパフォーマンスを優先してファンを焦らすパフォーマーとしての才覚にも感服した。
楽曲は"Never Close Our Eyes"、アヴィーチーの"Lay Me Down"の80年代ディスコ・サウンド風なカヴァー、"Shady"、"Fever"、"Trespassing"と続いたが、最後の"Trespassing"ではクイーンの"Another One Bites the Dust"をひとしきり披露する展開もあった。アンコールは"If I Had You"をたっぷり時間をかけて披露しつつ、メンバー紹介も行った後に締め括られたが、それにしても圧倒的な歌唱力で常に身体にアダムの声の音圧を受けているような心地だった。ただ、技巧派や声量派として勝負しているわけではなく、一貫して飽きもこなければ、食傷気味にもならないのが、この人の才能の抜きんでているところなのだ。もちろん、曲がどれも聴きやすくてキャッチーだということもあるが、クイーンとしてのステージでも、とても愛嬌のあるパーソナリティがそのパフォーマンスから窺われたように、実はその愛嬌やパーソナリティとしての魅力がそのままこの声に備わっているのだろうなと思えてあらためてすごいものを観たと実感した。(高見展)