マイスペで発表した曲が話題に→いきなりカイリー・ミノーグのプロデュースを依頼される→自身の作品もUKチャートを駆け上がる→そして今年春にリリースされたシングル“アイム・ノット・アローン”は1位獲得、続く夏の2ndアルバム『レディー・フォー・ザ・ウィークエンド』も大ヒット中。
以上、このカルヴィン・ハリスのキャリアをざっと説明しましたが、そんな中、DJツアーで来日決定。しかも東京は、m-foの☆TAKU TAKAHASHIが2ヶ月にいっぺん代官山AIRでやっている『Tachytelic』(通称タキテリ)とのジョイントで、『Tachytelic Special 「The Big Party」feat.CALVIN HARRIS』というイベントとして開催。
最初に言っていいでしょうか。むちゃをするな。m-flo好きだし、☆TAKUのDJ好きだし、AIRというハコも好きなので、何度も遊びに行ったことがあるのですが、この『タキテリ』、ものすごい人気パーティーで、いつも超満員なのです。
そもそも☆TAKUのレギュラー・パーティーを、だいたい500人キャパ(私の目算)のAIRでやっていること自体、無理がある気がするが、さらにそこにカルヴィン・ハリスなんだから、それはそれはもう、えらいことになっていました、この日。
カルヴィンのプレイ中のフロア、ギュウギュウであがりっぱなしですさまじく暑い、という状態を超えて、なんかもう、空気、薄かった。終わって外に出た時、「ああ、ドラマとかで田舎に行くシーンなんかでよく言う、『空気おいしい』ってこういうことかあ」と思いました。子供の頃から現在に至るまで、「あれ、虚構の世界の慣用句だよなあ、空気に味なんかねえよ」と思っていたんだけど、初めて実感しました。
さて。初めて生で拝んだカルヴィン・ハリスは、なんというか、素朴。あのウロコみたいな、「見えるのかそれ」という疑問を持たずにはいられないサングラスを装着した、この間当サイトでもアップしたPVとかの姿から、ちょっとエロくてグラマラスで洒脱、みたいなイメージを勝手に持っていた。しかし、1時半ちょっと前くらいにDJブースに立ったその姿は、なんというか、スコットランドの片田舎で部屋に籠もってシコシコと音を作ってはマイスペにアップしていた……いや、そんなキャリアじゃない。そもそもいっぺんデビューしたけどあんまり上手くいかなくて、故郷に帰ったあとにマイスペ知ったらしいし。だけど、ついそんなストーリーをあてがいたくなるような、そんなもっさりしたたたずまいの方でした。で、終始、楽しそうにプレイしていた。好感を持ちました。
プレイはかなり自在。マックのノートパソコンを前にして、かなり直球で硬派なハードハウス寄りの四つ打ちでスタート。アルバムのベタなまでにポップで下世話なノリからすると、意外だなあとか思っていたら、だんだんそんなポップで下世話な方向へ以降。と思ったら、またストイックな方向へ振れる。と思ったらまた……という感じの、振り幅の大きなプレイなんだけど、そうやって両端のどっちかに振れるたびに、フロアがあがるのだ。あがって、下がって、またあがって、ではなく、あがって、あがって、あがって、あがって、なのだ。後半、リズムに合わせて「オイ! オイ!」とコールが巻き起こったり、しまいには肩車されてブースに向かって両腕を振り上げる奴まで出る始末。ロック・フェスじゃないんだから。なんだかもう、全然AIRぽくない空間になっていて、笑いました。
でも、「でも」じゃないか、「だから」楽しかった。それに、こんなに熱烈歓迎されて、本人、うれしいだろうなあとも思った。実際、とてもうれしそうに、フロアを何度もあおっておられました。いい夜でした。(兵庫慎司)
カルヴィン・ハリス @ 代官山AIR
2009.09.18