レキシ/中野サンプラザ

レキシ/中野サンプラザ - All photo by 聖徳太郎(田中聖太郎)All photo by 聖徳太郎(田中聖太郎)

●セットリスト
01.Takeda’
02.SHIKIBU
03.甘えん坊将軍
04.Good bye ちょんまげ
05.KATOKU
06.妹子なぅ
07.ひみつのヒミコちゃん
08.出島で待ってる
09.どげんか遷都物語
10.僕の印籠知りませんか?
11.salt & stone
12.旧石器ベイベ~君がいない幕府~憲法セブンティーン
13.レキシ ト ア・ソ・ボ
14.きらきら武士
15.KMTR645
(アンコール)
EN1.狩りから稲作へ
EN2.LOVEレキシ


「今夜も最高にクールなメンバーと、最高にホットなナンバーをお届けしていくぜ!」、「『アナザーレキシ』だから。いつものレキシとはそう、グッバイしてくってことだから!」……メンバー全員革ジャン&サングラスでキメたステージの中央で、レキシこと池田貴史はひときわロックスター感を醸し出しながらぶち上げてみせる。が、次の瞬間「《紅茶のおいしい喫茶店》……それは“ハロー・グッバイ”!」と呼吸レベルの自然さで交感神経の隙間に小ネタを挟んでくると、開演時点から沸点越え状態の客席が堪え難く笑いと歓喜に包まれていく――。

最新アルバム『ムキシ』を携えての昨年末のホールツアー「まんま日本ムキシばなし」とその追加公演=横浜アリーナ2Days&大阪城ホール(1〜2月)、豪華ゲストを擁して行われた「特別公演~豪華絢爛レキシ歌絵巻~」(5月)、と2018〜2019年にかけて立て続けにツアーを敢行してきたレキシが、2019年の締め括りとして開催した全17公演のホールツアーは、題して「レキシTOUR 2019『アナザーレキシ~あなたの知らないレキシの世界~』」。人気曲の最新リアレンジバージョンや過去ライブにおけるレア曲などアナザーサイド・オブ・レキシを網羅した、それだけにレキシの遊び心とサービス精神(と一抹の悪戯心)、さらにファンクを軸としつつも多彩な音楽性が、よりいっそう爽快に弾けたツアーとなった。

レキシ/中野サンプラザ

ツアー前半の11月27日:東京・中野サンプラザ。紗幕に覆われた舞台にお館様(レキシ)、健介さん格さん(G/奥田健介/NONA REEVES)、元気出せ!遣唐使(Piano・Cho/渡和久/風味堂)、ヒロ出島(B/山口寛雄)、蹴鞠Chang(Dr/玉田豊夢)、TAKE 島流し(Sax・Flute/武嶋聡)、元妹子(Trumpet/村上基/在日ファンク)が登場。4つ打ちのビートとともに“Takeda’”をクールかつ大胆にリアレンジした音像の中、鮮烈にデザインされたリリックビデオ風の映像が紗幕に映し出され、驚きとともに高揚感が会場に広がっていく。幕が上がり、普段の着物姿とはがらりと趣の異なる革ジャン&サングラス姿のレキシの佇まいが露わになったところで、「行くぜ中野!」と“SHIKIBU”で客席を揺らし、マイクスタンドを振り上げるレキシに応えて一面のシンガロングが巻き起こる。さらに“甘えん坊将軍”ではエルヴィス・プレスリーばりの熱唱を聴かせ……といった具合に、観る者すべてを「いつもとは違うレキシ」感へと駆り立てていく。

