ジョン・パリッシュやミック・ハーヴェイ、アラン・ヨハネスといった腕利き9人を従えた計10人のバンド編成。それぞれ複数の楽器を持ち替え、全員がコーラスで歌いハンドクラップしたり、さまざまなアンサンブルを披露する。そこに通底するのは、たとえばドラム・キットを解体して鼓笛隊のように叩く太鼓が示すように、徹底的にロックのルーティンを解体・回避して、既存の常識からもセオリーからもとことん解放されんとする姿勢だ。ブルースやR&B、トラッド・フォーク、東欧の民俗音楽、現代音楽などを自在に往還し、なおかつそのどこにも属さず、伸縮し融和し飛躍する発想の自由さは特筆もの。それでいて楽曲はポップなメロディとキャッチーなリフレインの連続で、耳を惹かれずにはいられない。
ポーリーは華奢な体型で時に独り芝居のようなシアトリカルなパフォーマンスを見せるが、決して激情をぶちまけるといった類いのものではなく、曲ごとに微妙に歌唱法や発声を変えながら、10人編成のアンサンブルの中での役割をクールに、そして圧倒的な存在感で果たしている。初期に比べると視線が社会的・歴史的に広がったぶん、昔のように抜き身のナイフで斬りつけるような衝撃や危うい足場に立ったような不安定さはなくなったが、「今歌うべき歌、届けるべきメッセージ」を歌う鋭利な知性と豊かな感性がそこかしこに閃いていたのだった。
圧巻だった。近いうちにもう一度、観たい。(小野島大)
01. Chain of Keys
02. The Ministry of Defence
03. The Community of Hope
04. The Orange Monkey
05. A Line in the Sand
06. Let England Shake
07. The Words That Maketh Murder
08. The Glorious Land
09. Written on the Forehead
10. To Talk to You
11. Dollar, Dollar
12. The Devil
13. The Wheel
14. The Ministry of Social Affairs
15. 50ft Queenie
16. Down by the Water
17. To Bring You My Love
18. River Anacostia
En1. Near the Memorials to Vietnam and Lincoln
En2. The River