泉谷しげる @ 恵比寿ザ・ガーデンホール

泉谷しげる @ 恵比寿ザ・ガーデンホール
泉谷しげる @ 恵比寿ザ・ガーデンホール
6月17日にリリースされるニュー・シングル「生まれ落ちた者へ」のお披露目ライブ的な意味合い。そして、1部はバイオリン4人とピアノと歌&アコースティック・ギターの泉谷で行い、2部はギター・ベース・ドラム・キーボード・サックスと泉谷というバンド編成で行う、ある種、実験的なライブとしての意味合い。そして、明日5月11日が61歳の誕生日ということで、昨年のアルバム・リリースあたりから続いている、「泉谷しげる還暦突破記念イヤー」的な意味合い。
以上が、今日のこの「生まれ落ちた者たちへの生誕祭」と題されたライブの、当初の趣旨だったと思われるが、本人のまったく意図しないところで、もうひとつ、大きな意味が加わってしまった。言うまでもないが、1970年代初頭からの泉谷の友人である、忌野清志郎の葬儀式の翌日にあたってしまった、ということだ。
異様な数の報道陣が集まっている。特に、テレビカメラの台数がすごい。全民放来てるんじゃないかというくらい。

で。昨日の僕のブログでも書いたが、結論から言うと、泉谷はその「今日という日にステージに立つことになってしまった」という事実を、100パーセント引き受けたライブをやった。
第1部、いつもの黒ずくめの衣裳でステージに現れた泉谷は、まずひとりで弾き語りで「紅の翼」を歌う。続いて、清志郎が亡くなった時に最初にコメントしたのと同じ、「清志郎が死んだとか言われていますが、私はまったく信じておりませんので」という趣旨のことを宣言する。
そして、ドレス姿3人、スーツ1人の、ピアノとバイオリン×4をステージに呼び込み、「春夏秋冬」をプレイ。クラシックのような、オペラのような、でも明らかにフォークでありロックである歌を披露していく。こういう聴かせ方、泉谷の朗々とした歌に、意外にも合う。かなり新鮮な音楽体験だった。
第一部のラスト2曲は新曲。8曲目「愛と憎しみのバラッド」は、次のアルバムのテーマ的な曲だという。9曲目「頭上の脅威」を歌う前に、泉谷は「忌野さんに捧げます」と前置きした。

休憩をはさんで、「生まれ落ちた者へ」のPVが上映されたあと、第2部スタート。白いシャツに着替えて登場した泉谷、バンドを率いて客電点けっぱなしのまま、いきなり「業火」に突入。「すべて時代のせいにして」「BIG BOY!!」「生まれ落ちた者へ」という、近年の曲たちをすごいテンションで次々と放つ。と思ったら、くたびれたらしく、「ちょっと休ませろよ」とMCタイム。「写真撮れ撮れ! 報道陣ばっかり撮ってねえで」「で、みなさんのブログにアップしてくださいね」と、客にひとしきり写真を撮らせたりもする。
そして「あの野郎には世話になってんだから、そう簡単にあの野郎をいかせるわけにはいかねえんだ。HPであいつと出会ったころのことを書いて、あいつが生きていることを説明していくから」と、また清志郎のことに触れてから、怒濤の名曲ゾーンに突入。
「デトロイト・ポーカー」「地下室のヒーロー」、そして次は「褐色のセールスマン」をやるはずが、「火の鳥」「眠れない夜」と歌い終わってから、「テンション上がりすぎて1曲とばしちまった!」と、改めて「褐色のセールスマン」を歌う。

「国旗はためく下に」「翼なき野郎ども」で本編終了、面倒だったのかステージを降りずに、そのままアンコールに突入。
まず「長い友との終わりに 女が泣くように切ない」というフレーズを持つ「長い友との始まりに」。続いて、ギター藤沼伸一が、あのリフを弾く。「雨上がりの夜空に」だ。
符割が若干オリジナルと違う歌を、ものすごいテンションでぶちまける泉谷。全然元気だし、全然湿っぽくならない、すごい。と、ここまでは思っていたのだが、曲の中盤からだんだん表情が崩れ始め、最後には歌えなくなってしまい、腕を目に押しつける。
そしてシメは、「野性のバラッド」。カウントダウン・ジャパン08/09幕張で、30分の持ち時間を1曲で押し切った、あの曲だ。今日は10分くらいだった。「おお なんておまえに伝えよう」の、怒号のような大合唱の中、泉谷は、「負けんじゃねえぞ! 泣いてんじゃねえぞ! 俺がついてるからなあ!!!」と、叫んだ。

もちろん、報道陣のために、こういうライブをやったわけではない。清志郎本人のため、でもないだろう(だったら家でひっそりと悼むとかすると思う)。言うまでもないが、今日ここに集まったファンのために、泉谷はこういうライブをやったのだ。
今日、こうして泉谷のライブに足を運んだファンで、清志郎の死にショックを受けなかった人は、おそらく1人もいないと思う。チケットを買った時は、まさかこんな思いで泉谷を観に来ることになるとは思ってもいなかった、そんな、恵比寿ガーデンホール満員のファンへ向けて、自分が何をやるべきなのか。その、もっとも正しい回答を、泉谷しげるは実行した、ということだ。
やりたかったわけではなく、やらなくてはいけないし、やるべきだと思ったから、やった。そういうステージだった。
僕は今日のこのライブが、どんなライブだったか、一生忘れないと思う。(兵庫慎司)

SET LIST

第1部
1.紅の翼
2.春夏秋冬
3.今を生きる
4.遙かなる人
5.愛しの臨死体験
6.愛夢
7.つなひき
8.愛と憎しみのバラッド(未発表曲)
9.頭上の脅威(未発表曲)

第2部
1.業火
2.すべて時代のせいにして
3.ナンバー2
4.黒い箱男
5.BIG BOY!!
6.生まれ落ちた者へ
7.デトロイトポーカー
8.地下室のヒーロー
9.火の鳥
10.眠れない夜
11.褐色のセールスマン
12.国旗はためく下に
13.翼なき野郎ども
14.長い友との始まりに
15.雨上がりの夜空に
16.野性のバラッド
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