《歌う事は目的じゃない/本当は言葉なんて要らない/届かなくちゃ意味がない/君の心に触りたい》と歌うアルバムのオープニングを飾る“合い言葉”でライブはスタート。海北は、自分が抱える想いを恐れずにずっと言葉にして伝えてきた。だからこそ、言葉が優しさを生む時もあれば、誤解を生むこともあったり、言葉に希望を見出すこともあれば、裏切られることもあることを知っている。それでも、気持ちそのものを共有したい、心を揺さぶりたいという想いがある限り言葉にしていく、という力強い宣言でもあるこの歌にいきなり心奮わされてしまった。シンプルで思い切り自由で伸び伸びとした演奏からはサイダーのような青い爽快感が溢れていた。
しかも、最新アルバムの楽曲が“約束”や“一つだけ”といった初期の楽曲と一本の大きな筋で繋がって聞こえることが本当に素晴らしい。メンバーや編成の変化でその度に新しい姿を見せてきたLOST IN TIMEだが、紆余曲折ありながらもそれでも音を鳴らし続けてきた彼らの想いはこうして、今に繋がっていることを教えてくれる。そして、海北は何度も「続けていて良かった」と言っていた。春の訪れを感じさせる軽快なリズムで奏でられる“ブルーバード”も、「不完全な僕たちはいつも大事なことを忘れてしまう。でも不完全な僕たちだからこそ思い出すこともできる」という海北独特の語り口調のMCで始まった“忘れもの”も別れの歌だけど、今のLOST IN TIMEは悲しいとか寂しいとかネガティブな感情を前に進むための原動力に変えられるようになっている。だからこそ、これまでを思い出しながら「続けていて良かった」と思えるのだろう。
今日はたっぷり時間もあるということで、海北がベースの代わりにピアノを弾きながら歌う編成で“然様ならば”“静かな警報”“あなたは生きている”を披露。ピアノ弾き語りも情感豊かで言葉と歌がストレートに心に沁み入ってくる。また新しいLOST IN TIMEの形を見せてくれた。
「僕たちはこれからどれだけ失敗するんですかね。どんなに悔やもうが時は進むし、それでも歩くのは辞めない方がいいよ。きっと僕も今まで散々間違ってきたし、これからも失敗すると思う。だけど、今が充実しているし、そういう気持ちにさせてくれるのは僕と今向かい合ってくれている一人一人のおかげだから。後悔しながらでもいいじゃない。歩くのは辞めちゃだめだよ」と優しく語りかける。海北の語りにも、アルバムの充実感を物語るように温かさが滲み渡っている。オーディエンスの背中をポンと後押しする言葉とともに後半戦“列車”に突入した。なんだか涙が出そうになった。未来に対してどんなに無力でも、それでもやっぱり歩いていくしかないことは海北自身が一番良く分かっている。だから、「頑張って」ではなくて、「一緒に頑張ろうよ」と肩を叩かれているような感覚になる。「絶望や、悲しみや、憎しみや恨みそういう感情は溢れることがあっても、最後にあなたの心の中に残っているものが希望なんだと思う」と言って本編ラストは力いっぱい駆け抜けるように“希望”で締めくくられた。LOST IN TIMEのライブは、彼らとともに心の旅をしているようだ。一緒になって悲しんで、一緒になって光を求めて、一緒になって前に進んで。一緒になって明日に耳を傾ける。
ダブルアンコールのラストは“昨日の事”。海北は見えない明日に向かって何度も何度も昨日の事を叫んだ。心からの叫びは明日に届いただろうか。「昨日の事に目をつぶるのをやめてから明日が聞こえるようになった」と海北が言っていたけど、過去の迷いや苦しみと向き合って全てを受けとめた時、明日が少し近づくのかもしれない。きっと、今日のライブを観たオーディエンスそれぞれにそれぞれの明日が聞こえてきたと思う。私には確かに明日が聞こえた。(阿部英理子)
1.合い言葉
2.トライアングル
3.約束
4.キャラバン
5.一つだけ
6.教会通り
7.イロノナイセカイ
8.ブルーバード
9.サンカク
10.忘れもの
11.然様ならば
12.静かな警報
13.あなたは生きている
14.列車
15.証し
16.8月7日の夕焼けを君は見たか
17.鳥
18.線路の上
19.手紙
20.希望
アンコール1
21.ヒカリ
22.ハロー イエロー
アンコール2
23.翼
24.昨日の事