米津玄師/幕張メッセ国際展示場ホール1~3

米津玄師/幕張メッセ国際展示場ホール1~3 - photo by 太田好治 / yoshiharu ota photo by 太田好治 / yoshiharu ota 

●セットリスト
1.LOSER
2.砂の惑星
3.飛燕
4.メランコリーキッチン
5.春雷
6.アイネクライネ
7.amen
8.Paper Flower
9.Undercover
10.爱丽丝
11.ピースサイン
12.TEENAGE RIOT
13.orion
14.打上花火
15.Flamingo
16.Lemon
(アンコール)
EN1.ごめんね
EN2.クランベリーとパンケーキ
EN3.灰色と青



イントロが鳴り「あの曲だ」と分かる度に、熱のこもった歓声がうわっと上がる。彼が花道を歩きながら歌えば、その周辺から順に、オーディエンスが色めき立つ。親子連れの人たちの多さは、その歌が世代を超えて愛されていることを証明するかのよう。本編終盤、CDリリース前から話題の最新曲“Flamingo”が満を持して披露された時、これだけ不可思議な曲が確かな熱狂を巻き起こしているのだという事実を前に、震えざるをえなかった。――時代の寵児になるということは、こういうことなのか。しかし、ステージ上にいる彼は既に、その遥か先に視線を向けていた。以下、米津玄師の幕張メッセ2デイズ、2日目のレポートである。

米津玄師/幕張メッセ国際展示場ホール1~3 - photo by 鳥居洋介 / yosuke toriiphoto by 鳥居洋介 / yosuke torii

バンドメンバーは中島宏士(G)、須藤優(B)、堀正輝(Dr)と最初のライブから変わらず。異なる模様を切り貼りしたような、カラフルなパーカーを着た米津がそこに加わり、4ピースの布陣だ。ライブの幕開けは“LOSER”。フードを深く被っているため米津の表情を確認することはできないが、「ありがとう!」と伝えるその声が上ずっている辺り、どうやらテンションは高そうだ。最初のブロックに関しては、曲間を繋げる種類のライブアレンジはほぼなく、それぞれの曲が独立して存在しているようなイメージ。みんなの聴きたい曲を次々と演奏するという、プレイリストのような構成で以って場内の高揚感を膨らませていく。

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セットリストは、最新アルバム『BOOTLEG』とその後にリリースした(する)シングル『Lemon』、『Flamingo / TEENAGE RIOT』の収録曲が中心。また、“メランコリーキッチン”(2ndアルバム『YANKEE』収録)のようにアレンジが刷新されているものもあり、全体として、「『BOOTLEG』以降の米津玄師」を印象づけるような内容になっていた。“アイネクライネ”終盤で米津が高音を張り上げると、バンドサウンドの熱量もさらに増していき、最初のクライマックスに達する。

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鐘の音が響いたのを境に空気は一変。スモークの中、黒装束のダンサーが舞った7曲目“amen”以降は、格子状の舞台装置や映像演出を用いながら、曲の持つ幻想的な空気感を立体的に伝えていった。音源からややテンポを落とし、重々しくじっくりと聴かせた“amen”。浮遊感のあるサウンドが次第に歪んでいく様子が圧巻だった“Paper Flower”。それら2曲を経て、未来への逃走劇を描く“Undercover”では、ドラム隊を従え花道へ。花道の先端から歌った“爱丽丝”では掻きむしるようにエレキを鳴らしたあと、景気よく発射したテープキャノンを背に、「まだまだ行こうぜ!」と、“ピースサイン”を掲げた。

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この中盤ブロックは特にボーカルが素晴らしく、内側から湧き上がってくる感情をそのまま歌に乗せているような、聴き手の胸を容赦なく搔き乱していくような、そういう切実さがあった。今考えるとこのブロックの展開には、孤独である一方で他者と繋がることを求めてしまう性(さが)やえぐみのある葛藤、後のMCで語られた「変化こそが美しい」という価値観など、クリエイター・米津玄師の真髄が投影されていたように思う。そんなタイミングで披露されたのが、新シングル収録の“TEENAGE RIOT”だ。中学生の頃に作ったフレーズが基になっているというこの曲は、米津曰く、「当時のグズグズとした、ヒリヒリとした気持ちをもう一度呼び起こして作った曲」。ストレートなロックナンバーが鳴らされるなか、正式公開に先駆けてお披露目されたMVのシンプルさにもグッときた。

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“TEENAGE RIOT”の出来をオーディエンスに尋ねつつ、「よかったあ〜!」と安堵する米津。そして彼は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。

「みんなが自分のために人生の限りある時間を割いて来てくれたってことが嬉しいです。音楽に対して変わらずやってきたからこそ、こういう美しい光景が生まれたんだと思います。どうもありがとうございます」

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「最近の俺の規模感、音楽性の変化にある種戸惑いを覚えている人もいるだろうなあと感じています。でも、なんだろうな……変わっちまったな、遠くに行ってしまったなと言われるたびに、そんなこと言うなよって思っていて」

「個人的には、変化していくことは殊一番美しいことだと思っています。同じことをやっていてもしょうがない。昔やっていた音楽はそこにある。より遠くへ行くことがある種の信念になっていて。それが自分のためだし、回りまわって聴いてくれる人のためにもなりうると思ってます」

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そんなMCのあと、披露されたのは“orion”。温かな場所を離れ険しい場所へとへ赴く時の凛とした意思、自分と《あなた》を星座になぞらえ切れない関係を願う気持ちなど、この曲で描かれている内容には先のMCと重なる部分も多い。なお、この曲では再びドラム隊が登場し、行進のリズムが一層強調されていた。

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その後は、変化を恐れない姿勢そのものというべき最新曲“Flamingo”、レモンの香りがかすかに漂うなかでの(比喩ではなくそういう演出があったのだ)“Lemon”で本編を終了。ステージと客席を光が繋ぐなかで歌われた《今でもあなたはわたしの光》というフレーズには、ライブの度、あなたの中に自分の居場所があることが嬉しいのだと欠かさず伝える、米津からのメッセージが託されているように思えた。

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アンコール冒頭、幼馴染の中島(通称・なかちゃん)とたわいもないやりとりをしながら笑う米津を見て、これは、米津玄師のこれまでとこれから、変わっていくものと変わらず在り続けるものを映し出すようなライブだったのだと改めて感じた。より遠くに行くために、より美しい表現を追い求めるために、今一度現在地を確認しておく必要があったのだろう。

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「自分が音楽を続けていく限り――死ぬまでやっていくと思うんだけど――来年も再来年も変わっていくと思う。その先で、こういう美しい空間をまた一緒に創ろうね」

そう伝え、ステージを下りた米津。来年1月から始まるアリーナツアーでは、いったいどのような光景を見せてくれるのだろうか。未来へ向かう旅路は続く。(蜂須賀ちなみ)

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