●セットリスト
01. 深淵の揺らぎ(inst.)
02. FAKE
03. KISS OR KILL
04. 瓶とスコール(新曲)
05. アイスグリーン(新曲)
06. 壁の一週間(新曲)
07. ハイエナ
『CUT』誌主催による、トーク&ライブの複合イベント「CUT NIGHT」が、通算7回目(二子玉川GEMINI Theaterでは9ヶ月ぶり4回目)の開催を迎えた。本稿では昼/夜の1日2回公演のうち、夜の部からlukiのミニライブの模様を中心にレポートしたい。
まずは『CUT』編集長・渋谷陽一によるトークからイベントはスタート。熱心に聴き入る来場者たちを前に繰り広げられた今回のトークテーマは「再結成 ~なぜQUEENは再結成できたのにLed Zeppelinは再結成をしないのか~」である。長らくロックの時代を支えてきた、ソングライターやプレイヤーがある種の信仰を帯びる時代は変わりつつあるのではないかということ。クイーンの表現の核にあるものは「楽曲」で、それは今日のアダム・ランバートが証明しているように受け継ぐことが可能だが、レッド・ツェッペリンの表現は代替の効かない「演奏」そのものにあること。そして、ソングライター/プレイヤーの匿名性が鍵となるゴリラズの最新プロジェクト『ソング・マシーン』が素晴らしく、ここ20年ほどのポップミュージックの流れを象徴していることなどを、たっぷりと語った。
続いて、『CUT』誌では山田ルキ子名義で映画コラムも連載しているアーティスト=lukiのミニライブだ。秋めいたエレガントな装いで登場し、信頼のバンドメンバーである円山天使(G)、山本哲也(Key)、張替智広(Dr)と共に、前回「CUT NIGHT」でもオープニングに配置された“深淵の揺らぎ (inst.)”を放つ。luki得意のハーモニカがリードするインストゥルメンタル曲だが、まさに水中深くで揺らめくようなグルーヴを描きつつ、所々にエッジの鋭さを忍ばせた響きになっている。アイデンティティに思い悩み彷徨う、そんなテーマが歌詞に込められた“FAKE”では、ギターを奏でながらコーラスを寄り添わせる円山といい、美しいピアノのアウトロで余韻を残してゆく山本のプレイといい、lukiの詩情を膨らませるアレンジが秀逸だ。
熱意をもって接してくれる「CUT NIGHT」の来場者たちに感謝の念を伝えながら、経験談を踏まえ、病を抱えた人やセクシュアル・マイノリティに対する過度な優しさは逆に差別に繋がるのではないか、と持論を語るluki。そんな彼女自身の思考から導き出されたナンバー“KISS OR KILL”は、不穏な響きのロックを通して、真に誠実な人間関係とは何なのか考えさせてくれる。
彼女が9月にリリースした最新デジタルシングル曲“瓶とスコール”は、繊細で幻想的なフルアニメーション仕立てのミュージックビデオも印象的な一曲になった。ウルトラマラソンに挑み続けるランナーでもあるlukiは、今年1月に出場した「第30回 宮古島100kmワイドーマラソン」で見事女子2位に入賞したのだが、レースの85km付近で、もはや肉体はボロボロで欲も何もない、すべてのものに感謝して走っているという精神の領域を体験したという。魂を洗い流す、心地よいスコールのような浄化。それを瓶に詰めて持ち歩きたいという思いで、“瓶とスコール”はしたためられた。lukiの息遣いをバンドメンバーが丁寧に汲み取るような今回のライブ演奏は、しかし力強く、ふくよかな響きをもたらしていた。
多作家のlukiは、今回も初公開の新曲をセットリストに組み込む。奔放なメロディを備えたその“アイスグリーン”は、刻一刻と変化する感情の彩りを描き出した時間芸術だ。さらに、アメリカ大統領選挙に触れながら、何かを変えるには権力を持つことよりもこうして音楽を演奏することの方が大切なのでは、と告げて、こちらも音源化が待たれる“壁の一週間”を披露する。深みのあるフォークロックサウンドで、分断の狭間に立つ壁の視点から社会の諍いを切り取る、という凄まじいナンバーだ。渋谷陽一のトークではデヴィッド・ボウイのベルリンの壁をモチーフにした“ヒーローズ”が話題に挙がったが、“壁の一週間”はまさにluki版の“ヒーローズ”だろう。エモーショナルな歌唱、そして叫ぶようなハーモニカの演奏まで、圧巻の一語に尽きる。
今後のリリースやライブについての意気込みを告げながら、今回のステージを締め括るナンバーは“ハイエナ”だ。自分の作品には動物にちなんだタイトルが多い、と可愛らしい一言を添えておきながら、パフォーマンスの方はキーボードの山本もギターを握る、ひときわ獰猛なラウドロックである。飢えと背中合わせの生命力を迸らせ、lukiも大きく両腕を振りかざしながら歌って豪快にフィニッシュ。短い時間ではあるけれども、彼女のロック性が際立つ充実のステージであった。(小池宏和)