エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」

エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」

●セットリスト
[一部]
1.「序曲」夢のちまた
2.DEAD OR ALIVE
3.Easy Go
4.地元のダンナ
5.デーデ
6.星の砂
7.何も無き一夜
8.無事なる男
9.珍奇男
10.晩秋の一夜
11.月の夜
12.武蔵野
13.パワー・イン・ザ・ワールド
14.悲しみの果て
15.RAINBOW
16.ガストロンジャー
17.ズレてる方がいい
18.俺たちの明日
[二部]
19.ハナウタ〜遠い昔からの物語〜
20.今宵の月のように
21.友達がいるのさ
22.かけだす男
23.so many people
24.男は行く
25.ファイティングマン
26.星の降るような夜に
27.風に吹かれて
(アンコール)
EN1.待つ男


「みんな、今日はありがとう! 素晴らしいコンサートになりました。みんな、いい顔してるぜ――たぶん。マスクしてるからよくわかんないけど、いい眼してるぜ! カッコいいぜ、エブリバディ!」

「日比谷野外大音楽堂 2020」終盤、宮本浩次(Vo・G)の呼びかけに応えて、日比谷野外大音楽堂客席一面に熱い拍手が響き渡る。ソーシャルディスタンスを保ちながらも、そのライブ空間は確かに「エレカシ野音」の高揚感と緊迫感に満ちている――。

幾多の困難を乗り越えて、1990年から毎年ここ日比谷野音の舞台に立ち続けてきたエレファントカシマシ。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、アーティストのライブ活動が軒並み中止や延期を余儀なくされた2020年の状況において、「エレカシ野音」を(客席に間隔を空けるなどの対策を取りつつも)例年通り観客を迎えて開催すること。そして、一瞬一瞬が極限炸裂のようなエレファントカシマシの音楽を、よりいっそうの気迫と覚悟を持って今この時代に轟かせること――。それらすべてが渾然一体となって、どこまでもパワフルなメッセージとして頭と心を震わせた、最高の一夜だった。

エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」

宮本浩次/石森敏行(G)/高緑成治(B)/冨永義之(Dr)の4人に加え、エピック時代からの盟友的存在=細海魚(Key)、“Easy Go”のレコーディングにも参加した佐々木貴之(G)をサポートに迎えた6人編成で今年の日比谷野音に臨んだエレファントカシマシ。
ライブの幕開けを飾ったのは、3rdアルバム『浮世の夢』から“「序曲」夢のちまた”。マイクを握り締めた宮本の高らかな熱唱が、夕暮れ時の静寂をダイナミックに貫く。「エレカシ野音」がいよいよ始まった――そんな感慨にも似た実感が広がる。

痺れるようなディストーションサウンドとともに、宮本・石森・佐々木のトリプルギターで繰り出した“DEAD OR ALIVE”を経て、渾身の4カウントから“Easy Go”でパンキッシュに加速! 《神様俺は今人生のどのあたり》で天を指差し、《転んだらそのままで胸を張れ》と胸を叩きながら、1曲ごとに全精力を燃やし尽くすかの如き爆演を展開していく。
「ようこそエブリバディ、日比谷の野音へ!」
熱い息遣いとともにオーディエンスに呼びかける宮本の言葉が、会場の歓喜を静かに、しかし確かに沸き立たせていくのがわかる。

二部構成の本編のうち「一部」の中盤、“デーデ”、“星の砂”、“珍奇男”などデビュー当初の楽曲を立て続けに披露していた中でも、「火鉢で、部屋の中に籠ってた頃……23歳ぐらいの頃の歌です。すごくリアリティあります、今こそ」という前置きとともに“晩秋の一夜”を披露していたのがひときわ印象的だった。
《日々のくらしに背中をつつかれて/それでも生きようか 死ぬまでは……》――バンドの一音一音にまで神経を注ぎ、歌詞にこめた感情や思考の一つひとつに至るまで歌や表情で狂おしく「今」に響かせてみせる宮本。細海魚の抑えたオルガンの音色とともに描く静謐な音風景を、衝動の爆発の如き絶唱で切り裂く宮本の姿は、出口なきこの世の憂いに徒手空拳で抗う生命そのものを体現しているように思えて、抑え難く胸が震えた。

エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」

「一部」後半では“武蔵野”の雄大な歌世界から紅蓮のロック“パワー・イン・ザ・ワールド”、名曲“悲しみの果て”、さらに“RAINBOW”の衝動逆噴射的な狂騒感へ……と1曲ごとにスリリングなまでの振り幅を描き出していく。
《お前正直な話 率直に言って日本の現状をどう思う?》、《さあ勝ちにいこうぜ。》と熾烈なミクスチャーロック“ガストロンジャー”で放った言葉は、困難な時代に生きる魂を奮い立たせる圧巻のバイタリティにあふれていたし、“ズレてる方がいい”のロックシンフォニー的な音の地平も、“俺たちの明日”の《さあ がんばろうぜ!》のお馴染みのフレーズも、今この場所で鳴るべき必然を強く感じさせるものだった。「誰もが知っているエレファントカシマシ」の楽曲に凝縮されたロックの真価が、混沌とした2020年の状況の中でこそ改めて鮮烈な輝きをもって響いてきた。

しばしのブレイクを挟んでの「二部」は“ハナウタ〜遠い昔からの物語〜”の晴れやかな多幸感からスタート。“今宵の月のように”の旋律が秋の夜空に伸びやかに広がり、珠玉のメロディメーカー・宮本浩次の神髄を美しく浮かび上がらせていく。
“友達がいるのさ”で《サイコーのメロディー おわれねえストーリー/五感にしみこんで》のフレーズとともにその場で何度もスピンしていた宮本の佇まいは、ライブという表現を作り上げる充実感をオーディエンスと分かち合うような祝祭感を備えていた。

エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」

ソリッドなロックナンバー“かけだす男”から“so many people”、さらに《俺はお前に負けないが/お前も俺に負けるなよ》と渾身の咆哮を突き上げる“男は行く”へ……とライブは終盤へ向けさらに熱を帯びていく。“ファイティングマン”のラスト、客席を指差しながら「エブリバディ、ファイティングマン!」と叫び、“星の降るような夜に”で夜の街を行くが如く舞台を闊歩する宮本。「みんなに捧げます」と本編の最後に披露した“風に吹かれて”では、サビで大きく手を振る宮本に応えて、客席一面のハンドウェーブが広がる。アウトロの《風に吹かれて》のリフレインに重ねた「素敵に歩いていこう、明日もよ!」の宮本の言葉は、僕らの「これから」への何よりの福音のように思えた。

6人で手を取り合い、深々と礼をして終演……かと思いきや、黒シャツに着替えた宮本を筆頭にメンバーがもう一度舞台に登場。この日のラストナンバーは“待つ男”! シャツのボタンをちぎりながら胸をはだけ、都心の空気丸ごとばりばりと震わせるような宮本の激唱! ――音楽家としての矜持と決意の結晶と呼ぶべきステージの中で、戦慄必至の歌と演奏越しに愛も狂気も誠実さも反骨も響かせていった、まさにエレファントカシマシそのもののロックアクトだった。(高橋智樹)

※「日比谷野外大音楽堂2020」のストリーミング配信は10月7日(水)23:59までアーカイブ視聴可能。

エレファントカシマシ/「日比谷野外大音楽堂 2020」
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする