●セットリスト
01.冬の朝(未発表曲)
02.リトルシンガー
03.始まりの歌
04.君が望む世界
05.Alright!!
06.にちようび
07.Bitter
08.幸せ
09.Re
10.大人ごっこ
11.アウトサイダー
12.Never Come Back
13.want
14.真夜中ドライブ
15.逆転
16.あのころ見た光
17.Alice
18.sabotage
19.想い人
(アンコール)
EN1.丘と小さなパラダイム
EN2.またね
「すごい景色! こんなに早く見られるなんて……すごく嬉しいです」。感慨深げに語る長屋晴子(G・Vo)の言葉に、ソールドアウト満場のホール一面に高らかな拍手が広がる――。
全国9都市を巡る緑黄色社会のワンマンツアー「リョクシャ化計画2019」のラストを飾る、自身初となる東名阪ホールワンマン。そのツアーファイナル=12月8日:東京・昭和女子大学人見記念講堂公演は、ダイナミックにもメロディアスにも全方位的に咲き誇るポップの全能感を鮮烈に伝えるものだった。
そして同時に、圧倒的な存在感を放つ長屋の歌が、紛れもなく「緑黄色社会というバンドの必然」の中においてこそ最大限の輝きを放っている――ということを、この日のアクトは明確に証明するものでもあった。
紗幕に覆われたままのステージ上に照らし出されたのは、ピアノを奏でる長屋の姿。未発表曲“冬の朝”の凜としたサウンドスケープで会場を包み込んだところで、舞台の幕が上がると一転“リトルシンガー”でホール丸ごと突き抜けるような高揚感の絶景へと塗り替わっていく。さらに“始まりの歌”で♪ララルラ〜のシンガロングと熱いクラップを呼び起こし――と1曲ごとに鮮やかな色彩感と躍動感を描き出してみせる。
長屋晴子/小林壱誓(G・Cho)/peppe(Key・Cho)/穴見真吾(B・Cho)のメンバー4人それぞれが詞曲を手掛け、多彩な音楽的エッセンスを持ち込んで編み上げる緑黄色社会の楽曲。そして、そのひとつひとつに伸びやかな感情と飛翔力を与える長屋のボーカル。“Alright!!”のダンサブルな多幸感も、休日のアンニュイな空気感をジャジーなスウィング感ごとポップの彼方へぶっ放す“にちようび”も、静謐なバラードナンバー“幸せ”も、それらすべてが緑黄色社会という音楽の限界なき自由の証のように爽快に鳴り渡っていく。
緑黄色社会の楽曲では、しなやかさと鋭利さを備えた小林のギタープレイも、縦横無尽にうねる穴見のベースラインも、楽曲全体に澄み切った透度を与えるpeppeのピアノも「前面に出る」ことではなく、長屋の歌とともに「ひとつの音楽世界」を構築することに向かっている。
インタビューなどでは長屋の歌への絶対的な信頼感を語っている小林・peppe・穴見。だが、“Re”のオルタナバラード感や“アウトサイダー”のアグレッシブなロック感、“Never Come Back”のハイパー&ミステリアスな緊迫感……といった具合にジャンルもスタイルも自在に越境して音楽の魅力を最大限に解き放つ緑黄色社会の楽曲とアンサンブルはまさに、長屋の歌にとっても最高のホームグラウンドである。今回のツアーファイナルのステージは、そのことを何より雄弁に物語っていた。
後半は“want”から“真夜中ドライブ”、とライブはさらなるクライマックスへ。ラウド&エクストリームな“逆転”が会場を震わせ、“あのころ見た光”でホール一丸のコール&レスポンスを巻き起こしていく。晴れやかなクラップと歓喜が弾け回るアッパーなナンバー“Alice”に続けて、ドラマ主題歌としてオンエア中の最新シングル曲“sabotage”の目映いメロディを突き上げる長屋の熱唱が響き渡ると、会場はさらに濃密な祝祭感と歌声に包まれていく。
9公演の各会場にメッセージフラッグが設置されていたり、ライブ中にもメンバーがカラーボールを客席の隅々に投げ渡したり、長屋がバズーカ砲を発射したり……といった具合に、演奏以外でも終始ステージと客席との開放的な一体感に満ちていたこの日のアクト。「スタッフさんが、緑黄色社会のお客さんはドリンクをもらう時、本当にみんな『ありがとう』って言うんだよ、って教えてくれたの。できるようでできないことだよって。近くで見守ってくれてる人たちが、みんな温かい人でよかったなって、心から思います」と長屋は終盤のMCで話していたが、そんな磁場を生んでいるのは取りも直さず、喜怒哀楽のすべてを屈託なくポップの極致へと昇華する4人の高純度な表現精神とクリエイティビティそのものだ――と感じさせる一夜だった。
そして。ツアーを振り返りながら「ちょっと恥ずかしくて、横が見れないんだけど……」と照れくさそうに長屋が語ったのは、メンバーへのまっすぐな感謝の気持ちだった。
「4人とも初めて組んだバンドで、私たちの行動すべてが初めてで……すごく逞しい、頼もしい、愛おしいメンバーだなって思います。歌を歌うのが好きで、それだけがすべてで、音楽を続けてきたんだけど。一番そばで、私の歌を支えてくれてるメンバーが、この3人でよかったなって思います」……時折声を震わせながら想いを告げる長屋の言葉に、小林・peppe・穴見も感極まった表情でじっと聞き入っている。
「バンドを組んだ頃から『国民的存在になりたいね』っていう話をたくさんしてきたけど、私たちの力で、ちゃんと手の届くところまで来てるなって――そう思えたツアーで。夢があるなって改めて思った。いい人たちに囲まれて、歌を歌うことができて。すごく幸せだなと思いました。このメンバーと、みんなと、もっと大きな景色が見たい。見れると思ってる」
そんな言葉とともに本編最後に披露したのは、珠玉のバラード曲“想い人”だった。《愛されながら愛していく/もらった愛の分だけ/守っていこう 返していこう》……4人が響かせる壮麗なアンサンブルと歌声は間違いなく、次世代のポップスタンダードとしての訴求力に満ちていた。
アンコールでは「バンドを始めた頃の曲」=“丘と小さなパラダイム”、さらに「私たちはこれからも、みんなのことを『リョクシャ化』し続けていくので」と最後は“またね”でフィナーレ。メッセージフラッグとともに記念写真を撮った後、終演SEで流れた“sabotage”に合わせて再びシンガロングが沸き起こる――。見果てぬ躍進の道程を十分に予感させる、至上のステージだった。(高橋智樹)