My Hair is Bad/Zepp Tokyo

All photo by 藤川正典

●セットリスト
1.アフターアワー
2.グッバイ・マイマリー
3.革命はいつも
4.マイハッピーウェディング
5.真赤
6.接吻とフレンド
7.運命
8.悪い癖
9.彼氏として
10.告白
11.クリサンセマム
12.元彼氏として
13.mendo_931
14.ディアウェンディ
15.ワーカーインザダークネス
16.フロムナウオン
17.幻
18.戦争を知らない大人たち
19.ふたり
20.いつか結婚しても
21.音楽家になりたくて

(アンコール)
EN1.ドラマみたいだ
EN2.優しさの行方

(ダブルアンコール)
DEN1.エゴイスト


東名阪3ヶ所のZepp会場とバンドに縁のあるライブハウスを交互に巡るMy Hair is Badのワンマンツアー「ウルトラホームランツアー」のセミファイナル公演が、10月21日にZepp Tokyoで行われた。「ハイパーホームランツアー」、「ハイパーホームランツアー 延長戦」、「ミラクルホームランツアー」、そして今回の「ウルトラホームランツアー」と続き、来年からは「ギャラクシーホームランツアー」が始まるという代走なしで年中走りっぱなしのマイヘア。その体力と精神力には常々感服するが、そんな彼らを駆り立てる原動力は「かっこよくありたい」という想いただひとつだということが強烈までに伝わってきたアクトだった。

彼らにとって初のZepp Tokyoとなるこの日のライブはソールドアウト。隙間なく人で埋め尽くされた会場に充満した期待は、開演を知らせる暗転と共に熱気として現れた。山田淳(Dr)、山本大樹(Ba・Cho)、椎木知仁(Vo・G)が順に登場すると、「ドキドキしようぜ!」という椎木の一言に反応したオーディエンスの大歓声を合図に始まった“アフターアワー”で勢いよく火蓋を切った。そのまま“グッバイ・マイマリー”や“マイハッピーウェディング”、ブレイクの足掛かりとなった“真赤”や新曲“運命”などを続けてプレイ。山本の全身を使ったアクティブなプレイスタイルや虎視眈々と力強く放たれる山田のドラミングからは、躍動感を強く感じるもののそこにハラハラするような不安定さは全くなく、バンドの根幹を支えながらも自分たちの色をしっかりと出しているそのバランスの良さがビートとなり放たれていた。そして椎木がタイトルコールをした瞬間に毎回フロアから放たれる熱狂ともいうべく歓声が生み出す一体感にも、その都度圧倒された。

その光景を見て、マイヘアがここまで多くの人に求められるバンドに成長したことは紛れもない事実なのだが、それ以上に「3人のライブに対する姿勢は、今までと何一つ変わっていない」ということに驚いた。椎木は「パッと見でアレなんですけど、今日男の人多くないっすか? 《想ってるよ見てるよ ずっと見てるよ》(“元彼氏として”)っていう歌詞に共感してくれたんっすか? そう思ってる男がこんなに集まってると思うと、めちゃくちゃ気持ち悪いっすね(笑)。じゃあ今日は重ための女と男で、ってことで……」と笑いながら話していたが、ここにいる多くの人が「赤裸々に語られる恋愛に共感するから」という理由ひとつで集っている訳ではないはずだ。例えマイヘアを知るきっかけはそうだったとしても、バンドもファンも「共感」だけをガソリンにしていたら間違いなく枯渇するし、きっと飽きてしまう。彼らのライブがそう思わせないのは、「My Hair is Badが、変わりゆく日々を、変わらずに鳴らし続けているから」に他ならない。“フロムナウオン”で椎木は「Zepp Tokyoを目指してきたわけじゃない! でけぇところでのライブを目指してきたわけじゃなくて、俺らは、人の目の前でかっこいいロックバンドで居続けたかったんだ!」と叫んだが、その信念ひとつで歌い続ける彼らの生き様を括目したいという一心で人が集うからこそ、求めずとも自然と出来上がるような芯のある一体感が生まれるのだろう。

そんな決意が漲る白熱のアクトを終えた後に続けて演奏された“幻”や、「また秋になったので、昔の曲を引っ張り出して1曲やります」と演奏されたバラード“ふたり”にて、感慨深そうに「なつかしい」とぽつりと呟く椎木の姿からは、“フロムナウオン”での余熱を全く感じなかった。彼が、たったひとりの女性を想って描いた曲を歌いながら想い出に没頭している姿を見守るようにシンと静まり返った会場には、まるで映画館で一遍のラブストーリーを観ているような心地好さと浮遊感が漂っていた。そうして昔の想い出も描く未来もすべて抱えて「今」を鳴らし続ける彼らは、11月22日(水)にリリースされるアルバム『mothers』から新曲“いつか結婚しても”を披露。ラストは「また次の街へ!」と“音楽家になりたくて”を明るく掻き鳴らして大歓声と盛大な拍手に包まれながら本編を終えた。

再度呼ばれたアンコールでは「アンコールはサービス残業みたいなものだから、気を楽にして楽しんで帰って下さい! こういう日が続きますように。ありがとうございました!」と“ドラマみたいだ”、“優しさの行方”をプレイし、Zepp Tokyoのデビュー戦の幕を閉じた――のだが、会場スタッフが完全終演をアナウンスし清掃や機材撤去を始めても、ダブルアンコールを願うオーディエンスが粘り強く残りステージに向かって声を掛けていた。そして終演から約20分後、なんとメンバーがステージに再度登場! そしてガラガラのZeppにぶっ放されたのは“エゴイスト”! マイクなしでのインスト状態での演奏となったのだが、このサプライズには猛烈に痺れた。そうして最初の舞台を自分たちらしく締めた3人は、またすぐ次のライブを控えている。「己が望むかっこいいロックバンド」対「現在の自分」とのタイマン試合は、彼らが満足のいく飛距離のホームランをぶっ放すまできっと終わらない。(峯岸利恵)

終演後ブログ
【速報】My Hair is Bad、初のZepp Tokyo公演を観た
「バンドが大きくなる」というのは、「誰かに聴かれる機会が増え、それをきっかけにCDが売れ、ライブでの集客が増え、需要に合わせてキャパシティの大きい会場に移行し、演奏するステージが広くなることの循環」だというのは事実としてその通りだと思うし、その【目に見えて分かる環境の変化】を指標にして進化して…