筋肉少女帯 @ 赤坂BLITZ

この日と前日(21日)のBLITZ・2Days公演はわざわざ『レアナンバー大解放!再発記念限定初期曲の2夜』と銘打たれているように、88年のメジャー・デビュー・アルバム『仏陀L』から93年の『UFOと恋人』まで8作品(要はトイズファクトリー在籍時のアルバム)が再発されるということで、ご丁寧に2日間にわたってみっちりとこの8枚の楽曲だけをやり倒そうというライブである。ちなみに1日目・21日が最初の4枚=『仏陀L』『SISTER STRAWBERRY』『猫のテブクロ』『サーカス団パノラマ島へ帰る』、2日目となる今日が『月光蟲』『断罪!断罪!また断罪!!』『エリーゼのために』『UFOと恋人』からのセットリストとなる。が、大槻ケンヂが「昨日も来てくれた人!(はい! はい! と観客が一斉に挙手)……ほとんどカブってます(笑)」と言っていた通り、あくまで2日間を1セットと見なしているディープなファンがフロアを黒く染めていた(筋少のTシャツも黒系が多いが、それ以外にもメタル系の黒Tシャツが圧倒的に多いせいだ)ことを付け加えておきたい。

赤ターバンでアコギをかき鳴らすオーケンに導かれて“風車男ルリヲ”の暗黒7拍子が炸裂! そして“少年、グリグリメガネを拾う”であっという間にフロアはモンキーダンスと「アイ! アイ!」の大合唱へ雪崩れ込む。例によってマーシャル・アンプ8段積みの超絶美麗ギタリスト・橘高文彦をはじめとするゴージャス・ハード・メタルなアンサンブルは、普通に聴いてるだけで全身がびりびりする音圧。余裕でこのまま武道館あたりでやれそうなステージ・セットをそのままBLITZに持ってきているのだから無理もない。そして、特に再始動後の筋少サウンドを支えてきた長谷川浩二ではなく、この日のドラムはベテラン・ファンキー末吉。「爆風スランプのドラマーが筋少で叩く日が来るとは……」といった80年代リアルタイマーとしての個人的感慨はさておき、「爆発力!」「推進力!」という感じの長谷川のドラムとは異なり、同じドラム・フレーズでもじっくり、がっしり、という感じに響いていたのが面白い。

「『月光蟲』の時代から聴いてた人!」というオーケンのコールに、半分近いオーディエンスの手が高々と上がる。「今日は何の日だ?……敬老の日じゃあない! 『国民の休日』だ! 我々も『筋肉少女帯国』として独立しようぜ! 今までさんざん差別されて、しょっぱい思いしてきたんだから! ここにいる数百人、今ならみんな官僚になれるぜ!」と長年のファンの高揚感とルサンチマンと煽りつつ、「独立するならば、国歌は何がいい? 俺はこれがいいと思うんだ」と『探偵ナイトスクープ』のテーマでお馴染みの円広志“ハートスランプ二人ぼっち”を歌い上げて会場を苦笑失笑の渦に巻き込んでみせる。

なお、ディープなファン向けのライブ企画ということで、このところ顕著だったMCのグダグダ具合にはさらに拍車がかかっているようで、「昨日は1枚目から4枚目の曲をやった! 今日は4枚目から8枚目……じゃなかった、5枚目から!」と、せっかくのキメ台詞的MCをオーケンが噛んでしまったり、1日目でせっかく告知した12月22日のライブ情報の会場が間違っていたり(誤:SHIBUYA-AX、正:赤坂BLITZ)、それをステージ後方で聞いていたサポート・ピアニスト=三柴理が「AXなんて予定聞いてなかったから、『クビか?』と思った」とぼやくハメになったり、渾身の激濃スラッシュ・メタルが怒濤のように押し寄せる“スラッシュ禅問答”の前にはさすがにバテた風のオーケンが「次の曲さ、やる? 本当にやる?」と冗談とも本気ともつかない様子でメンバーとオーディエンスに尋ねてみせたり……それでも、演奏が始まった瞬間に圧倒的な技術と音圧で空気を塗り替えてしまうあたり、さすがとしか言いようがない。

“イワンのばか”や“踊るダメ人間”などすでに00年代に蘇ってしまったアンセムはもちろん、『エリーゼのために』から“人生は大車輪”“世界の果て~江戸川乱歩に~”“ソウルコックリさん”3連発が飛び出したり、『断罪!~』の“猫のおなかはバラでいっぱい”がアコースティック・セットで聴けたり……と、次々に筋少タイムカプセルが開封されて、禍々しくも壮絶で爽快なヘヴィ・ロックが2009年の秋空に放たれていった。アンコールではオーケンが「(キリンのCM)『ポストウォーター』の時に着てた」という紫のド派手なコートを着て登場。当然誰もが“君よ!俺で変われ!”をやると思ったところへ叩きつけたのは、よりによって“タイアップ”。当時の筋少のCMタイアップ連発ぶりを皮肉った超自虐ソングである。

2日間で40曲、しかも「筋少の曲は難しすぎてトリビュート盤が作れない。誰も弾けないっていうから」とオーケン自身が言うほどの超絶プレイのオンパレードの酸欠楽曲群だけに、さすがに名手・ファンキー末吉のドラムも走りがちになるのも無理はない。「2日間やって、わかったことがある!」と、“踊るダメ人間”でオーディエンスの残りのエネルギーを完全燃焼させたところで、オーケンが語る。「懐古主義的な意味ではなく、現在・未来を見据えた上で、筋肉少女帯は……」と真面目に締め括るのかと思いきや、「ひじょーーに、いい塩梅だと思います!」と、エンディング“じーさんはいい塩梅”へのただのフリだったりする。この日も最後の最後まで食えない曲者の筋少なのだった。そして、冒頭に挙げた8枚のアルバムのみならず、映像作品『三年殺し』『KIN-SHOWの大残酷』も、12月2日に再発決定!(高橋智樹)

1.風車男ルリヲ
2.少年、グリグリメガネを拾う
3.人生は大車輪
4.世界の果て~江戸川乱歩に~
5.ソウルコックリさん
6.暴いておやりよドルバッキー
7.くるくる少女
8.パブロフの犬
9.猫のおなかはバラでいっぱい(アコースティック)
10.高円寺心中
11.愛のリビドー(性的衝動)
12.スラッシュ禅問答
13.バトル野郎
14.サボテンとバントライン
15.イワンのばか
16.きらめき

アンコール
17.デコイとクレーター
18.タイアップ
19.踊るダメ人間
20.じーさんはいい塩梅
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