米津玄師/東京国際フォーラム ホールA

米津玄師/東京国際フォーラム ホールA - All pics by 中野敬久All pics by 中野敬久
●セットリスト
1.ナンバーナイン
2.フローライト
3.メランコリーキッチン
4.あたしはゆうれい
5.翡翠の狼
6.Black Sheep
7.砂の惑星 <新曲> ※初音ミク「マジカルミライ 2017」テーマソング
8.orion
9.ゆめくいしょうじょ
10.ゴーゴー幽霊船
11.駄菓子屋商売
12.ドーナツホール
13.アイネクライネ
14.LOSER
15.ピースサイン
16.love
17.fogbound <新曲>
18.春雷 <新曲>
(アンコール)
En1.アンビリーバーズ
En2.Neighbourhood

米津玄師/東京国際フォーラム ホールA
米津玄師にとって初のホールワンマンとなる2日間。東京国際フォーラムで、各日約5000人を集めるという大舞台だ。彼らしい音楽とビジュアルが自然な形で融合し、「伝えること」の根源に迫ってゆくという、とてもドラマティックなステージであった。その2日目の模様をレポートしたい。サポートに須藤優(B・Key)、堀正輝(Dr)、中島宏(G・Key)を迎えたお馴染みのバンド編成で、サウンドと照明演出が同時に増幅してゆくような“ナンバーナイン”から本編が幕を開ける。

ホール公演ということで、もしかするとストリングスや管楽器などを加えたパフォーマンスが行われたりするのだろうか、という考えも頭をよぎったが、シークエンスを絡めた4人のサウンドは無駄な力みを感じさせることもなく、広大な会場に見合ったスケール感で届けられる。バンドの基礎体力値を向上させ、きっちりと仕上げてくるところが素晴らしい。両腕を広げてオーディエンスの歌声を誘う“フローライト”、オレンジ色の照明に染まりながらエモーショナルに届けられる“メランコリーキッチン”ときて、「どうも米津玄師です! 今日はよろしく!」と簡潔に、しかし気合漲る挨拶を投げかけるのだった。
米津玄師/東京国際フォーラム ホールA
アコギを掻き鳴らしながら土着感豊かなパレードのように響かせる“翡翠の狼”の後には、可動式のLEDスクリーンにアニメドラマが映し出される中、ハチ名義の初音ミク新作曲として製作された“砂の惑星”が披露される。はたまた満天の星空の演出を背景に歌声をぽっかりと浮かび上がらせる“orion”と、2017年に入ってからの近作曲も大活躍を見せていた。生命の力強い息吹を感じさせる幻想的なアニメーションと共に披露された“ゆめくいしょうじょ”は、米津玄師流トータルアートの真骨頂と言える一幕だ。曲が鳴り止んだ途端に、凄まじい喝采が湧き上がる。

ステージも後半に差し掛かるというところで、今度は“ゴーゴー幽霊船”に“駄菓子屋商売”、“ドーナツホール”のセルフカバーといったストレンジなロックの爆走ナンバーでホール内を沸騰させてしまう。そして米津自身もエレクトリックギターを掻き鳴らし、壮麗な轟音のレイヤーを生み出す“アイネクライネ”だ。本来の曲の良さもさることながら、やはりホールに鳴り響かせるための音の構築ぶりが見事である。さらに、ハンドマイクで身を乗り出しながら歌われる“LOSER”へと繋ぐのだから、盛り上がるなという方が無理な話だろう。バンドが勇壮なロックシンフォニーを奏で、そして歌われる“ピースサイン”もまた、こんなホールにこそ相応しいパフォーマンスだ。
米津玄師/東京国際フォーラム ホールA
ここで、書籍『かいじゅうずかん』のCDに収録されていた“love”と、未発表の新曲を続けて披露することを予告する。「最近、子どもの頃を思い返すことが増えて、大人になっているのか、子どもに帰っているのか、そういう曲が増えています」と言葉を添えながらパフォーマンスへと向かう。“love”は、無数の生命が取り巻く一本の大樹をモチーフにしたアニメーションが用いられ、ハート型の風船が浮かぶさまも“ゆめくいしょうじょ”の映像と連作になっている印象だ。そして、孤独感に向き合うフューチャーベース風のエモーショナルな新曲“fogbound”と、生き生きと弾ける歌声の新曲“春雷”でライブ本編が締め括られるのだった。
米津玄師/東京国際フォーラム ホールA
アンコールでは、気高い高揚感を抱きながら客席が波打つ“アンビリーバーズ”を放ったところで、あらためてメンバーを紹介。「2階席ー!!」「1階席ー!!」のコールをしたかったという中島が小学生時代以来の付き合いであることを告げながら、米津はこんなふうに語っていた。

「子どもの頃は、早くここから抜け出したいと思っていました。故郷があまり好きじゃなくて、遠くに行きたいと思っていたんだけど、今はこんなふうに東京で、メンバーがいてスタッフがいて、お客さんも5000人ぐらいいて……もし、今いる場所が嫌だなあと思っている人がいて、何か言えることがあるとしたら……遠くに行け、って言うね(笑)。ありがとう」。

そして届けられるのは、フォーキーな曲調から豊かな郷愁が立ち上ってくる“Neighbourhood”だ。ただがむしゃらに、一人で思いを押し殺して前へ前へ、上へ上へと進んできたわけじゃない。そこにはとても人間臭い、分かち合われるべき記憶と感情があったのだということ。4人だけの斬新なロックシンフォニーを、この大きな会場に響かせなければならなかったのもまさにそれだろう。米津玄師の表現はいつでもこんなふうに人々に語りかけ、彼自身の居場所を作り上げてゆくのだ。(小池宏和)

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