オープニングSEの中にメンバーが登場し、ボーカリスト・出戸が一言「こんばんは」と告げると、演奏をスタートさせた。お馴染み“コインランドリー”である。ポップなギターのリフレインが響き渡り、出戸の力むでもないのにスコーンと抜けてゆく高音ボーカルが届けられる。まだ若いのに、本当に安定したライブ演奏を聴かせるバンドだ。続けて平出の跳ねるようにファンキーなベースから、硬質で醒めたオウガ流サウンド・アプローチでグルーヴィーに攻める“フラッグ”へ。広がりと高揚感のある伸びやかなナンバー“しらない合図しらせる子”では、出戸の高音ボーカルがひときわ、映えていった。「ぐるりと日本一周してきまして、今日はファイナルっぽいライブをやろうと思うんで、皆さんもファイナルっぽく、楽しんでください。どんなだかわかりませんけど」。やはりというかこれまでどおり、そういう事を言うこと自体オウガは「醒めて」いる。「冷めて」はいないが「酔って」もいない。醒めた状態で音楽と歌の物語性だけで、高揚感を獲得してゆくのだ。メジャー・デビューで全国ツアーのファイナルなのに、こういうところは相変わらずである。一曲一曲の終わり方も、無闇やたらと音の余韻を残さずにスパッと終わらせる。
ステージはこれまでの自主レーベル作品から広く選曲される形で進んでいった。僕の個人的嗜好で言うと、もちろん甘美でサイケデリックな曲やファンキー&グルーヴィーな曲も良いのだが、“サカサマ”や“どっちかの角”、“かたっぽ”などのミディアム・テンポのギター・ロック曲群が、オウガのユニークなソングライティングやアンサンブルをくっきりと伝えてくれる気がして好みだ。特に馬渕のギターは、こういうスタイルの中で最もあの、無国籍にメロディアスで妙に人懐っこくアーシーなフレーズを発揮してくれるように思う。分かり易い美メロやダンス・ロックなどの要素とは違ったところで、オウガの魅力を根底で支えているのだ。彼のサウンドに触れていると、ギターってのはなんて広く、豊かな表現が出来る楽器なんだろう、と感じる。
甘美な眠りに吸い込まれるような“また明日”を演奏し終えると、突然世界が澄み渡った朝を迎えるようなアッパーでエネルギッシュな曲が鳴り始める。“ピンホール”だ。これまでで最大の歓声があがり、ぴょんぴょんと飛び跳ねるオーディエンスも見られる。かっこいい曲なので盛り上がるのは当然だが、会場中でオウガのメジャー・デビューが祝福されているような、単なる興奮には留まらない雰囲気である。「今の曲は『蒼天航路』というアニメで使われていて、僕も第1話を観させてもらったんですけど、凄いですよ。バッサバッサ、人が斬られて。バッサバッサ人が斬られた後に、僕らのこの爽やかなナンバーが流れて。また違った視点でこの曲を聴けます。皆さんもぜひ」。なんでファンがミュージシャンと同じ視線で、冷静に作品を分析しなきゃいけないんだ。どこまでも出戸でオウガなMCでした。本編ラストはアクロバティックに展開しながら物語を膨らませてゆく“レール”、そして穏やかで美しい“ひとり乗り”へと連なる。
オウガの歌詞は口語体で書かれた詩のようだ。でも、メッセージというよりは感情の蠢きとともに吐き出される独り言に近い。それがソリッドなリズムとドラマティックなメロディの中でキャッチボールされて、ポップな歌になる。ダンサブルな曲調が多い割に聴いていて表面的な熱を帯びることが少ないのは、人を強く巻き込もうとする意図が希薄だからだ。しかし、バンドの中で肉感を与えられ物語化された独り言は、それを聴く者にじわじわと沸き上がる感動をもたらす。オウガというバンドの不思議なメカニズムである。アンコールで披露された『ピンホール』のカップリング2曲、“ボート”や“ネクタイ”にも、そういう感動があった。新しい、広く大きな通りを進む彼らが、今後どれだけ多くの人にこの魅力を伝えてくれるのか、楽しみである。(小池宏和)
1.コインランドリー
2.フラッグ
3.しらない合図しらせる子
4.J.N
5.サカサマ
6.ロボトミー
7.どっちかの角
8.アドバンテージ
9.かたっぽ
10.また明日
11.ピンホール
12.ドーナツ
13.ラムダ・ラムダ・ラムダ
14.レール
15.ひとり乗り
アンコール
16.ボート
17.ネクタイ