カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京

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カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
今夏フジロックでもベスト・アクトの呼び声が高かった、LA出身のサックス奏者/プロデューサー、カマシ・ワシントンのビルボードライブ出演。12月5日に大阪で2ステージを披露したのち、6日から8日までの3日間も各日2ステージというスケジュールでショウが行なわれているところだ。その東京初日・1stステージの模様をレポートしたい。今後のショウを楽しみにしている方は、以下ネタバレ含む本文の閲覧にご注意を。

ブレインフィーダーからリリースされた大作アルバム『ザ・エピック』(2015)により知名度を高めたカマシのリーダー来日公演は、約1年ぶり。ゆったりとしたデザインのエキゾチックな衣装に身を包み、今春にはカマシを伴って来日していたブランドン・コールマン(Key)、ライアン・ポーター(Tb)、実父リッキー・ワシントン(Fl, Soprano Sax)、女優でもあるジャズ・シンガーのパトリス・ピットマン・キン(Vo)、年明けにリーダー作のリリースを控えたマイルス・モスリー(Ba)、ソウル界の名ドラマーを父に、サンダーキャットを弟に持つロナルド・ブルーナー・ジュニア(Dr)、そしてトニー・オースティンという顔ぶれとともに姿を見せて喝采を浴びる。

カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
まずは、カマシらホーン・セクションのスピリチュアルな、しかし抑制の効いたプレイで“Askim”を切り出すオープニングだが、ツイン・ドラム編成の強力なボトムが後を追うことで、パフォーマンスは全体的にとてもファンキーかつアップリフティングな内容となっていった。ブランドンが、ノード・シンセやハモンド風のサウンドを猛烈な勢いで繰り出す一幕を始めとして、辣腕メンバーのソロも予めきっちりと織り込まれている。瞬く間に加熱するパフォーマンスは、夜の野外ステージにじっくりとスピリチュアルな宇宙を描いていった印象のフジ出演時とは、一味違った手応えだ。

父リッキーの、軽やかだが味わい深いソプラノ・サックスが伝う“Leroy and Lanisha”では、マイルスがボウイング奏法を持ち込みくるくると表情を変えるベース・プレイも披露。そして、カマシがライアンのコンポーザーとしての力量を絶賛しながらのナンバー“The Psalmnist”には、都会的に洗練されながらもスリリングなアドリブの主張が込められていった。前線メンバーがステージから履けて、ドラマー2人が競うようにソロを披露する一幕では、演奏の好みで言えばロナルドを推したいものの、まるで機械のように正確無比なプレイで雄弁なシンコペーションを描くトニーの技量には鳥肌が収まらなかった。

カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
ドラマティックな作曲が光る“Re Run”では、カマシも熱いソロを披露する。しかし、天才的な閃きでアドリブを紡ぐのとも、熱狂に身を任せてプリミティヴな高揚感を描くのとも違う、理知的なプレイだ。見た目とは裏腹なところがまた面白いのだが、彼のジャズは作曲の素晴らしさもスリリングな演奏も引っくるめて、何か科学者のように全体を把握しコントロールしているようなところがあるのだ。パフォーマンスとしては完全にジャズなのに、ポップ・ソングの売れっ子プロデューサーの如きバランス感覚が介在している。

そんなカマシのスタイルの極致と思えたのが、今回のステージの最終ナンバーとなった歌モノ“The Rhythm Changes”であった。アルバム音源よりも、さらに華やかでチャーミングな演奏だ。温かみに満ちたブロウを繰り広げるカマシを、父リッキーもニコニコしながら見守っている。そう言えば、『ザ・エピック』収録のスタンダード“Cherokee”に初めて触れたときにも同様の驚きを抱いたが、音楽に触れる幸福の、ひとつの理想と思えるものがそこにはあった。(小池宏和)

カマシ・ワシントン @ ビルボードライブ東京
〈SETLIST〉
01. Askim
02. Leroy and Lanisha
03. The Psalmnist
04. Re Run
05. The Rhythm Changes
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