岸田、佐藤、そして新作レコーディングにも参加したサポート・ドラマー=ボボ(from 54-71)という3ピース編成で、ほぼ19:00オンタイムでステージに現れたくるり。全国ツアー序盤戦ということで、まだまだセットリストなど書けない情報が多いのだが、過去曲としては前述のMCで触れていた3rd『TEAM ROCK』や2nd『図鑑』だけでなく1st『さよならストレンジャー』の頃の楽曲を多くフィーチャーしたセットリスト(しかもフェチ度の高いほうから選んだような選曲)であること、そして「『魂のゆくえ』コーナー」的なブロックを設けてあり、本編の半分近くを占めていたそのブロックをMCひとつなくきっちりやりきっていたこと、そして……何より、その『魂のゆくえ』ブロックが素晴らしかったこと、はここにしっかり記しておくべきだろう。
催眠術のように反復するメロディー、水のように自然に心に染み入るブルース……時にカントリーからメタルまで多彩な要素を覗かせたりもするが、『魂のゆくえ』の根底に流れているのは、「平熱のブルースを、一音一音渾身の力と集中力で鳴らす」という感覚だ。鍵盤も同期音もない、岸田/佐藤/ボボの3人が奏でるシンプルなサウンドは、特別なエフェクトやギミックがあるわけでもなければ、前作『ワルツを踊れ Tanz Walzer』のようなオーケストラの大仕掛けがあるわけでもない。が、どの曲にも、それこそ日常の真理をバッと掴みにいくような確かな存在感がある。ありとあらゆるフレーズが、まるでストレスなく、ずっと前から僕らのスタンダードだったような感覚で鳴っている。
だから、楽曲そのものはブルージーであっても、Zeppの空気はゆるむどころかますますじっくりとその温度を高めていく。「えー、アルバム『TEAM ROCK』から新曲をお届けしました」となおもボケてみせた後でしかし、岸田は「アルバムの発売日に、Zepp Tokyoでライブができることを嬉しく思います。『魂のゆくえ』、力作でございます」と確固たる口調で言っていたのが印象的だった。あと、この3ピース編成で鳴らされることで、過去曲に関しても「もしかしたらこれまでで最高にいい演奏なのでは?」と思った瞬間が、この日のライブの中でも幾度となく訪れた。たとえば……と全部「その瞬間」を列挙したいところだが、残念ながら割愛。
そして……アンコールでは、いきなり“津軽海峡・冬景色”を大真面目で演奏し始める3人。大ウケのフロア。しかし、「『京都音楽博覧会』、今年で3回目の開催になります。最終発表の出演者はこの方……(ミラーボール回る)……石川さゆりさんです!」という岸田の声に導かれて、なんとあの演歌の大御所=石川さゆり本人がステージに登場! なんでも、岸田がプロモーションで訪れた福岡で、岸田が石川さゆりの博多1ヶ月公演を観に行ったのがきっかけだったらしいが、ステージで岸田、佐藤と並んで立っている石川さゆりという図を目の当たりにしても、なんだかまだ夢を見ているような感じがするのが不思議だ。
佐藤「3,000人のお客さんの前に立つより、石川さんの前にいるほうが緊張する!」
石川「みんなすごいですよね、ノってて! 頭がオタマジャクシみたいに動いてて(笑)」
岸田「当日までに、“津軽海峡・冬景色”練習しときます!」
石川「“天城越え”は? “ウイスキー(が、お好きでしょ)”も!」
岸田「まずは『ウイスキーがうまい!』と思うところから始めます(笑)」
石川さゆりがステージを後にしたところで、再び岸田。「俺ら、『ROCKIN’ON JAPAN』に載ってる系っていうことになってるじゃないですか? そんな俺らが声をかけても……と思ってたんですけど、快くOKしてくれました。新しい風おこしますよ!」。矢野顕子、ベン・クウェラー、奥田民生らが集う『京都音楽博覧会2009』に石川さゆりがどんな化学変化を起こすのか? そして、ツアーの終盤戦には日本武道館公演も控えている。この3人のアンサンブルはどんな完成形を見せていくのか? 今から楽しみだ。(高橋智樹)