フレデリック/横浜アリーナ

Photo by 佐藤広理

●セットリスト
1.飄々とエモーション
2.シンセンス
3.VISION
4.オンリーワンダー
5.夜にロックを聴いてしまったら
6.スキライズム
7.シンクロック
8.真っ赤なCAR
9.LIGHT
10.NEON PICNIC
11.峠の幽霊
12.対価
13.逃避行
14.TOGENKYO
15.KITAKU BEATS
16.バジルの宴
17.オドループ
18.イマジネーション
(アンコール)
EN1.CLIMAX NUMBER(FAB!!)
EN2.終わらないMUSIC



Photo by 渡邉一生

フレデリックが2月24日、横浜アリーナでワンマンライブを開催した。昨年4月、新木場STUDIO COASTから始まったロングツアー「FREDERHYTHM TOUR 2019-2020」の終着点。かつ、2018年の神戸ワールド記念ホール公演以来、およそ2年ぶりのアリーナワンマンである。

過去のライブの様子やオフショットから成るオープニング映像でライブはスタート。場内が明るくなると、ステージには既にメンバーの姿があった。1曲目は“飄々とエモーション”。2年前の神戸で新曲として最後に演奏された曲である。どっしりと構えるバンドサウンド。広い会場で真価を発揮するのびやかなボーカル。歌詞をモチーフとしたイントロでの映像演出。客席の全方位から湧き上がるシンガロング――。始まってからわずか数秒でただならぬ熱量を感じた。みんなこの日を待っていた。だからこそ、今日を迎えるために準備を重ねてきた。そんなことが読み取れるような、膨大な熱量を。まだ1曲目なのにまるでクライマックスのよう。そう思っているうちに、次の曲が、そしてまた次の曲が、これまでを超えていく。

Photo by 渡邉一生
Photo by 渡邉一生

最初のMCで三原健司(Vo・G)が「いろいろ仕掛けてあるから楽しみにしてください」と言っていたように、それぞれの曲が描く世界を拡張させるようなステージ演出も印象的だったこの日。つまるところ、この日のライブが最高だった理由は、“夜にロックを聴いてしまったら”で歌われているような、好きな曲を聴いた瞬間心が弾んで宇宙に飛び出してしまいたくなるあの感じ――このバンドの真ん中にずっと在る「音楽って楽しい」というピュアな感情が、メンバー4人やスタッフ、集まった観客の手によって、翼を得て羽ばたいているみたいな手応えがあったからであろう。ライブ経験を重ねることで培われたバンドの演奏力。閃きと工夫が詰まったステージ演出。それらを受け取ったオーディエンスのリアクション。その一つひとつが今この瞬間をかけがえのないものにしている。

Photo by ハタサトシ
Photo by 渡邉一生

アウトロがカットされた“スキライズム”から間髪入れずに始まった“シンクロック”は、音源よりもテンポがやや速く、疾走感を際立たせるアレンジになっている。作り手と受け手を結ぶようなフレーズを、バンドのソングライター・三原康司(B)がベースを掻き鳴らして歌う様子にはグッとくるものがあったし、音源にない箇所で健司が歌っていた「たった2時間ちょっとのワンマンのことを僕はずっと思い描いてるんだよ」という言葉にも想いを馳せずにはいられなかった。“真っ赤なCAR”からの“LIGHT”というめちゃくちゃ踊れるゾーンでは、ベース、ギター、ドラムによるソロ回しも。スタジオでセッションするのと同じような温度感でいきいきと演奏する高橋武(Dr)をはじめ、スクリーンに映されるメンバーの表情はシンプルに楽しそうだ。

