ツユ/白金高輪 SELENE b2
2020.03.01
●セットリスト
01.やっぱり雨は降るんだね
02.夏浅し(inst)
03.風薫る空の下
04.梅雨明けの
05.ナツノカゼ御来光
06.アサガオの散る頃に
07.盲目リンゴ
08.ひとりぼっちと未来
09.あの世行きのバスに乗ってさらば。
10.太陽になれるかな
11.羨望(inst)
12.くらべられっ子
13.ロックな君とはお別れだ
14.ナミカレ
(アンコール)
EN01.やっぱり雨は降るんだね Acoustic ver.
“やっぱり雨は降るんだね”のミュージックビデオの公開と同時に、結成を報告した昨年の6月12日から、約8ヶ月経った3月1日。ツユは、白金高輪 SELENE b2にて、初のワンマンライブ「やっぱり雨は降るんだね」を開催した。公開したMVのほとんどが、100万回再生超え。YouTubeアカウントの登録者数は、33万人越え(3月6日現在)と、若手のユニットとしては、驚くべき速さで名を馳せている、元歌い手・ぷすが、ボーカルに礼衣、イラスト・デザインにおむたつ、動画・デザインにAzyuNを迎えたユニットだ。
スクリーン上に映るツユ(傘)のアイコンに降る雨の音色と、“やっぱり雨は降るんだね”のアコースティックなBGMが流れている会場は、紫がかっていて薄暗い。そんな中、ステージへと登場したのは、マイクを片手に持った礼衣とエレキギターを抱えたぷす。横でギターの音色を奏でるぷすに合わせ、片手を少し伸ばしながら、礼衣が淡々と歌声を放った“やっぱり雨は降るんだね”から、この日のライブはスタートした。早くも手拍子が起こる会場。すでに公開されているMV、2月19日にリリースされた1stフルアルバム『やっぱり雨は降るんだね』を通してでしか、聴くことができなかった彼らが奏する生の歌声とギターという楽器を目の前にしたとき、その音楽はそのまま存在するものだったのだと知って安堵に包まれる。アウトロでは、礼衣が一歩下がる代わりにぷすがステージ前方へと進み、ギターソロで観客を魅了。ステージを礼衣が捌けた後は、ひとり残り、インストゥルメントの“夏浅し”を演奏する。ツユの中ではコンポーザーであるぷすが、ボーカル同様にステージを独占し、自身の演奏を意気揚々と届ける姿は、ボカロPや歌い手などの形に囚われない表現者としての魅力を十分に解き放っていた。
再びステージへと戻ってきた礼衣がぷすの隣に並ぶと、サビに向けてのメロディラインの展開がジェットコースター並の“風薫る空の下”へ。ツユの楽曲の中でもその構成には驚かされるが、同曲含め、全ての楽曲を作詞・作曲しているぷすが、安心感を抱いた表情であまりにも気持ちよさそうにギターを弾いているものだから、このユニットには、私達の知らない音をまだまだ生み出してくれるという確信を持つことができた。
ここでステージはライトアップされ、この日初めてのMCへと繋いだ。「どうも、ツユです。僕、方言がめっちゃ出るんだけど、岡山から出てきた田舎の小僧やから許してくれ」と飾らないぷすが、「ツユってさ、まだ始まって半年ちょいだから、アルバムも出たんだけども……あ、アルバム出ました。よっしゃー。この全員が俺らだけを目当てに来てくれて、よかったって言ってるこの環境最高だな」と、礼衣にも言い聞かせてから届けたのは、じっぷす名義でボカロPをやっていた頃に作ったバラードナンバー“梅雨明けの”、“ナツノカゼ御来光”、“アサガオの散る頃に”。どれも丁寧に、そつなく歌い上げる礼衣が、後のMCで、「1日に4曲くらい送られてきてこれ全部ライブでやるからみたいな感じでした」と報告すると、「次のリハやったら礼衣は平然と歌ってるの!」と、ぷすがボーカルワークを称賛する。礼衣のボーカルとしての魅力は、難易度の高いぷすの楽曲を歌い切る気力があるから、輝きを増しているのだと思う。
ぷすが、エレキギターからアコースティックギターに持ち替えれば、ふたりは用意されたそれぞれの椅子に座り、一瞬しか光が差さない暗闇の中で、“ひとりぼっちと未来”の世界を紡いだ。《ひとりぼっちに未来とかあるんだろうか/無いじゃん 無いじゃん 無いじゃん 無いじゃん/無いじゃん 無いじゃん わたしだけ》。連続した寂しい言葉を微かに声色の表情を変えながら礼衣が歌うと、その歌詞に込められた思いがじわじわと会場内に伝播していく。大きな歓声が客席から降ることとなったのは、誰にもわかってもらえない心の内を挑発的に吐いた“あの世行きのバスに乗ってさらば。”。メランコリーな感情が飛び出した一曲だ。続く、センチメンタルな歌声で送った“太陽になれるかな”は、イラスト担当のおむたつと動画・デザイン担当のAzyuNに加え、新しい創作チームメンバーのひとりとしてピアニスト・miroが加入することが、MVの公開と同時に2月28日に発表されていた曲。この日のライブで、おむたつが、自身を録画した動画を通してではあるが、会場に向けてメッセージを送っては、AzyuNがMCの際に、実際にステージに立ったことから感じられるのは、ツユは色んなクリエイターの力を借りて成長するユニットであり、常に彼らに感謝の気持ちを伝えているということ。
ぷすの演奏によるインストゥルメンタル“羨望”と、MVの再生回数が645万回越え(3月6日現在)で、最も共感を呼んでいる“くらべられっ子”に突入。ツユの楽曲自体、メロディはポップでキャッチーだが、浸っていると胸が詰まる思いになるのは、どうにも変えることのできない劣等感が共通して歌われているから。片手を強く振り上げる観客は、まるで、劣等感に苛まれることへの苦しみを投げ捨てているように見えた。
弾けた“ロックな君とはお別れだ”を歌い終えた礼衣が、「薄々気付いてるかもしれないですけど、ツユって曲はむずくないですかね?」と本音をぶちまけると、ぷすが咄嗟に「すみません。俺のせいです」と突っ込み、「全部むずいですね。それを全部やらされている」と言う礼衣に、「お前、もうちょっとオブラートに」と一呼吸を置くように伝える。こんなふうに、音楽に負けないくらいふたりのキャラが立っているのも、ツユの魅力のひとつ。ラストに運んできたのは、ぷすがメロディと歌詞からも最高傑作だと告げた“ナミカレ”。
スクリーンにて、今年の8月3日(月)に東京・TSUTAYA O-EAST、8月11日(火)に大阪・梅田CLUB QUATTROで、ツユ2ndワンマンライブを開催することが告知されたアンコールでは、「次までにバチバチの新曲ガンガンあげるから」、「喋るのが苦手なんです」と言うぷすに、「喋ったらいけないことを言ってしまうからそれを抑えるのがむずい」と礼衣。ふたりが、思う存分に会話の花を咲かせたところで、「そんな感じなんだけど、音楽は本気だから。人生掛けてるから。それが伝わってくれたら嬉しい」とぷすが誓った。最後に、それぞれの椅子に腰かけたふたりが届けたのは、この日のツアータイトルにもなっている“やっぱり雨は降るんだね”のアコースティックバージョン。しかし、この日の天気は曇り。miroがメンバーとして加入した後の2ndワンマンライブまでに生まれる数々の楽曲が、雨を降らすほどの生命感にあふれたものになっていることに期待したくなる、そんな時間だった。(小町碧音)