●セットリスト
1.拝啓。皆さま
2.ボクのために歌う吟
3.空が笑ってる
4.人との距離のはかりかた
5.明日から王様
6.これから
7.砂のよう
8.先生のススメ
9.待ち合わせの途中
10.ETERNAL
11.よい朝を、いとしいひと
12.あいという
13.ドーナツの真ん中
14.風の吹く町
15.風をめざして
16.傾いた空
17.手紙
-ENCORE-
1.東京
2.よろこびの吟
3.空から降る一億の星
4.嘘さえもつけない距離で
5.人間そっくり
6.さよならより、優しい言葉
7.枠
8.最近どうなの?
9.蒼き日々
今年4月に解散を発表したplentyのラストライブ「plenty ラストライブ『拝啓。皆さま』」が、日比谷野外大音楽堂にて行われた。本編17曲アンコール9曲の計26曲を、急かさず焦らさずの彼ららしいペースで演奏した約2時間半にわたるライブだったが、1曲1曲を噛みしめるように聴いても本当にあっという間だった。そして最後の音が鳴り終わり、ステージから去る3人の姿も見えなくなった後に胸に残っていたのは、「終わってしまった」というひんやりとした哀しさや寂しさではなく、じんわりとした優しい温もりを宿した「ありがとう」という感謝の想いただひとつだった。
哀しみの涙で視界がぼやけた状態で見納めたくはないなと思いながらグッと堪えていたこちらの胸の内を表すかのように、雨を降らさずになんとか曇天を保っていた空の下、「いよいよ」というべきか「遂に」というべきか、江沼郁弥(Vo・G)と新田紀彰(B)、中村一太(Dr)の3人がステージに現れた。彼らは今回のラストライブのタイトルにもなっている“拝啓。皆さま”で力強くスタートし、“ボクのために歌う吟”と初期のナンバーを続けてプレイ。続く“空が笑ってる”では、色とりどりに輝く照明が雨粒に綺麗に反射し、まるで≪カラフルな雨がからかうかな≫という歌詞をそのまま演出したかのような美しい光景に感動した。「雨でごめんね!でも楽しもう!」と激励の言葉を放った江沼だったが、こんなに美しい情景を見せてもらえたのだから全く問題ないよと、悪天すら味方にしてしまえる彼らに感謝すらした。
その後“砂のよう”、“先生のススメ”や“待ち合わせの途中”など、plentyの【動】の部分が色濃く浮かぶ楽曲が並ぶと、改めてこの3人のバランスの良さを感じた。8年間ずっと江沼の右には新田がいて、新田の左には江沼がいた。そんなふたりにとって間合いや呼吸の取り方は、わざわざ目で確認するものではなく空気で感じることができるくらいに出来上がったものだったのだろう。そうした横で繋がるふたりを、鬼迫すら感じられる超絶屈指のドラミングを繰り出す中村が土台として下から支えているのが今のplentyだ。人は慣れてくると言葉に頼らなくなるが、江沼は以前「一太が入ってから喧嘩をするようになった」と嬉しそうに話していた。それは本当に大事なことだなと思ったし、そうして言葉にすることをサボらず、ぶつかりながらも関係性を築いてきた3人のバランスは、ステージの上でも綺麗な三角形となって表れていた。
そして彼らは会場に張られた緊張をふっと解くように、“よい朝を、いとしいひと”、“あいという”で優しく穏やかな【静】をもたらした。私がplentyのライブを初めて観たのは『理想的なボクの世界』をリリースした2010年だったのだが、その頃から考えても今のplentyは本当に柔らかくなったなと思う。「バンドも人間」という言葉をよく耳にするが、plentyの場合は「バンドが人間」という成長の遂げ方をしてきたからこそ、バンドの成長過程を作品で表現しているという意味合いを彼らには特に強く感じていた。ひとり閉じこもり、愛を疑っていた8年前の彼らが、この日“風をめざして”で歌ったように≪抗って 抗って/後悔など擦り切れるまで/様々な、出逢いや、別れを繰り返しては≫、≪ひとりには馴れるけど/孤独では生きていけないから≫(“よい朝を、いとしいひと”)と歌えるようになった。バンドにとって「変化」というのは口にするほど容易く受け入れられるものではないのだろうけれど、彼らはその全てを自分の成長として、無垢な状態で曲にしていた。それがたまらなく嬉しかったし、その正直な姿勢は最後まで揺らぐことはなかった。
だからこそ、取り繕ったかっこいい言葉で本編をまとめるではなく、もうこれしか言うことがないんだよなぁという様子で「ありがとうございます。びしょびしょじゃん、みんな……ありがとう。言葉になりません。plentyでした」とだけ伝え、本編の締め括りに“手紙”を演奏した彼ららしさに安心した。この曲で江沼は途中、≪いつか会えると決めつけて≫の語尾を≪決めつけた≫と変えていた。今日を境にplentyという名前は無くしても、「江沼郁弥」はまだ進む。だから必ず、音楽を道標にして、またどこかで会おう――たったひと文字の変化だが、彼のそんな強い意思表示に聞こえた。
雨足は時間の経過と共に強くなり、観客が着ていたレインコートを激しく打ち付けていたが、アンコールを求める拍手の音と熱意には到底敵わなかった。拍手に呼ばれて再度ステージに現れた3人は「時間の許す限り、曲を詰め込んでいきたいと思います」という江沼の声に導かれて“東京”を鳴らした。東京の象徴とも言える高層ビルがひしめく日比谷の夜に響くそれは格別で、ビルの窓から零れる灯りさえ照明のひとつになっていた。エコーの効いた江沼のファルセットが幻想的に響いた“よろこびの吟”や、伸びやかに広がる“嘘さえもつけない距離で”を経て、江沼は「意外と良い曲あるんです」と冗談っぽく言ったが、いや、本当にそうだよと深く頷いた。これが最後と分かっているのに“さよならより、優しいことば”のアップテンポなサウンドに乗せて≪それじゃあね/またね≫と言い放つ感じはやっぱり憎めないし、“枠”、“最近どうなの?”で最終兵器の如く鋭く重くぶっ放した不敵のロックサウンドにはもうこれでもかというほど痺れた。
ああ、どうか終わらないでくれと思わず願った先で、江沼は悪天に見舞われたこの場所での三度のワンマンライブを振り返りつつ「でも、記憶に残るライブになったと思います」と言い、そして「次の曲で最後です。……さよなら!」と“蒼き日々”を演奏した。この曲に、このバンドに、この8年間一体どれだけ救ってもらったのだろう。そう思うと、口から出せる唯一の言葉は、彼らに縋るものではなく「ありがとう」ただ一言だった。その気持ちは恐らく満場一致のものだったと思うし、最後のお辞儀さえも不器用だった彼らがステージを去った後でも延々と鳴り響いた拍手はダブルアンコールを求めるものでは決してなく、彼らへの感謝を伝えるためのとても優しく、泣きたくなるほど温かなものだった。
この日でplentyは活動を終えたが、私たちの蒼き日々はまだ続く。終わる夜があるのなら、始まる朝もある。そう教えてくれた彼らの音楽と共に、これからも過ごしていきたい。(峯岸利恵)
終演後ブログ