Photo by ハタサトシ

“NEON PICNIC”では、観客がスマホライトを点灯させ、色とりどりの光が場内を彩る。これは開演前、映像を通じてバンドのスタッフから観客に伝えられた、メンバーには内緒のサプライズ演出だ。曲が終わったあと、健司が観客に「感動した、ありがとう」と伝えていた。光に満ちた“NEON PICNIC”から一転、“峠の幽霊”はほぼ暗闇の中での演奏。ともすれば要素を「足す」ことばかりが考えられがちな大規模会場のライブ演出で、こういう試みはなかなか見ないが、視覚から受け取る情報がほとんどなくなることで、五感が研ぎ澄まされ、想像力が搔き立てられる感じがある。曲の終盤では、メンバーのいるメインステージとアリーナ後方にあるサブステージを結ぶ通路を、緑色の灯りを持った女性がゆっくりと歩いていく。曲が終わってもなお残響音が鳴るなか、その女性がサブステージに到着したところで場内が完全に暗転。数秒後、いつの間にかサブステージにいた健司が歌い始め、彼とメインステージに残る3人が向かい合う形で“対価”が演奏された。

Photo by 渡邉一生

健司が通路を歩いてメインステージへ戻っている間、3人が音を合わせている。一斉にキメを打っていたところから徐々に遊びが増えていくようなセッションを経て、高橋による気合いのカウントから“逃避行”へ。ここからラストスパートだ。ライブ定番曲が主に演奏されるなか、特に印象深かったのが“バジルの宴”。アッパーなところのドライブ感とテンポダウンしたところの浮遊感の対比がかなり激しく表現されていて、聴き手を翻弄するような不敵ささえある。インディーズ時代から演奏されている曲だが、うわあ、こんな曲だったのか、とここで初めて気づかされた。バンドが広く知られるきっかけになった曲“オドループ”では、ラスサビを観客のシンガロングに託す。普段自ら前に出るタイプではない赤頭隆児(G)が、あらゆる角度からの照明を浴びながらバッチバチのギターソロを披露していたのも最高だった。

Photo by 渡邉一生

本編ラストは、ツアー中にリリースされたEP『VISION』からの“イマジネーション”。最初はスタイリッシュにまとまっていたバンドサウンドがどんどん地肌を剥き出しにさせていくなか、健司が客席エリアに下り、オーディエンス一人ひとりに熱く呼びかける。バンドの音と言葉に焚き付けられるようにして、場内の熱量がぐわっと上がる。≪イマジネーション≫というワードをみんなで歌ったラストシーンは、フレデリックが大切にしてきたことを象徴していたように思う。想像力は時に人の解釈を歪め、暴力をもたらす。一方、想像力は時に思いやりにもなる。私たちのことを見たことのない場所へ連れ出してくれることだってある。闇があると分かっていても、光の方を諦めたくはない。だから信じる。想像力は未来なのだと。

Photo by 渡邉一生

ここまでほとんどMCがなかったため、アンコールではまず、それぞれが自身の想いを語った。「俺は、自分で思い描くものを作るより、誰かと一緒に作るものが好きなんやなあ」と噛み締め、オーディエンスへ「それを一緒に作ってくれてありがとうございます」と伝えたのは康司。「一瞬やったな、思ったより。それだけ楽しかったです」と笑ったのは赤頭。横浜出身の高橋は「フレデリックでこの横浜アリーナを目指せたことを嬉しく思います」と語り、「最後までみんなのためにドラムを叩かせてください」とまとめた。そして健司は、康司の作った音楽を面白いと感じたあの日から始まったこのバンドの歩みを、「面白いと思ってるものに共感してくれたたくさんの人が、もっと面白いことを提案してくれて、一つになって」と振り返る。そのうえで「このままじゃ終われない」とし、「いい音楽作っていい音楽鳴らして、遊びきって人生過ごしたいと思います」と締めた。

Photo by 渡邉一生

そうして始まったアンコールでは、ライブ初披露の“CLIMAX NUMBER”をサブステージからアコースティックアレンジで演奏。「いつまでもこの歌の主役でいてください」(健司)という言葉とともに、“終わらないMUSIC”が届けられるなか、スクリーンに映るのはエンドロール風のムービー。そこには今日のライブを支えたスタッフの名前が刻まれていた。

「俺たちフレデリックは次のステージに進みます」(健司)という去り際の宣言通り、今年の秋からはまた新たなツアーを開催。そして来年2月には日本武道館のステージに立つフレデリック。その時彼らが作り出す景色に、心躍らせる未来が待ち遠しい。(蜂須賀ちなみ)

Photo by 佐藤広理