が、「OK、サンキュー! 今夜の主役はお前たちだぜ!……これは氷室京介さんのライブからの引用です(笑)」とMCのひと言ひと言で爆笑を誘い、続く“Good bye ちょんまげ”でお館様いわく「親御さんが見たら止めに入るレベル(笑)」の一見異様なウィスパーボイスのコール&レスポンスへと会場を巻き込み、“妹子なぅ”での《Don’t look back 飛鳥 飛鳥 飛鳥》のフレーズから「♪Don’t look back in 飛鳥〜」とオアシス“Don't Look Back In Anger”へごく自然にクロスフェードして会場一面のハンドウェーブとシンガロングを巻き起こしたり……といったレキシならではのポップ名人芸で、会場を刻一刻と突き抜けるような祝祭感の彼方へと導いてみせる。序盤ですでに汗だくのお館様、「さすがに汗だくなんで革ジャン脱いでもいいかな――と思ったらもうメンバーは脱いでた! おい!(笑)」。爆笑が広がる。

レキシ/中野サンプラザ

「ロックは大人だけのものじゃないと、池田は思うのね。チルドレンだってさ、ロック聴きたいじゃない?」とNHKの子供番組『みいつけた!』への提供曲“ひみつのヒミコちゃん”を披露したり、“どげんか遷都物語”のイントロでは舞台背後の「Another Rekishi」ロゴ型のネオンサインをワインレッド色に染めながら安全地帯“ワインレッドの心”へ脱線したり、と全方位・全世代的な音楽のネタと記憶を総動員して、高密度な娯楽空間を作り上げていくレキシ。もちろんそこには、ポップの真芯を捉えた楽曲と辣腕メンバーのプレイアビリティがあればこそ、なことは言うまでもない。

「そろそろ騒ぎたくなってきたんじゃない?」と“salt & stone”、さらに“旧石器ベイベ”、“君がいない幕府”、“憲法セブンティーン”のメドレーの後、“レキシ ト ア・ソ・ボ”のメンバーのソロ回しの間にひとり退場していたお館様は黒&赤の着物姿で再登場! シンガロング鳴り渡る“きらきら武士”で会場丸ごと揺さぶって、普段ならイルカの風船舞い踊る“KMTR645”へ――というところで、「イルカはロックじゃないだろ?」と焦らしつつ「♪ドブイルカみたいに〜美しくなりたい〜」と替え歌でロック感をアピール。しかし、最終的にはサングラスをしたイルカ(!)のバルーンが客席に大量投入され、中野サンプラザは阿鼻叫喚の熱狂天国へと昇り詰めたのだった。

レキシ/中野サンプラザ

ここで本編終了、というところだがメンバーが退場しないままアンコールへ突入。今回のツアーグッズ「光る!INAHO」を話題にして「♪盗んだ稲穂で走り出す〜」から「♪見えない稲穂見ようとして〜」と次々に替え歌を連射するお館様に、熱いコール&レスポンスで応える満場のオーディエンス。レキシならではの一体感だ。

“狩りから稲作へ”で一面に稲穂輝く歌の大平原を描き出したところで「結局『アナザーレキシ』とか言いつつこんな感じ! ムカついた!」と芝居がかった調子でお館様が退場、他のメンバーもその後を追って舞台を降りていく。すると、舞台後方のスクリーンには楽屋でキャッツン(やついいちろう)に「バンドメンバーが足を引っ張ってる」と相談するお館様の姿が映し出される。そこでキャッツンが下した結論は、「今まで以上のコスプレで、メンバーをはずかしめる」。そこで流れ始めたおニャン子クラブ“セーラー服を脱がさないで”に乗せて、7人全員がセーラー服姿で登場。「セーラー稲穂振らさないで」と歌い上げる姿が、会場をなおも笑いの極致へと誘っていく。

そのまま“狩りから稲作へ”の続きを演奏し、「やっぱり私たち、普通のレキシに戻ります!」と自らオチまでつけつつ、最後は歌メロをオーディエンスに委ねて大合唱を呼び起こす。「そして、中野が好き〜!」のお館様の歌声に、惜しみない拍手喝采が広がった。
最後の“LOVEレキシ”まで約3時間に及ぶ熱演。ハイクオリティな表現力と無限の音楽愛に裏打ちされることで、コミカルな詞世界もパロディの数々も唯一無二のポップエンターテインメントへ昇華されていく――というレキシの在り方を象徴するような一夜だった。(高橋智樹)
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