まず、セットリストはこんな感じでした。ブログにも書いたが、ジャスト1時間、サポート・キーボードの熊本出身伊東ミキオミッキー(と、トータスはいつも紹介する)はおらず、メンバー4人だけのステージ。
1.ガッツだぜ!!
2.バンザイ〜好きでよかった
3.借金大王
4.あの娘に会いたい
5.笑えれば
6.サムライソウル
7.ええねん
アンコール
8.いい女
という、もう鉄板というか、これまで数え切れないくらいフェスで勝ってきた時のパターンを、さらに濃く短くしたようなセットリスト。
という意味では、いつものウルフルズなんだけど、やはり活動休止発表翌日なんだから、観るほうもやるほうも「いつもの」なはずがない。トータスがMCしようとすると、みんなしいーんとじいーっと聴き入る体勢になって、それにトータスが戸惑ったりする一幕もあったりして、総じてすばらしいライブではあったんだけど、いちいちもう、感慨と感傷に包まれるステージでもあった。元々決してドライなバンドではない、人情と感傷にずぶずぶ浸りながら猛ダッシュするみたいなバンドなわけで、それがとてもはまってもいた。
トータス以外の3人も、それぞれ二回ずつMCで、休止のことに触れた。ケーヤンは「21年間やれたのはみんなのおかげです」と感謝を伝えた。サンコンも「もう感謝の言葉しかありません」みたいなことを言っていた。ジョンBは二回目のMCで「でもまあ、またやるよ」みたいなことをさらっと言って、歓声を浴びていた。
トータスももちろん、何度も休止のことを口にした。いつかまたやりたい、というようなニュアンスのことも口にしたし、でも今はできない、ということも口にした。お客さんもみんな、それをあたたかく受け止めていた。悲しくて寂しいけど、求める者と求められる者による幸せな空間が、そこには確かにでき上がっていた。ここまでは。
アンコールで「いい女」を歌い、トータスが一回ひっこんでまた出てくるあのジェームズ・ブラウン・パターンの演出を、珍しく一回だけでさくっと切り上げ、4人はステージを降りた。お客さん、誰も帰らない。やまないコール。すると、ずいぶん経ってから、私服に着替えたトータスが、ひとりでアコースティック・ギターを持ってステージに現れ、「みんなどう思うか知らんけど、今俺が一番やりたいことをやってもいいですか」というような前置きをして、歌い始めたのは、自らの最新ソロ曲「明星」だった。
我々マスコミには、ライブ開始前に取材資料が配られていて、その中にセットリストも入っていたので、最後に「明星」をやることは、知っていた。で、正直「えーっ?それはないわあ」と思った。そんなことやったらぶち壊しじゃん。この、ウルフルズの休止ライブ自体が、ソロのプロモーションのためみたいに思われるじゃん。レコード会社に押し切られたのかなあ。宣伝するなとは言わないけどさあ、ちょっと無神経すぎないか? そう思ったわけです。
しかし。ギターを壊さんばかりの勢いで弾きながら、わめくように「明星」を歌うトータスを観ているうちに、どんどん引き込まれていった。すごい迫力。すごいパワー。すごいテンション。「鬼気迫る」とは正にこのこと。そして何よりも、初めて生で聴いたけど、すっげえいい曲。
で。気付いた。これ、レコード会社とかじゃなくて、トータスが「やる!」って決めたんじゃないか。さっきまでの、感傷的で、さびしくて、あったかくて、ウェットで心地よい空気のまま、ライブを終えるのがイヤだったんじゃないか。最後に、今の自分の現実と、その残酷さと、そして未来のヴィジョンをたたきつけて、このライブを終えたかったんじゃないか。
トータス松本のソロの曲は、明らかにウルフルズの曲とは違う。意識的に書き分けた、のではなく、「ウルフルズじゃなくてソロ」ってなったら、結果的に書けてしまった曲たちだ、と思う。ウルフルズでは「書けるけど無意識に書くのを避けている曲たち」があった、ということだ。つまり、トータス松本というソングライターの持っている才能のうちの、すべてを使っていたわけではなかった、本当はもっともっと才能と可能性があった、ということが、ソロをやってみたことによって証明されてしまった、ということだ。
そのことをちゃんと表現し、伝えたかったんだと思った。ウルフルズを愛している、でも今はできない、だから休む、でもきっと帰ってくるよ、という、ひとつも嘘はついてないけど、自らのエグいところや、どうしようもない現実まではさらしていないレベルで、このライブを終えるのは、どうしてもイヤだったんだと思った。それによって、お客さんに、居心地の悪さの共有を強いることになろうが、どうしてもそこまでさらしたかったんだと思った。
僕は、そのように受け取った。というか、歌があまりにもよかったので、そうとしか受け取れなくなってしまった。そして、多くのお客さんたちも同じだったらしく、本来この場にふさわしくないはずの「明星」を、熱狂的に受け入れていた。
「明星」を歌い終えたトータスは、メンバーをステージに呼び込み、4人でもう一度お客さんにあいさつし、ライブは終わった。
ウルフルズ、次のライブは7月31日(金)国営ひたち海浜公園、ROCK IN JAPAN FES.2009、1日目GRASS STAGEのトリ。
それから、トータスが活動休止を語ったインタビューが、7月18日発売のロッキング・オン・ジャパン8月号に載ります。(兵庫慎司)